血の濃さと狂気の陰
高い身分に生まれついた彼女の親類縁者は皆、どこか欠けていた。
色欲に狂い、残虐性を持ち、狭量で、小さな違和感にも耐えられない……、そして皆、聡明で天賦の才としか思えない程の卓越した力を誇り、それを迷わずに振るい続けていた。
決断の早さと実行力は、血のすべてに遺伝していた。
領土を民を奪われる事が何より恐ろしいと、血のはじまりの英雄は思った。
慈しみ、育て、護ることこそ何よりも尊いのだとその妻である王女は信じていた。
新しい血が入ると領地内にはいつでも小競り合いが生まれた。
やがて彼女の家には国の主にも劣らないほどの身分が与えられ、血の尊さは極められた。
親類ではない、低い身分の者たちからの縁談は絶えていった。
英雄と王国の姫の2人から、3つの家系が枝分かれしたが、領地を治めるのには必ず一番血の濃い者が選出される様になった。
それは護るために。
それは間違えないために。
それは恒久の安寧の為に。
しかし、尊い血は傑物を生み出したが歪みも産出していった。
誰にも劣らない当代。
誰にも侵されない規範。
誰にも近付けない濃く深い血の澱み。
護る筈だった領地内では、その一番上に気高く座る高貴な血によって数多の生命が粛清されていった。
もっと完璧に。
もっと整然と。
もっと早く回る民と思想を。
求めは苛烈になっていく。
かの血に認められ無ければ誰も生きては行かれない。
逃亡者も反乱も全て尊い血が刈り取ってしまった。
賢い者は口を閉ざして血に忠義を誓った。
跪く民とひとことふたこと会話を交わした領主は口角を上げて人を仕分けていった。
それがいちばん、早かったから。
そして最も認められた臣下は領主の傍に常に控えさせられた。
飢えが領主を襲った時に、誰より早く、その空洞を埋められるように。
領主が家臣を襲って嬲っているその時に、彼女は生まれた。
領主の娘として、花開くように、濡れた白玉のように、美しく濃く赤く染まりながら、この世界に産み落とされた。




