特注品の牢獄
閲覧注意です。史実をそのまま書いた物ではありません。ファンタジー(幻想小説)に近いです。
血の濃すぎた、位の高い姫君がいま、汚物と臭気に塗れたベッドから生命を落とそうとしていた。
豪奢な飾りも特別に許された意匠の紋章も着こなすのが難しい程の宝石を縫い付けた厚く重たいドレスも彼女の傍にあり続けた。
かがみがおそろしい、と彼女は最期に思っていた。
黒く昏い鏡を見ること。
それは彼女のしたこと、生きてきたことへの最も重い罰だった。
――鏡を見るのが恐ろしい――
彼女は枯れた唇を震わせた。
かつて彼女が一番注視していたもの。
それが、自らの美貌を余すことなく映し出してみせる鏡だった。
死より罰より、彼女にとって美しさ以外を映す鏡の存在はむごたらしい原罪だった。
――それほどのことを、私がしたというの――
彼女には、永遠にそれは解らない事だった。これほどの罪が何故自分に告げられたのか。
血の濃さ。高い位。美貌に教養、知恵に才覚。
鏡はいつも彼女を美しく映し出した。
彼女にとって、それだけは常に大事なことだった。
――うつくしくいなくては、わたくしは――
「愛、され……て、い……なく……て、は」
最期に虚しく声に出した言葉が、彼女の純粋な本心だった。
愛される美貌を持っていなくては、華でいなくては、私は、私の存在には、意味がないではないか。
彼女の寝室は何処も塞がれていた。
逃げる事も誰かの声を聴くことも出来ない、その豪奢なベッドは彼女の為の特注品の牢獄だった。
裁かれる意味も解らないまま、彼女は夏の終わる前に息を引き取った。
愛くるしく、屈託なく、邪気など一切なく、遂に娘のままで、彼女は死んでいった。
血の濃さ、そしてその内側の血を満たすことを外界に求めてしまった為に魂を乱されてしまった、永遠の乙女。高貴なる姫君。美しいむすめ。
何世紀かが過ぎ。
――貴女の事切れたその日に。私はこの世にうまれ出た。




