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魔女ちゃんの仰せの儘に!  作者: 越谷さん
【第2章】二人の魔女ちゃん

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【第34話】魔女ちゃんの学校戦争③

 服巻高校のグラウンドで行われる二人の決闘。互いの武器が激しく衝突し合うが、その様子はどちらかというと守雄が優勢のように見えた。

「さっきまでの威勢はどうした! そんなんじゃあ俺は倒せないぞ!」

 炎の揺れる刺股を振り回し続ける守雄は、対する信介にそう挑発する。

 確かに信介は迫り来る刺股を竹刀で受け流すだけで、その弦を守雄に届かせようとしていない。額からは熱の影響で汗を垂らしていた。

「そう慌てるな。今貴様を倒す方法の二十策目を考えているところだ」

 既に十九の策は出来ていると、信介は挑発を挑発で返す。その瞳は虎視眈々と機会を窺っているようだった。

「戯言を……!」

 額に血管を浮かばせた守雄は、信介に刺股を突き刺す。真正面から迫ってきた刺股を、信介は竹刀で受け止めた。

 しかし刺股は先が二つに分かれた道具。竹刀で受け止められたその先で、炎の揺れる刺股の先端が信介の左肩と右腰に接触した。

「ぐっ……!」

 守雄がぐっと力を入れると、信介の体に触れる刺股が更に押し出される。零距離で燃える炎に体は焼かれ、火傷とは比にならない程の痛みに蝕まれた。それでも竹刀を握り締めて両足で立っていられるのは、信介の精神力だから出来る御業だった。

「そもそもあんな女一人どうなろうと知った事じゃあないだろ」

 その時信介の耳がぴくりと反応する。

「桃様とは立つステージが違う。大人しく桃様の命令に従うべきだ。お前もあんな女の為に戦う必要なんてない。そうだ。これを機にお前もももえんに入会すると」

「黙れ」

 流暢に語り出した守雄の口を、信介が止める。ふと押し出していた刺股が、徐々に押し返されている事に気付いた。

「これ以上その口を開くな。反吐が出る」

 信介は竹刀に力を入れ直すと、守雄の刺股を空に向けるようにして押し返した。

 瞬間竹刀の弦が淡く白い光を纏う。空の魔法によって空気を集約した竹刀を、信介は守雄に向けて容赦なく振るった。すると守雄の握っていた刺股が綺麗に四等分に切断され、炎の揺れていた先端はグラウンドに落ちてしまった。

「なに!?」

「魔法とは悪魔を葬る為の力。人間相手に使うべきではないと思っていたが、貴様が考えなしに使っているのだから考えるだけ無駄だったな」

 ただの二本の棒になってしまった武器に、守雄は目を落とす。信介がなかなか攻撃に転じないのは、そういった葛藤が原因だったようだ。

「さて……残すは貴様だけだ」

 今も白く光り続ける竹刀を、信介は高く掲げる。地面に落ちた刺股だった物を見て、信介が口にした「残すは貴様だけ」の意味に察しがついてしまった。

「まっ、待て! 落ち着け!」

 慌てる守雄に、信介は一歩ずつ距離を詰める。刺股を一瞬でバラバラにした竹刀で斬られたら一体どうなるのか、考えるだけでも悍ましい。武器を失った守雄には、最早命乞いしか手が残されていなかった。

 しかしそれでも信介の足は止まらない。

「覚悟ぉ!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 振り下ろされた竹刀が、守雄の脳天に振り下ろされる。

 竹刀を頭で受け止めた守雄は、そのままグラウンドに倒れる。しかしその頭から血は垂れていない。守雄に直撃する寸前で、信介は魔法を解いていたのだ。斬られたと錯覚した守雄は、頭に落ちた衝撃と合わせて意識を失ってしまった。

「馬鹿が。本気で斬る訳ないだろう」

 地面に倒れる守雄に、信介は溜息を吐く。意識の失った守雄は、恐怖に顔を歪ませて白目を剥いていた。

「と、こんなところで油を売っている場合ではなかった。一刻も早く日和のもとへ駆けつけなければ」

 元を辿れば、信介は日和を守るべく学校にやってきたのだ。炎で焼かれた部分は今も尚痛むが、それが立ち止まる理由にはならない。学校の外へ逃げた日和を助けるべく、信介は足を校外へと踏み出した。

 その時信介の足がぴたりと動きを止める。

「ん?」

 どれだけ前に動かそうとしても、信介の意思に反して足は動こうとしない。似たような状況を、信介は以前にも経験した事があった。

 信介は思い出す。日和がグラウンドを離れる際、信介に言い放った命令を。

「!?」

 そして信介は理解した。日和がグラウンドに戻ってくるまで、決して「ここ」から動く事は出来ないと。

「日和ぃ! 助けてくれぇ!」

 日和を助けに来た筈なのに、気付けば日和に助けを求めていた。信介の情けない絶叫は、グラウンドに空しく響いていた。


♡


 一方で渡り廊下の激闘も、その激しさを更に増していた。迫り来る眷属達に、御影が櫛を突き立てていく。一人の眷属を戦闘不能にした途端、また別の眷属が襲い掛かり、御影は堂々巡りの中に立たされていた。それでも御影は疲労の色を見せる事なく、眷属達に櫛を刺していく。

 そんな激闘の最中、京花が口から息を吹くと燃え盛るような炎が渦巻いた。

「!」

 眷属の相手をしていた御影は、その眷属を庇いながら炎から退避する。少し対応が遅れ、御影の前髪から少し焦げ臭い匂いがしていた。

「仲間も巻き添えにして攻撃とは、なかなか手厳しいね」

 御影が庇っていなければ、今頃眷属は火だるまになっていた事だろう。助けてくれたにも関わらず、眷属は感謝を伝えるどころか今も御影を襲おうとしている。そんな眷属の胸を御影は櫛で斬り裂き、そのまま廊下に眠らせた。

「桃様から力を得たももえんの会員達は、皆炎に耐性が付いているのです。私の炎では火傷の一つもしませんよ」

 仲間を巻き添えにしての攻撃ではなかったと、京花が訂正する。だからといって仲間諸共火の海で焼こうとするのは、正気の沙汰とは思えなかったが。

「そうか……確かにずっと額の火も燃え続けてるもんね」

 御影に襲い掛かる眷属達は、今も額に炎を揺らしている。炎の魔女の眷属に炎耐性が付いているのは、当然の事なのだろうか。

「というか、なんでこの炎は他の人には見えていないの? さっき他の子に訊いたら、なんの話だか分からないって顔されたんだけど。もしかして君が吹いてる炎も、他の子からは見えてないのかな?」

 眷属の額に揺れる炎が、一般人には視認できない事は御影も気付いていた。やはり魔女や眷属、エクソシストといった悪魔を認識できる人間でないと、この炎を視認する事は出来ないらしい。それであれば京花の吹くこの炎はどうなのかと、御影は一つの疑問を抱いた。

「この方達には少量の魔力しか分け与えられていませんからね。この程度の魔力では、一般の方々には見えません。一方私の吹く炎は高い魔力で出来ていますから、一般の方々にも見えているでしょうね」

 という事はこの渡り廊下の激闘も、他の生徒や教師に見られれば大きなトラブルとなるだろう。その前に京花との激闘に決着をつけなければならない。

「少量の魔力しか分け与えられていないってのは、これだけ眷属が居るのに悪魔の目撃情報が一切なかった事となにか関係があるのかな?」

 背後から迫ってきていた眷属をノールックで倒しながら、御影が京花に問い掛ける。

「残念ながら、私は貴方とお話しに来た訳じゃないんですよ」

 そう言って京花は御影に再度炎を吹く。御影はそれを躱しながら、側に居た眷属に櫛を突き立てた。

「つれないなぁ。そんな事言わないで、もっと僕と話そうよ」

 おどけた調子で、御影は京花に声を掛ける。会話の中から、隙を窺おうという魂胆のようだ。

「やっぱり僕は君の事について詳しく知りたいな。どうして他の眷属が少量の魔力しか分け与えられていない中、一年の君が大量の魔力を分け与えてもらえたのかとか」

「……随分とお話好きなんですね」

 一向に口を閉じようとしない御影に、京花は微笑む。

「でもそうですね。貴方に桃様がいかに素敵な方かお伝えする為にも、特別にお話しして差し上げます」

 気が変わったのか、京花は数分前の発言を撤回して、徐に思い出話を始めた。

「あれは私がこの高校に入学する前、体験入学で訪れた時の事です」


♡


 約一年前の夏。京花は夏休み期間中に行われていた、服巻高校の体験入学に参加していた。蒸し暑い体育館で簡単な説明を受けた中学生の参加者達は、その後屋外の通路を通って校舎見学へと案内される。

 セーラー服姿の京花も同じ中学校の友人達と一緒に、校舎見学へと通路を歩いていく。しかし当時の京花は、今よりも内向的な性格だった。一緒に来た友人達は、少し先を歩いて仲良さそうに話をしている。別に仲が悪い訳でも、距離を置かれている訳でもない。ただ時折こうして、自分とは発している波長が違うのだと勝手に決めつけてしまうのだ。

 不意に吹いた夏風が、京花の持っていた学校紹介のパンフレットを吹き飛ばす。慌てて拾い集める京花だが、先を歩く友人達はなにも気付かない。京花との距離はみるみるうちに離れていき、気付けば友人達は校舎の中へと姿を晦ませた。

 特に悲しいという感情さえ湧いてこない。校舎見学は自分のペースで回ろうと、京花はゆっくりと資料を拾っていった。

「大丈夫?」

 最後の一枚を拾おうとした時、ふと誰かがその資料を手に取る。

 顔を上げると、目の前にあったその美貌に京花は目を奪われた。鮮やかな緋色の髪に睫毛で映えた瞳、吸い込まれてしまいそうな潤った唇は、まさか自分と同世代とは思えない程に美しかった。

「あっ、ありがとうございます」

 彼女の差し出した資料を受け取って、京花は立ち上がる。礼を告げた際も、真面に目を合わせられなかった。

「体験入学の子ね? 他の友達は居ないの?」

 そう口にした彼女は、パンフレットに乗っている服巻高校の夏服と同じ服装をしている。夏休み期間中だが、なんらかの理由で学校に来ていたのだろう。

「はい……私がどんくさいから、いつの間にか置いてかれちゃいました」

 周囲を見回す彼女に、京花は照れ笑いを浮かべる。別に慰めを期待して言った言葉ではない。ただ友人達は悪くないと、京花なりに気遣っての言葉だった。

「ふーん……」

 それでも少し寂しそうな表情を見せる京花に、彼女は微笑む。

「私だったら絶対、貴女を一人になんてさせないけどな」

「……え?」

 糸目の瞳に映った彼女の笑みはあまりにも妖艶で、一瞬で京花の心を鷲掴みにした。

「それじゃあ体験入学楽しんで。もし来年入学してくれたら、その時はよろしく」

 そう言って彼女は手を振ると、背中を向けて校舎の中へと歩いていく。校舎からは彼女とすれ違うように、京花が居ない事に気付いた友人達が慌てた様子で戻ってきた。友人達は「ごめんね」と謝罪をしたり、「校舎綺麗だよ」と一緒に行くよう手招いたりしている。しかし京花はそんな友人達には目も暮れず、ただ彼女の居なくなった校舎の先を見つめていた。

 この時から彼女――穂村桃は、京花の意中の人となっていた。


♡


「それから私は桃様の居るこの高校への入学を決め、ももえんに入会しました。私の熱い忠誠心に気付いてくれた桃様は、私に高い魔力と側で仕える権利を与えてくださったのです」

 桃との出逢いの一部始終を、京花は語り終える。迫り来る眷属を次々に対処しながら、御影は京花の話に耳を傾けていた。

「成程。その頃から穂村桃は、眷属の勢力拡大に動いていたのか」

 御影のその呟きは、京花の逆鱗に触れた。

「……なんですって?」

「申し訳ないけど、入学もしていない君に彼女がそんな行動を取る理由は、それ以外に考えられないよ。その頃から彼女は君に目をつけていて、君は彼女の思惑通りに入学し、使い勝手のいい便利な側近になった」

 情報を集めて把握した桃の人物像は、見ず知らずの他人に純粋なる善意でそんな行動をすると思えない。御影の予想は恐らく的中しているだろう。しかし京花はそう断言する御影が許せなかった。

「だからなんです!? 桃様は私を初めて理解してくれた人なんです! 例えそこに思惑があったって関係ない! 私はただ桃様に忠誠を誓い続けるだけです!」

 本当は京花も分かっていた。自分も桃の掌の上に立っているだけという事を。それでも京花はいいと思えた。それだけ京花にとって、桃は特別な存在となっていたのだ。

「彼女は君の事を理解してるとは言えないよ」

「分かったような事を言うな!」

 我慢の限界を迎えた京花は、怒りのままに空気を吸い込み、今までで一番の火力の炎を御影に向けて吹き出した。御影はその炎を鮮やかに回避し、京花の側へと距離を詰める。炎を吹き続けるにも限界があり、京花は息を整える。そんな京花の口元に、御影はそっと左手の人差し指を当てた。

「だって炎なんて吹いてたら、キスの一つもできないじゃないか」

「……え?」

 眼前に急接近した御影のキラキラな王子様スマイルに、京花は糸の様に細い瞳をぱちくりと開眼させた。

「ごめんね」

 瞬間京花の首筋に優しい衝撃が襲い掛かり、京花は意識を失う。倒れた京花の体を、御影は優しく抱きかかえる。意識を失う寸前に見せた京花の表情は、正しく恋する乙女のものだった。

「ふぅ……これでようやく楽になるかな」

 素敵な夢でも見ているのか、御影の胸で心地よさそうに眠る京花を渡り廊下の隅に移送する。これで全身大火傷という心配はなくなった。ここからの戦闘はかなり楽なものになるだろう。

 ふと視線を前に戻すと、残り僅かとなった眷属が御影の様子を窺っている。渡り廊下の激闘も、終わりが近くなっていた。

「さて……そろそろ本命に動かせてもらうよ」

 自分の目標に向けて、御影は櫛を構え直した。


♡


 どれ程走っていたのだろうか。ただ逃げるのに夢中で、時間など気にしていられなかった。

 学校から逃げ続けた日和が辿り着いたのは近くの自然公園。見ているだけで疲れを癒してくれるような草花や、周期的に美しい舞を披露する噴水が見える。しかし平日の朝という事もあって他に人影は見当たらず、制服姿で全力疾走をした日和に注目が集まるような事はなかった。

 学校からの距離を考えると、およそ5km走り続けていたようだ。流石に体力の限界がきて、日和はその場で足を止めて手を膝に突いた。

 これから一体どうするべきか。スマホの入っている鞄は教室に置いたままで、連絡手段は持ち合わせていない。考えなしにここまで走ってしまったが、まずは家に帰って典子やニエに助けを求めるのが無難だろう。酸素の行き渡っていない脳で、日和はそう考えていた。

「随分走ったわね」

「!」

 不意に声が聞こえてきて、日和は振り返る。

 そこに立っていたのは緋色のショートカットを靡かせる女子高生と、眼鏡を掛けた寡黙な男子高生。息を荒げる日和と違って、二人は澄ました顔をしていた。

「桃先輩……」

 日和を見下ろして、桃が不敵に微笑む。その微笑が、日和を窮地に追い詰めていた。

今回は信介×守雄、御影×京花をメインに書きました。


実は京花は最初存在しないキャラクターでした。桃と翔平を除いて、名前のある炎の眷属は守雄だけにしようと思っていたのですが、桃の側近という立場や御影との戦闘シーンを思いついたので急遽追加。決めたのは京花の登場シーンを書く直前でした。

そんな急遽決まった訳ですから、どういうきっかけで桃の側近になったのかなにも決めていません。どうして彼女は桃の眷属になったのか僕も気になって、今回の話を書きました。

守雄が眷属になったきっかけは、現状書く予定がありません。どうせ桃に一目惚れして告白したとかそんな感じです。

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