↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女ちゃんの仰せの儘に!  作者: 越谷さん
【第2章】二人の魔女ちゃん

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/26

【第21話】魔女ちゃんの休日 前編

 もう一人の魔女である穂村桃と邂逅したその日の夜、日和は家に帰ってすぐに問い詰めていた。

「ニエ様! 眷属の契約を解除する方法ってあるんですか!?」

 鞄もソファーに放って、日和は寝床で丸くなるニエに顔を寄せる。

 幼少期、日和はニエと典子に「眷属の契約を解除する方法はない」と教えられていた。しかし今日桃から「解除する方法はある」と聞かされ、どれが真実なのかここで白黒はっきりさせる必要があった。

 鬼気迫る様子の日和だったが、目の前のニエはのらりくらりと尻尾を揺らしている。

「なんじゃ、バレてしまったのか」

「なっ!?」

 ニエの白状はあまりにもあっさりしていた。ミステリードラマでトリックを暴かれた犯人の様に、少しは狼狽えるかと思っていたのだが。

「どうして今まで騙してたんですか!?」

 家の中で大声を上げる日和に、何事かと典子や利久もリビングに集まってくる。今までずっと家族に嘘を吐かれていたという事実が、日和の胸を絞めつけた。

「どうしてもなにも、お前を守る為じゃ」

「!」

 そう口を開いたニエに、日和は顔を弾かせる。

「良いか? そもそも眷属の契約を解除する事など、本来あってはならん事なのじゃ。一度眷属になった者は、生涯主人である魔女に忠誠を誓う。それが眷属の鉄則じゃ。契約解除の手段は用意されているものの、それを使うのは特例中の特例じゃと思え」

 眷属とは魔女に命を捧げ、あらゆる魔の手からその命を守り抜く存在。一度誓った忠誠を破るという事は、それ相応の理由が必要なのだろう。

「それに日和、お前は優し過ぎる」

 ニエの言葉が日和の胸に刺さる。

「なにか眷属に身の危険があった時、お前は耐え切れずに眷属との契約を解除しようとするじゃろう。そしたら一体誰がお前を守る。お前が一時の甘い感情に流されぬよう、典子と話し合って、お前に真実は伏せるようにと決めたんじゃ」

 幼い頃から日和は優しい子供だった。それはとても微笑ましい事だったが、それと同時に成長した彼女を苦しめかねない事だった。親というものはいつだって、悲しんでいる子供の姿を見たくない。

「ごめんね日和。でも私達は、貴女を守りたくてそう決めたのよ」

 顔色を窺うようにして、典子が日和に声を掛ける。じっと見つめる利久の瞳からも、日和を心配しているのが分かった。

「……分かってる。別に怒ってる訳じゃないよ」

 親の愛情が分からない程、日和は馬鹿ではない。つい声が大きくなってしまったと反省して、日和は声の音量を元に戻した。

「それで、どうするんじゃ」

「え?」

「彼奴の契約を解除するのか?」

 ニエの問い掛けに、日和の喉は詰まる。

 ニエが彼奴と呼んだのは、決して幼馴染の大学生ではない。日和の第一眷属である大我だ。

「彼奴は性格こそ難があるが、腕っぷしは悪くない。おまけに魔力の操作も覚えて、本格的に悪魔と戦えるようになった。ここで手放すには惜しい眷属じゃ」

 噂される不良の実力は伊達ではなく、その戦闘力は折り紙付きだ。ここまで戦闘に長けた人間もなかなか居ないだろう。彼の実力があってこそ、日和は林間学校も生きて帰ってこられたのだ。

「彼奴が解除してくれと頼んできたら、お前は契約を解除するのか?」

 大我と口付けを交わしたあの日から、大我はずっと契約の解除を望んでいた。だからこそ桃に契約解除の方法を尋ねたのだろう。そもそも日和が大我を魔女の世界に巻き込んだのだ。契約解除の方法が分かった今、彼を止める理由はどこにもない。

「それは……」

 上手く頭の回らない状態で、日和はそれだけ口を溢す。どれだけ答えを探してみても、最適解はどこにも見当たらなかった。

 その時、ソファーに放った鞄からピコンッと通知音が鳴る。

「!」

 行方知れずの答えから逃げるように、日和は鞄の中のスマホに助けを求める。そこに訪れた通知は、日和の思い掛けないものだった。

「え?」

 それは先日作成された『bestfrienD』に送られた連絡。

『皆ー』

『今度の日曜暇ー?』

『もし空いてたら五人で遊び行こうぜー』



 集合時間は十時。日曜の駅前は束の間の休日を楽しむ人達で賑わっていた。

 既に過ぎている時間をスマホで確認しながら、日和は息を荒げて足を走らせる。水色の襟付き半袖シャツに白のスカート。いつもの様に髪を二つに結んでいると、気付けば出発予定時間を過ぎてしまっていた。

「おっ来た」

 時計台の前で待ち合わせていた桂馬が、日和に気付いて右手を振る。日和以外のメンバーは全員揃っているようだ。

 桂馬は無地の白Tシャツに、黄緑の半袖シャツを羽織っている。普段よりも丁寧にセットされた髪型の下には、体調の悪そうなクマが腰を据えていた。

 隣の真琴は紺色のデニムジーンズに、オーバーサイズの黒Tシャツをインしている。真琴の脚線美が、ジャストサイズのスキニージーンズによって浮き彫りになっていた。

 コレットはオレンジの半袖パーカーに黒のチノパン。肩には黒のショルダーバッグが掛けられており、両目は今日も今日とて前髪で覆われていた。

「ごめん遅くなって!」

「別に気にしないでいいよー。女の子ってのはなにかと準備に時間が掛かるもんだからな」

「なんでアンタが分かった風に口きいてんのよ」

 到着と同時に頭を下げた日和に、桂馬が答えて真琴がツッコミを入れる。とはいえ学校で優等生な日和が遅刻をするとは少し意外だった。

 それよりも意外だった人物に、桂馬は目を向ける。

「でも、まさか黒島が予定通りに来るとはなー」

 一同とは少し離れた位置に立っていた大我が、こちらにぎろりと視線を突き刺す。黒のTシャツに黒のジャージパンツ、キャラクター物の健康サンダルと、先日のデートから上のジャージを脱いだだけのような装いだ。

「……んだよ」

「いやー黒島って集合時間に一時間とか平気で遅刻してきそうじゃん?」

「うん」

「時間ぴったりに来たからちょっと不気味だった」

「テメェら……!」

 好き勝手に言ってくる三人に、大我は頭に血を上らせる。

 三人の予想は概ね正解だ。そもそも大我はLINEの通知が来た時、休日に集まるつもりなど毛頭なかった。しかし昨夜日和から突然電話が掛かってきたかと思えば、『()()()()()()()()()()()()()()()()!』と命令されてしまい、気付けば主人よりも早くに時計台前に到着していた。まさか通話越しでも絶対服従の効力があるとは思いもしなかったが。

「天宮さん私服可愛いねー」

「うん」

「ほんと? ありがと」

「それに比べて黒島酷過ぎだろー」

「ほんと、とても人と出掛ける時の服装とは思えん」

「黙って聞いてりゃ好き勝手いいやがって!」

「黒島くん()()()()()!」

 今にも暴れ出しそうな大我を、日和が命令で宥める。それでも大我のコーディネートに容赦なく言葉を吐く二人に、日和は内心スカッとしていた。

「それで、今日はどこに行くの?」

 全員が揃ったところで、真琴が桂馬に尋ねる。集合場所と時間を知らされただけで、目的地についてはなにも知らされていなかった。

「ん? なにも決めてないけど」

「はぁ?」

 それは集合を掛けた張本人も知らないようだ。

「なに、今日どこか行きたいとこあって呼ばれたんじゃないの?」

「んーん。ただ皆と遊びたいなーと思って呼んだだけ」

「なんだそれ」

「だから皆で話し合ってどこ行くか決めようぜー」

 楽観的な調子の桂馬に、真琴は呆れて溜息を吐く。とにかく折角の休日を駅前で浪費する訳にはいかないので、一同は今日の行き先について語り出した。

「……おい」

 話し合いの最中、大我が小声で日和を呼ぶ。

「あの女の事は家族に話したのかよ」

 大我の言う「あの女」とは桃の事だろう。大我の問い掛けに、日和も一同の輪から足を少し後ろに下げて口を開いた。

「……うん。桃先輩の考え方については、ニエ様はそこまで否定的じゃないみたい。眷属は多い方が自分の身を守れるって、寧ろ肯定的だった」

 桃の事に関しても、勿論日和はその日の夜にニエに相談していた。自分と同じような意見を期待していたのだが、ニエの口から出てきたのは寧ろと桃と似た意見だった。一般的な魔女の考え方としては、きっと日和がマイノリティなのだろう。

「でもやっぱり私は……ましてや殺すだなんて……」

 例え自分がマイノリティだったとしても、桃の考え方には賛同できない。しかしだからと言って、御影の魔女狩りを手伝う気にもならなかった。

 折角の晴れ衣装に重たい顔持ちを見せる日和に、大我は自分の首に手を掛ける。

「……まぁ、人に言われたからって自分の価値観を曲げる必要はねぇだろ。どうするかはお前の好きなように決めればいい」

 大我の言葉に、日和は俯いていた顔を上げる。もやもやと思考で曇っていた日和の心に、すっと日が差してくるのを感じた。

 ふと同日に言われたニエの言葉を日和は思い出す。

「……なんだよ」

 じっとこちらを見てくる日和を、大我が見つめ返す。今はその鋭利な瞳と視線を交わすのが居た堪れなくなって、日和は慌てて目を逸らした。

「なんでもない」

 大我は今すぐにでも眷属の契約を解除したいのだろうか。その言葉が何故か口から出ようとはしないで、日和は口を籠らせる。明らかに様子のおかしな日和に、大我は首を傾げるばかりだった。

「おーい。なにやってんのー。早く行こうぜー」

 声が聞こえて振り向くと、気付けば桂馬達が歩き出している。どうやら二人が話し込んでいる間に、今日の行き先が決まったようだ。

 まだ二人の中で問題は解決しないままだったが、一同に置いて行かれる訳にはいかないと、二人も時計台から足を動かした。



 桂馬の先導に誘われて一同が辿り着いたのは、駅から徒歩数分の大型ショッピングモール。エスカレーターで最上階にまで上ると、そこは雑多な音楽とネオンの光で溢れ返っていた。

「ゲームセンター?」

 各種大型のゲーム機を目にして、日和が口を溢す。子供向けのレースゲームでは子供が愉快にハンドルを握っており、奥のリズムゲームでは大人も負けじと太鼓を叩いて休日を満喫していた。

「どこに行くか困った時はやっぱゲーセンっしょ」

 両手を頭の後ろで組みながら、桂馬はゲームセンターを歩いていく。その足取りや口振りから、桂馬がここの常連である事が窺えた。

「私、ゲームセンターってあんまり来た事ないかも」

「私も小学生の時に親に連れられて来た以来だな」

「僕もあんまり家から出ないから」

「え、マジで?」

 数年振りのゲームセンターを物珍しそうに眺める三人に、桂馬が振り返る。随分と驚いた様子だったが、その眠そうな瞳が醒める事はなかった。

「黒島は?」

 不意に話題を振られて、大我は顔を上げる。

「……中学の時はよく来てたな」

「やっぱり? ゲーセンって不良の溜まり場のイメージあるもんな」

「あ?」

 大我が不良仲間と共にゲームセンターに屯しているのは解釈一致で、桂馬はどこか安心したように踵を返した。日和も大我が格闘ゲームで遊んでいる姿は容易に想像できたが、これ以上は火に油を注ぎかねないと口を噤む。

「あ」

 すると桂馬の目に、とあるゲーム機が留まった。

「じゃあ黒島、これで勝負しようぜ」

 桂馬がそう言って駆け寄ったのは、長方形に台を構えたエアホッケー。群青色の台の中心には、白いネットが緩く張られていた。

「ほら、天宮さんもこっち」

「私も?」

「これ2vs2だから」

 手招きをされて、日和も桂馬の隣に歩み寄る。台の四隅に置かれている白いマレットを手に取って、日和は少しそわそわとしていた。

「ケッ、誰がやるかよ」

 勝負を持ち掛けられた大我は、興味など微塵もないようにそっぽを向く。そんな大我に、桂馬はにやりと口角を吊り上げた。

「へぇ……黒島、俺に負けるのが怖いんだ」

 瞬間、大我の憤りが沸点を超える。

「誰が負けるのが怖いって!? よし分かった! その勝負受けて立つ! 後から泣いて後悔したって知らねぇからな!」

 大我は鋭利な目付きを更に尖らせながら、桂馬と台を挟んで対立した。

「おい大森! お前も来い!」

「え、僕?」

「そう言ってんだろ!」

「はい!」

 声を荒げる大我の指名に、コレットも慌てて台の前に立つ。マレットを右手に掴んで、早くも応戦の準備は万全だ。

「よし、それじゃあ行くぜ」

 安い挑発にまんまと乗ってきた大我に、桂馬は口元を緩ませて、ポケットから取り出した百円玉を台に投入する。台は軽快な音楽を流しながら、試合開始の合図に白いパックを吐き出した。

 最初にパックが出てきたのは桂馬と日和の陣地だ。初めてのエアホッケーに困惑する日和を置いて、桂馬はパックに狙いを定めるとマレットで強く相手陣地に撃ち出す。

 パックは壁を反射しながら大我とコレットの陣地に侵入。なんとか止めようとマレットを動かしたが、パックは台の端に用意されたゴールに吸い込まれるように入っていった。

「よし!」

「凄い佐藤くん!」

「まぁざっとこんなもんよ」

 先制点の先取に日和は手を叩いて喜び、桂馬は自慢気に鼻を鳴らす。

「おい! なにぼさっとしてんだよ!」

「いや今のは黒島が守るべき……」

「あぁ!?」

「ごっ、ごめんなさい!」

 額に血管を浮かばせる大我に、コレットが委縮する。こちらのチームワークは目も当てられない程に悪かった。

 気を取り直して吐き出されたパックを、今度は大我が受け取る。大我が力任せにパックを弾くと、日和が不慣れなマレット使いでなんとか弾き返す。そうして返ってきた甘いチャンスを大我は見逃さなかった。

 大我はマレットを大きく振りかぶって、全力でパックにスイングする。流星の如く撃ち出されたパックは、目にも止まらぬスピードで相手陣地のゴールに突撃していった。

「速……」

 あまりのスピードに、日和は反応する事さえ出来なかった。大我と同じチームであるコレットですら、戦況についていけていない様子だ。

「……なかなかやるじゃん」

 そんな中、桂馬だけが面白くなりそうな勝負の予感に血を滾らせていた。

「頑張れー」

 二組の間に立つ真琴は、起伏のない声でエールを送る。その目は手元のスマホを追っており、勝負の行方すらも目にしていなかった。

 真琴の眼中にない戦況は一進一退の熱い攻防を続けており、点数は互いに六点。七点先取のこのゲームでは互いにマッチポイントだ。デュースはないようで、次の一点で勝負が決まる。

 吐き出されたパックを、両者ネットを挟んでラリーする。基本は大我と桂馬の一騎打ちだったが、桂馬がゴールを狙った時は守備のコレットがゴールを阻んだ。最初は初心者だった日和も大分慣れてきて、少しずつラリーに参加できるようになってきた。

 互いに勝負の時を待つ中、日和の弾き損ねたパックが緩やかにネットを潜っていく。千載一遇のチャンスだ。大我は陣地に戻ってきたパックに狙いを定めた。

「!」

 ――今だ!

 この一手で勝負を終わらせると、大我はマレットを大きく振りかぶる。王手を目前に、日和は黙って見ていられなかった。

()()()!」

 日和の声を耳にした途端、大我のマレットは空を力強くスイングする。

 マレットに衝突する事のなかったパックはそのまま直進していき、大我達のゴールにすぽっと入っていく。瞬間、ゲームセットのファンファーレが台から流れてきた。

「天宮ぁ!」

 遂に下された決着に、大我は角でも生えたのではないかと思う程の形相で日和に接近した。

「アハハハッ、やったー俺達の勝ちー」

「黒島ダッサ……」

「テメェなにしやがんだよ! あんなの反則だろ!」

「ごめん! つい口が滑って……!」

「あ、終わった?」

 問い詰める大我に、日和が申し訳なさそうに謝罪する。当然大我が日和の命令によって盛大に空振りしたとは知らない桂馬は純粋に勝利を喜び、コレットは惨めな大我に憐みの目を向ける。真琴に至っては、ようやく勝負が決した事に気付いたようだ。

 様々なゲームの音が衝突し合うゲームセンターの中でも、一同の声は一際響いていた。エアホッケーを楽しんだ一同は、次はどのゲームで遊ぼうかと再びゲームセンターを歩き出した。

折角仲良くなったので、林間学校のグループ五人組で遊びに行ってもらいました。

僕があまりオシャレに興味がないので、一同の私服選びにかなり苦戦しました。考える事自体は割と楽しいのですが、それを文章化する為に用語をネット検索しながら書いています。こうして出来上がった私服も、果たして今時の高校生らしいのかは分かりません。全員大我みたいな服装にしてくれると楽なのですが、そういう訳にもいかないので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。