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tea break  作者: ふゆき
22/30

年のはじめの。

ついこないだまで。


独りで住んでた頃は無駄に広い家を持て余し、使ってたのは、リビングの片隅をちょろっとと寝室だけ。


まるっと客室になっている二階部分は完全放置。


家についてきた家具ごと腐らせちまうもんだと思ってた。


テメエで選んだ家でなし。


広かろうが狭かろうが、雨風凌げる屋根がありゃあじゅうぶん。


贅沢を言うつもりなんざ、これっぽっちもなかったん、だが。


『一番広いから』。


そんな理由で勝手に人ん家に集まり、どんちゃん騒ぎをしやがる連中を見るにつけ、なんでもっと狭い家にしとかなかったのかと、溜め息がこぼれて落ちる。


成り行きで買い取ることになった家だ。


間取りもなんもかんも、選り好みする余地なんぞは欠片もなかった。


転売すんのもめんどくせえと住み着いたオレも悪かったのかもしれねえが。



「どうした、砂兎。もっと飲め」



「砂兎さん、砂兎さん。はい。黒豆あーん」



「栗きんとんもあーん」



正月も早々、当たり前みてえな顔して仕事あがりに人ん家へ押し掛けてきて、夜通し酒盛りした挙げ句、昼を過ぎてもまだ飲んで騒いでしてやがる連中も、たいがいだと思う。


前年は脱落する新人がほとんどおらず、いろいろと班編成が組み直されたのが、ついこないだ。


まだ右も左もわからん連中を抱えてる班に、人手の少ねえ年末年始の当番を振り分けんのはちと酷だってんで。


唯一新人を抱えていねえ美濃班が当番を受け持つと名乗りをあげたのは、当然の流れだろう。


ちったあ猟犬の自覚が出てきたのかと感心してりゃあ、コイツら。


交換条件として、年明けにテメエらのパートナーとセットで休みをくれだなんぞと申請しやがって。


申請する方も申請する方だが、受理する方も受理する方だ。


お陰さんで、こちとら半月近くもまともな休みを取れなかった。



クリスマスだのなんだの。


小鳥ちゃんは、行事ごとをなんでもきっちりこなしたがる。


休みだろうが仕事だろうが、行事は行事。


クリスマスにはプレゼント交換をして、一緒にクリスマスディナーを食べる。



当然ながら、今年のクリスマスもそうだった。


昼間せっせと働いて、あっちの現場をフォローし、こっちの現場を制圧してと大忙し。


加えていつもの業務だ。


くったくたに疲れ果て、んでも、激務の合間を縫い、可愛い恋人が一生懸命用意したクリスマスディナーだ。


雰囲気くれえは楽しませてやらにゃあ可哀想だと、珍しく気をまわしてプレゼントを用意してやりゃあ、あの野郎。


どこでこんな洒落たもんを買ってきた。


誰に選んでもらったんだと不機嫌になりやがってよ。


いくら忙しかろうが、テメエで欲しい欲しい騒いでたもんくれえ、覚えてやがれってんだ。


拗ねてえげつない真似……いや。


途中で目的を忘れて色に溺れだした小鳥ちゃんを見て、オレも加減を忘れて好きにさせちまったのもアレなんだけどよ。


腰が立たなくなるまでむちゃくちゃやりやがって、ガキが。



おまけに、今年は宮部の野郎がしくじったツケをこっちにもってきやがった。



小鳥ちゃんは、裕太と特に仲がいい。


時々、妙な嫉妬心が頭をもたげそうになるくらいには。



若いうちの、馬鹿ばっかやって遊べる同年代の友人がどんだけ有難いもんか、オレは――……。


オレたちはちゃんと知っている。



だから、結局。


オレは裕太もいっしょくたに可愛がらざるを得なくなる。


つーか。


古馴染みの連れ合いともなりゃあ、無条件に可愛がりたくなってくるから不思議なもんだ。


紘子も美濃も裕太も、古馴染みどもが大事にしている連れ合いだ。


それだけでも無下にゃあできねえ存在だってえのに、やたらめったらなついてくりゃあ、オレとてほだされる。


ついでに香乃も文も加地も。


近くで小鳥ちゃんたちを見ていたせいか、自分たちも仲間に入れろとばかりになついてきやがって。


小鳥ちゃんと仲がいいってだけで拒絶も出来ねえオレは、いいように振り回されるしかない。


とはいえ。


クリスマスの晩に散々な目にあって。


ゆっくりしようにも、翌日からは怒濤の激務だ。



正月は正月で、姫始だとか言って休憩時間に物陰へと引きずり込まれ、えらいめに合わされて。


金輪際、会社じゃあ悪戯してくんなと小鳥ちゃんの頭をひっぱたく羽目になった。



年末年始ってなあ、金に困った馬鹿が、小競り合いをよく起こす。


新人どもの実習にゃあちょうどいいっちゃいいんだがよ。


後ろを着いてくオレにゃあ、休まる暇がありゃしねえ。


目を離して怪我なんぞされちゃあたまんねえし、しくじらせるわけにもいきゃしねえ。


然り気無く、しかも新人どもの成長を邪魔しねえ程度に手伝うってのは、これがなかなか骨が折れる。



それを、あのガキ。


人が疲れて気を抜いた隙をついて、人気のねえフロアへ引きずり込みやがってよ。


物陰で立ったまんまだとか。


疲れてる人間を、さらに疲れさせるなってんだ。



そんでも、疲れた身体に鞭打って。


なんとか事故もなく年末年始の当番を終え、遅まきながらもやっとこさの正月休みだと息を吐きゃあ。


酒池肉林の用意を整えたこの連中が、当然みてえな顔をして押し掛けてきやがった。


小鳥ちゃんがひたすらに料理を作りだめしてやがるし、なんかおかしいな、とは思っちゃあいた。


思っちゃいたが――……家主の許可なく人ん家を勝手に宴会会場にするっつーのはどうなんだ。


泊まる準備までちゃっかり整えてきやがって、ちくしょうが。



「腹もふくれたし、酒も飽いた。寝かせろ、オレを」



毎度お馴染みになりつつある台詞を吐きながら、口元へと突き付けれた酒瓶を、ぐいと押しやる。


年末からこっちの疲れをとる間も……つーか。


年末年始、社に泊まり込んでの勤務明け。


家に帰り着いて一服する間もなく徹夜で飲み会なんぞ。


いくらなんでもついていけるかってんだ。



「ぬ。ワタシの酒が飲めんだと?」



「長谷川ぁ。このどら猫、ちゃんとそっちで面倒みろよ」



「ムリムリ。ウチのは猫じゃなくて虎だもん」



絡み酒よろしく、日本酒の瓶を抱えて迫ってきた美濃を連れ合いへと突き返し、



「加地ィ。砂兎さんがあーんしてくれないのお」



「砂兎さんが知らん顔するよう、加地ィ」



「加地も、手綱離すな」



「手綱なんてありゃしませんて。ウチのソレは野生ですよって」



美濃に飲まされすぎてぐだぐだになった雌豹二匹を、飼い主へ押し付ける。


やれやれ、これで一息つけるかと思いきや。



「兎場さんすいません。誰か来たみたいなんで、ちょっと出てもらえます?」



作っても作っても、すぐさま雌豹どもの胃袋へと消えていくつまみの追加を拵えていたのだろう。


菜箸片手にキッチンからひょっこり顔を覗かせた年下の恋人に用事を言いつけられ、よろめきながら立ち上がる。


あー……くそ。


昨夜から相当な酒量を飲まされて、足にきてやがる。



仕事の都合で、宮部とカエラが遅れて参加で助かった。


アイツら――……特に宮部の野郎はオレを潰そうと、露骨にキツイのを飲ませにかかりやがっからなあ。


どうせどう頑張ったって、四人の中じゃあオレが一番酒に強いってえのに。


それが気に入らねえっつって絡んできやがる。


最も、量を飲んでるふりしてシレッとすっとぼけんのが上手いカエラが、なんだかんだでいっつも最後まで潰れず残ってたりするんだけどよ。



「はいよう。おまっとさん」



よろりよろめきつつ玄関まで辿り着き、どうせ宮部かカエラだ。


誰何すんのもめんどくせえと確かめもせず扉を開け――……固まる。



「すいません、遅くなりました」



「せっかくの新年会だから、ちょっと着飾ってみたの。どう? 似合うでしょ」



慎ましやかに頭を下げた紘子と、そんな連れ合いを自慢気に見せびらかすカエラはまだいい。


まだ若い、綺麗な女だ。


晴れ着を着せてやりたいと思う気持ちはわかる。


なにより、きらびやかな晴れ着は、清楚な印象の紘子を引き立て、しっくりとよく似合ってる。



年甲斐もなくペアルックとやらを楽しみたかったのか、紘子に合わせた和装姿のカエラもまあ。


なにを浮かれてやがると突っ込みてえが、元がいいだけに和服もちゃんと似合ってる。


カエラの言葉遣いさえ除けば、多少の年の差はあれ、コイツらが唯一まともなカップルだ。


オレと小鳥ちゃんは言わずもがな。


他の連中も、まともなカップルとは言い難い。


長谷川んとこは一見まともそうにゃあ見えるんだが。


あそこは、美濃にあんまり『女』としての意識がねえしなあ。


加地んとこは両手に侍らせてる時点で、とてもじゃないが普通とは言えやしねえし。


宮部んとこもそうだ。


ウチと一緒で、野郎同士でくっついてんだ。


一般的な恋人同士からは程遠い。


オレたちん中で唯一普通のカップルが、世間様の習わしに従ったまっとうな正月風情を楽しみてえならそんで。


勝手にいちゃついてろと思うだけである。


三箇日は済んじまったが、まだ松の内だ。


オレのいねえとこでオレを抜きにして企画されたとはいえ、このどんちゃん騒ぎが『新年会』だってえんなら、年頃の娘っ子が晴れ着で来たって構いやしねえ。



オレが思わず固まっちまったのは、紘子の後ろ。


往年の名女優、オードリー・ヘプバーンを彷彿とさせるクラッシックな衣装に身を包み、いたたまれなさそうに縮こまってちょこなんと立ってるガキのせいだ。



唖然として一瞬言葉を失ったものの、着飾った女を誉めないなんぞと恐ろしい真似をしようものなら後が怖い。



「あ……あ、うん。華やかで、いいんじゃねえの?」



ぎこちなくながらも誉め言葉を口にすれば、紘子が照れくさそうにほんのり頬を染める。


変なオマケがくっついてなけりゃあ、もっと気のきいた言葉も出てきただろうもんを。


つっかえ気味になった誉め言葉をけれど。


幸いにしてふたりとも、オレがそこそこ酔っぱらってるせいだと勘違いしてくれたようだ。



「やあね。言葉が引っ掛かって出てこないなんて、どれだけ酔ってるのよ」



拙くとも誉め言葉だ。


満更でもなさそうな顔をして目を細めたカエラが、いとおしそうに紘子を見る。


ちらり視線を交わしての、目だけの会話。


紘子にしちゃあ珍しく派手な柄を選んだもんだと思ったら。


そうか。


用意したのはカエラか。


だよなあ。


紘子がこんな、晴れがましい柄の着物を選ぶはずがねえわな。


まだ若いんだ。


いまのうちにしかできねえようなお洒落を楽しみゃあいいものを。


紘子はいつも、カエラの隣にいても違和感のない、大人びた装いを選ぶ。


オレみてえな雑な――……つったら選んでる小鳥ちゃんに怒られそうだが。


動きやすけりゃなんでもいいってな装いではなくカエラは、どちらかといえばかっちりした装いを好む。


テメエの言葉遣いを鑑みた結果だとはいえ、若い娘っ子が寄り添うにゃあ、いささか不釣り合いな雰囲気だ。


常に行動をともにする紘子が周囲を慮る気持ちはわからんでもないが、そこはそれ、年頃の娘なんだ。


飾れば色づくとわかってるもんを、無駄に腐らせちまうのももったいねえ。


どうせ、なんだかんだ騒ぐ時ゃあ、誰かしら型破りなのが周りにいるこったし。


外では背伸びしてカエラに釣り合う格好をしてえんだとしても。


身内で集まる時くれえ、年相応の華やかな格好をすりゃあいい。


どうやらカエラは、あれこれ選んで買い与えることで、自分を気にせず華やいだ装いを選んでもいいのだと、紘子に刷り込んじまいてえらしい。



「おまえも、仕事あけに一息吐く間もなく延々と飲まされてみろ。嫌でも酔うわ」



軽く咳払いし、酔いを振り払うふりをしながら古馴染みに目をやり、からかうように笑う。


連れ合いが可愛いのはお互い様だ。


なにを言う気もねえが、企みに気づいてるってえことだけを伝える。



若干一名、可愛がり方を間違えてやがるが、まあ。


アレはどう考えてもクソガキの自縄自縛だ。


ちったあ懲りてもらわねえと、最終的にとばっちりをくらって迷惑すんのはたぶんオレだ。



ちょいと油断してりゃあ、小鳥遊と一緒になって悪戯ばっかしてやがるし。


たまにゃあ自分が困る側になりやがれ。



「ウサギさんに飲み比べで勝てる子なんていないでしょう。潰しちゃえばいいじゃない」



「それがなあ。ひとり潰しゃあ次が来て、それも潰しゃあ、その次がいそいそ寄ってきやがってよう。やっとこ全員潰したと思やあ、はじめに潰したのが復活してやがって、終わらねえんだよ」



小鳥ちゃんが折々で雌豹どもを食い物で釣っちゃあ休憩させてくれはしたが、長谷川がなあ。


ここぞとばかりに人を潰してえのか、すーぐ雌豹どもをけしかけやがって。


しかも、駄々をこねて買わせたはいいが、ほとんど活躍の機会がなかった大型の調理器具を使えるのが楽しくて仕方がねえのか。


嬉々としてひたすら料理してるばっかで、小鳥ちゃんはちっとも助けちゃくれねえし。


加地はテメエだけ避難してやがるし。


騒ぎ疲れた連中がうたた寝してる隙にちょいと仮眠をとった程度で、ほっとんど寝れちゃあいやしねえ。



「あらあら。宮部くんもウサギさんを潰す気満々だったわよ」



「勘弁しろよ。んなもん、遅れて来たアイツのが有利じゃねえか。もっとはやくあがってたはずのくせして、今頃来やがってあの野郎。つか、なんで一緒に来てんだ?」



年明け一番でせにゃならん事務仕事があるとか言って、カエラと宮部は、オレたちより半日遅れの正月休みだ。


そんでも、総務課兼任のカエラよりゃあ、人事課兼任の宮部の方がいくらか早くに帰れたはずである。


まさか本当にオレがしこたま酔った頃合いを計ってたわけじゃああるまいな、と眉を寄せかけて、けれど。



「あたしも和装にしちゃったでしょう? ここに来るまでの足をどうしようかと困ってたんだけど、宮部くんが拾ってくれるって言うから甘えたの」



カエラにケタケタと笑いながら否定され、なんだそうかと納得する。



和装で車は、慣れてねえ人間にゃあ、ちぃとばっか運転しにくい。


オレたちが帰った後にでもそんな会話になって――……裕太がああなった訳だ。


当然カエラは、紘子を飾るために用意した晴れ着を自慢したはずである。


すぐに脱いで着替えたとはいえ、雌豹どもでさえ、正月用の余所行きを着て来てはいたんだ。


ならばウチもと、宮部が思ったのだろうことは想像に難くない。



なんでああなったのかの理解にゃあ苦しむが。



車を置いてくるから先に行けとでも言われたのだろう。


ひとりで放り出された挙げ句、どうやらカエラも紘子も、裕太の格好についちゃあなんの突っ込みも入れてやってねえのか。


オレまでなんも言わねえもんで、いたたまれなさそうにしている裕太を、ちらりと見やる。


クリスマスのセクシー下着騒動といい。


懲りねえよなあ、コイツも。



「あの……カエラ。やはりあたくしも、裕太くんみたいにネタを仕込んだ方がよかったんじゃあ……」



「いい。いい。笑いは野郎に任せとけ。綺麗所は着飾んのが余興だ。つか、そのおしとやかな姿をあの雌豹どもに見せつけて、頼むからオレの防波堤になってくれ」



羞恥に耐えるかのようにぷるぷる震えている裕太へ視線を投げたオレを目敏く見つけたのだろう。


気まずそうに派手な柄の晴れ着を見下ろす紘子の。


いまにも晴れ着を脱ぐと言い出し兼ねない口調を、途中で遮る。


裕太の姿を余興だっつーて勘違いしてんなら、わざわざ訂正するだけややこしい。


おまえの晴れ着と一緒だなんぞと。


言っちまうにゃあ、流石にちと裕太が可哀想だ。


つーか、下手に裕太を拗ねさせりゃ、宮部がめんどくせえことになる。


惚れてんなら惚れてるで、ちゃんと可愛がってやりゃあいいもんを、アイツもなあ。


似合っちゃいるが、こんなナリでも一応は男だっつーて、わかってんのかね、アイツはよ。



「ほれ、いいから入れ。宮部ならオレが待ってる」



「そう? じゃあ遠慮なく」



パン、と着物の尻を叩いたオレの手の甲をつねり、紘子の肩を抱いたカエラが、玄関をくぐる。



オレにとっちゃあ紘子は古馴染みん家のガキだ。


促す以外の意図なんざなかったが、連れ合いからしてみりゃあ、どうやら立派なセクハラだったようだ。


ぺこりと頭を下げる紘子からは見えない角度で、力一杯顔をしかめたカエラに威嚇される。


ちょいと苦笑して失敗を詫びりゃあ。


他意はねえと、一応はわかってやがったんだろう。


次はねえぞと目で嚇しながらも笑みを見せたカエラが、楚楚とした態度でリビングへと消えてった。



「――……んで?」



ふたりの姿が完全に見えなくなるまで見送り、徐に裕太を振り返る。


小柄で甘いマスクをしているせいか、クラッシックなデザインのスーツは、女物であれども、裕太によく似合っちゃあいる。


いるが。


好きで着てるんじゃねえってのは、いまにも泣き出しそうな顔を見てりゃあわかる。



なにがどうしてそうなった。



短い問いに込めた意味合いは、ちゃんと裕太に伝わったのだろう。



「えっ……とデスね。こないだの誤解を、その……。まだ解けてなくて、デスね」



俯いたまま、もにょりと裕太が呟く。


ばっちり化粧までしやがって。


なまじ似合ってるだけに、余興にもなりゃしねえ。



「なんで」



「そのぉう。『せっかく買ってやったのに着ないのか』って言われて……」



「――……着たのか、アレを」



そういや、オレが起きてきた時ゃあ、ローテーブルに二着並べて置いてあったのが、一着に減ってたな。


残ってる方を小鳥ちゃんが貰いでもしたのかと気にしてなかったが。



――……そうか、着たのか……。



「宮部さんの反応が良くて、うっかり燃えちゃったんですよう。したら、帰ってから山ほど女物の洋服買ってくれてぇえ……ッ」



「あんだけ怒って騒いどいて、阿呆か」



「だってだってだってえ。宮部さんがぁあ。すんごいいい反応するんだもぉおん」



紘子とカエラの目がなくなって気が緩んだのか。


びゃああっと、裕太が派手な泣き声をあげる。



なんとかしてくれっつーて言外に訴えられても、だ。


絶対ぇ、わかっててやってやがんぞ、アイツ。



「うっかり燃えた、おまえが悪い」



「だってぇえ」



ったく。


この分じゃあ、アレ着た小鳥遊に襲われる日も近えな、こりゃ。


さっさと釘を刺しとくべきか。


裕太の姿を見せて、怯えさせるべきか。



「なに人の連れ合いを泣かせてるんだ、ウサギ」



「ふたりだけの内緒の遊びを、人前で晒すのが嫌なんだとよ。夜の余興だけにしといてやれよ」



悩むまでもありゃしねえ。


ほっときゃ、宮部の野郎。


こないだ気を揉まされた八つ当たりに、小鳥遊を巻き込みやがるに決まってる。



「ほお。人の恋人をえらく理解してるじゃねえか」



「おまえよう。オレが小鳥ちゃん以外はダメなのわかってんだろが。いちいち絡むな」



「――……オレよりなつかれてるのが気に入らん」



ぼそり本音を落とし、宮部が嫌ぁな顔をして笑う。


昔っからコイツは性が悪いっつーか。


親愛の情の表現の仕方が、とんでもなくひねてやがる。


可愛い子ほど苛めてえってな言葉のまんま。


親い人間にゃあ、とことん意地が悪くなる。



「と、いうわけで。ヒヨコもオレが可愛いがる」



「――……泣かしてくれるなよ……」



オレに泣きついているところを見られて気まずかったのだろう。


そろぉり距離を取って逃げようとしていた裕太の頭を、宮部が大きな手のひらでガシリと掴む。


ギリギリギリギリ締め上げられて、ギブギブと裕太が悲鳴をあげるがお構い無しだ。


そのままズルズルと引きずられてゆく裕太を見送ることしばし。



後をついてきゃ、阿鼻叫喚の騒動に付き合う羽目になる。



一瞬、このまま寝室に引きあげて寝てやろうかとも思ったが。


放り出したのがバレりゃあ、小鳥遊が拗ねるのは目に見えている。



しょうがねえかと、溜め息ひとつ。


いままでたあ違い、騒がしいのがこれからのオレの日常だ。



可愛い可愛い恋人が、遠い未来も笑っていられるよう。


ちぃとばっかオレも、なけなしの社交性っつーもんを発揮するとするかね。














※ この後、とばっちりをくらった小鳥ちゃんのみならず、発端になった宮部さんを含め、全員が泥酔した雌豹三匹によって着せ替え遊びを強要されたとかしないとか(笑) ※






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