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tea break  作者: ふゆき
18/30

とある日。2

大好きな人を手に入れての幸せは、いついかなる時でも、好きにじゃれついて甘えられるということにあると思う。



もちろん、そればっかりじゃあないけれど。



何事にもめんどくさがりな兎場さんが、飽くことなくオレの相手をしてくれる。


これが幸せでなくてなんだというのか。



いとおしそうに目を細めてオレを見る、兎場さんの柔らかな表情が。


寄り添えば、当たり前のように抱き寄せてくれる仕草が。



――……たまらなく嬉しくて。



オレはついつい、度を越して兎場さんにじゃれつきたくなってくる。



でも、そのためには兎場さんがオレを疎んじないよう、大好きアピールを忘れちゃいけない。


好き好きアピールは日々しまくっている。


てか、甘える行為自体が好き好きアピールになってるみたいで。


兎場さんは、オレが甘えれば甘えただけ、楽しそうに喉を鳴らしてくれる。



だからオレは遠慮なく我が儘を言って、兎場さんの保護欲を満たすべくじゃれついてゆく。


どうにも兎場さんは、オレを際限なく甘やかしまくるのが、楽しくて仕方がないらしいのだ。



まあ、ね。


ある意味とっても厳しくオレを諌めてくる時もあるけれど――……。



そこはそれ。


そっちに関しては、オレがめげなきゃいいだけの話である。



「あれ。兎場さん長芋ダメでしたっけ?」



いつものように、のんびりと晩酌を楽しむ兎場さんにセクハラしようと……もとい。


愛情表現の一環として、お風呂あがりのままTシャツと短パン姿で寛いでいる兎場さんの生足に手を伸ばして触ろうとしていたオレは。


珍しくほとんど手の付けられていない小鉢を見つけ、手を止める。



兎場さんは、好き嫌いというものをほとんどしない。


口に合う合わないはあるみたいだけれど、それを表に出すことをしない人だ。



食べる順番。


食べる表情。



そんなちょっとした違いでこの人の好みの味を探すのが、オレの密かな楽しみになっているくらいには。



「箸が進んでないみたいですけど、長芋と梅シソのさっぱり感と冷たい冷奴って、お酒に合いませんか?」



「んにゃ。旨いは旨いんだけどなあ。生で食うと、口のまわり痒くなんだよ、とろろ芋」



『見つかった』。


そんな顔をしてばつが悪そうにする兎場さんを。


たぶんオレは、まじまじと見つめすぎたんだと思う。


ふいと逸らされる、ひどく気まずそうな視線。



出された物を残す行為を後ろめたく感じてくれているみたいだけれど――……。



「……ああ、生の長芋で……ふぅん」



与えられた情報の処理に忙しくそれどころではなかったオレは、兎場さんのフォローを放棄する。



味がどうのこうのではなく、体質的に合わないのなら残して当然。


無理して食べて具合が悪くなったりするよりはずっといいですよ、とかなんとか。



いつものオレなら、そんなことを言いながらにこにこ笑って小鉢を取りかえていただろう。



けどいま、突然降ってわいた妄想の処理で忙しいオレはそれどころではなく。


片手で顔を覆って横を向く。



いまの表情を兎場さんに見せたら逃げられる。


そんな確信のもと、しらばっくれるべく全力を尽くしたのもつかの間。



さすがは兎場さん。


身の危険には、とことん敏感だった。




「小鳥ちゃん?」




訝しむようにオレを呼ぶ声が。


箸を置いて、オレから距離を取ろうとする態度が。



あきらかに警戒心を含んでいる。



んもう、ほんとこの人は。


いらないところでばっかり敏感なんだから。



そろりそろりと身を離そうとする兎場さんが、完全に逃げてしまう直前。



「ア! スイマセン。手ガ スベッタ〜」



手元が狂ったらふりをして、食卓の上のものを兎場さんへ向けてひっくり返す。



白々しいのは承知の上だ。


だがしかし!


せっかく入手した美味しい情報は、利用しなけりゃもったいない。



生の長芋で口が痒くなるってことは、アレルギーってほどではないにしろ、長芋が身体に合わないってことで。


それはつまり、手足についても痒くなっちゃうってことだ。



「うわ……ッ。テメ、食いもん無駄にしてんじゃねぇよ!」



寸分違わず股間を狙いすましたはずだったんだけどなあ。


どれだけだらけていようと、やはり兎場さんは兎場さんだった。



「避けましたね?」



胡座をかいた姿勢から俊敏に動いて逃げた兎場さんを、恨めしげに睨めつける。


くそう。


せっかくの美味しいシチュエーションだったのに!



「避けるわ、阿呆。おかわりおかわり! まだ食ってんのに、ぶちまけんな」



名残惜しそうに床に散らばった小鉢の中身を眺め、兎場さんがスパンとオレの頭を叩く。


食べ物やら飲み物やらを無駄にするなという兎場さんの主張はわかる。



でも、オレはお酒飲まないし。


今日は早番だったから、遅番で帰ってくる兎場さんを待ってる間に夕食は済ませた。


本当は待ってて一緒に食事をしたいところだけれど。


うっかり出動がかかったりしたら、夜のうちに帰れるかどうかすらわからない。


だから、帰りの時間が大きく違う日は、それぞれが先に食事を済ませてしまう。



よって、兎場さんが食べなきゃ生ものは、無駄になるだけなのだ。


だったら有効利用した方がいいに決まってる。



一応、後で怒られるにしても最小限に押し留めようと、メインはちゃんと避けて小鉢だけをひっくり返した。


小鉢のおかわりくらいなら、常備菜でどうとでもなるし。


なにより、いきなり目の前にぶら下げられた妄想が、すべてのものを凌駕した。



「むぅ。やっぱ安物のAVみたいにはいかないか……」



しおしおと台所へと向かいながら、ぼそりと小さく本音を落とす。


長芋系がダメだってことは、うまいこと皮膚の薄い箇所に触れさせたら、あられもない姿を見られたはずだったのになあ。



「小鳥ちゃ〜ん? 聞こえてっぞ、コラッ!」



こないだ、ちょっと遠出をして遊びに行こうと約束をして、ふたりで休みを合わせた日。


どうしてもどうしても兎場さんが出勤しなくちゃならなくなっちゃって。



オレはしぶしぶ、仕事に兎場さんを譲った。



そしてそれは兎場さんだけでなく、年長組全員に集合がかかるような仕事だったらしい。



年長組――……つまりは兎場さんとカエラ部長と長谷川部長と宮部部長の四人組のことなんだけど。


そう呼ばれると、本人たちはものすごーく嫌そうな顔をする。



オレたち――……オレと裕太くんと紘子さんと美濃班長。


要するに、自分たちの連れ合いであるオレたちがいつも仲良しこよしで寄り集まってると言って、『年少組』呼ばわりし始めたのは兎場さんたちだ。


だからだろう。


表立って文句を言うことをしないものの。


その表情を見ていれば、非常に不本意であると伝わってくる。



もともと四人。


寄りかたまって他人を寄せつけないところのあるような人たちだった。


それでも、個々で別れて仕事をしている間は、別個として扱われていたのだ。



それがいろいろあって、セットで動くような仕事がやたらと増えた。


とはいえ、個々での仕事ももちろんあって――……というかむしろ、そっちがメインだ。


組んで仕事をするといっても、彼らはひとつの班として数えるにはイレギュラーすぎた。


さて、どう呼称しようか。


社内でそんな話が持ち上がっている時に、パートナー同士がつるんでる関係上、一緒くたにして扱われがちなオレたちを、当の兎場さんたちが『年少組』呼ばわりし始めた。


じゃあその歳上の連れ合いたちは『年長組』でいいか、という暗黙の了解が社内に浸透するまで、さして時間はかからなかった。



一緒に休みを取った日に年長組が呼び出されてゆけば、おのずと年少組は留守番になる。



お互いのパートナーたちがやたらと親密なせいで、なんとなくオレたちも、やたらめったら仲良しさんだ。



急な仕事に連れ合いを拐われた場合。


大抵は誰かしらが同じように連れ合いを拐われて暇を持て余しているのを、オレたちはもう知っている。



裕太くんから『ウチで映画鑑賞大会をやらないか』と連絡がきた時。


じゃあ行こうかなとすぐに決めたのは、そういった理由からだ。



ひとりで退屈してても気が滅入る。


だったら、気心の知れた相手と休みがダメになった愚痴合戦なりしている方が、まだマシだ。



裕太くんの恋人であるところの宮部部長は映画鑑賞が趣味らしく、やたらとでっかい嵌め込み式のテレビを、でんと部屋に設えている。


なんでも、独り身だった頃は休みの度に新作のDVDを借りてきては、日がな一日映画鑑賞に耽っていたのだそうだ。



オレと兎場さんが一緒に暮らすようになるまで、半同棲みたいな期間がけっこうあった。



兎場さんはオレを気遣い、自分のテリトリーに引き込んでいいものか悩んでくれてて。


オレはオレで、兎場さんのテリトリーに踏み込んでもいいものかどうかを悩んでた。



なんせ、兎場さんのパーソナルエリアはめちゃくちゃ広い。


急いて同棲を持ちかけてギクシャクするくらいなら、兎場さんがオレの部屋に居座ってくれてるんだもん。


それでいいにしようってずっと思ってて。


でも実際は、兎場さんはとっくの昔にオレを自分のパーソナルエリアに入れてくれていた。



その上で、自分のパーソナルエリアを基準にしてオレを気遣ってくれるという、いまにして思えば、かなりずれた心遣いをしてくれていたわけだ。



そんな期間がけっこうあって、オレは兎場さんの昔馴染みの部長たちもそんな感じなんだろうなあと思ってたら。



兎場さんとオレのやり取りを見て学習していたのだろう。


裕太くんは、押して押して押しまくって、さっさと同棲に持ち込んでしまった。



兎場さん曰く『宮部もオレたち見て学習してたんじゃねえの?』とのことだけど。



正直ちょっと、羨ましい――……じゃなかった。



そんなこんなで同棲したてホヤホヤの裕太くんは、そのどでかいテレビで映画鑑賞するチャンスを密かに狙っていたのだそうだ。



ふたりでいれば、同棲したてだ。


ついいちゃいちゃするのが優先になる。



予定がなくなっちゃったし。


ひとりで遊ぶのもつまらないし。



ならいまがチャンスかと、どうせ同じく取り残されているだろうオレを誘って、一緒に映画を観ようと思い立ったらしい。



その時に、やたらと大きな画面で見た映画の中に混じってた、ちょっと昔のアダルトビデオ。


レンタルショップで観たい映画を物色中に、たまたまソレらが目に入ったのだから、仕方がない。



タイトルがまあ秀逸なもの揃いで、


『なんだこれなんだこれ!』


と。



ふたりして爆笑しながらキワモノっぽいものばかりを選んで買ったのは、その場のノリと勢いだ。



新作の映画をいくつかと、勢いで買ってきた中古のソレを。


丸一日かけてオレたちは、それなりに堪能して楽しんだ。



てか、安物の投げ売りだった割りにはマニアックでエロくて。


チャンスがあったらやってみたいねえ、なんてふたりしてさんざん盛り上がったのが楽しかった。



「んねえ、兎場さん」



「イ・ヤ・だッ! つか、飯ッ」



みなまで言わせてたまるかと、兎場さんがオレの言葉をあからさまに遮る。


言いもしないうちからオレのおねだりの内容を、なんとなくだが察したらしい。



ほんと兎場さんてば。


こんなことばっかり察しがいいんだもんなあ。



「ちぇっ。肥後ずいきって、通販で買えたっけな〜」



「だ〜か〜らッ。聞こえてるっつの!!」



飛沫を浴びた衣服を取り替えに行こうとしていた兎場さんが、オレの独り言を聞き咎めて嫌そうに怒鳴る。



ふ〜んだ。


宮部部長に聞いて知ってるんだもんね、オレ。


兎場さんだってオレくらいの年齢の時には、むちゃくちゃアグレッシブだったってこと。



今日は引き下がってあげるけど。


そのうち絶対、ねだり倒していろいろ付き合ってもらうんだもんねえだ!














※小鳥ちゃんと裕太くんの部屋には、ノリで買った怪しいDVDがいっぱいあると思うのです(●`・ω・´●)←←マテ※














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