とある日。
昔は寝る前に歯を磨く習慣なんてもん、なかったはずなんだが。
なんとなく、一緒に暮らしてるヤツの習慣ってな、移るもんで。
風呂上り。
洗面所で腰にタオルを巻いただけの格好でシャカシャカやってたら。
いつの間にやら背後に立ってた小鳥遊と、鏡越しに目があった。
ほんの一瞬、歯を磨く手が止まる。
いつものことと言やあ、いつものこととだ。
いちいち騒ぎだてするのもめんどくせえし、と。
ついっと目を逸らして歯磨きに戻ったオレの態度がお気に召さなかったのだろう。
「もう。歯磨きするんなら、服着てからにして下さいって言ってるでしょ!」
きりりと顔を引き締めたオレの幼い恋人が、説教がましい口調でもって文句をたれながら、おざなりに巻いた腰のタオルを巻き直す。
てか、巻き直すふりをして、ひっぺがそうとしてきやがった。
ったく、ブレがねえヤツめ。
今日は疲れたから嫌だっつってんのに、まだ諦めていやがらねえのかよ。
明日が遅番だってんならいざ知らず。
オレもおまえも早番だろうよ。
「んんぅうぁん、んんぅ(小鳥ちゃん、邪魔)」
悪戯しようとする手を捕まえて、歯ブラシをくわえたまま、苦情を告げる。
今日は、現場でさんざん走らされたんだ。
強化服を着けてた小鳥遊はまだしも、こっちはくたくただってぇのに。
「歯ブラシくわえたまま喋られてもわかりません〜。 ああもう、シャワー浴びたら拭いてから出てくださいってあれほど……ッ」
コイツが欲望に忠実すぎるのか、構ってやらないオレが悪いのか。
「んー」
腰のタオルから手を離さない小鳥遊の手をはたき、悪さされる前に逃げようと身をよじったらば。
「あなたねぇ。しまいにゃここで犯しますよ?」
諦めの悪いガキが、自分の方が正しいような顔をして、背後から抱きついてきやがった。
そのまま、首筋に落とされる口づけ。
ちゅ、ちゅと啄むだけのうちは放置して歯を磨き、痕をつけようと歯を立ててきたのは拒んで、口をすすぐ。
ったく、ちょっと構ってやらねえと、すぐコレだ。
「……ッぺ。おま、それ。風呂覗きに来て言うセリフかよ」
のし掛かってくる小鳥遊を押し退け、ようやくまっとうに苦情を告げる。
人が反論できねえのをいいことに好き勝手言ってやがったが。
こっちが自由に喋れるようになったんだ。
ごっこ遊びも終わるだろうと思いきや。
「なに言ってるんですッ。好きな人がシャワーを浴びてたら、覗くでしょう、ふつうはッッ」
思いきり開き直りやかった。
力説する小鳥遊と見つめあうこと暫し。
「……………………ああそう……」
もう突っ込むのもめんどくさくなって、小鳥遊をぶら下げたままリビングへ向かう。
要するに、ヤらせてやらなかった分を構え、と。
そういうことらしい。
下履きを身に着け、ビール片手にいつもの定位置に座ったら。
ドライヤーとタオルを持った小鳥遊が、いそいそと寄ってきやがった。
遊んで欲しいなら、素直にそう言やいいもんを、ガキが。
せっせとオレの世話をしつつ、何事もなかったかのように雑談をはじめた小鳥遊に、小さく笑う。
結局、なんだかんだでオレも、コイツにゃ甘い。
悪戯されても、こうして甘えられりゃあ、怒る気にもなりゃしねえ。
そのうちびしっと文句をいうとして今日は――……。
※だいたいいっつもこんな感じなふたり。うん、バカップルだよねといふお話※




