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tea break  作者: ふゆき
13/30

ポッキーゲームのその後は。


カロロン、と。


グラスの中で溶けた氷が、軽やかな音を立てる。


何気なく時計を見れば、日付が変わるまであともういくらもないような時間だった。


待ち合わせたのは午後の8時。


ってこた、かれこれ3時間以上は待たされている計算だ。


まあ、予想はついてたこったし、待つのはたいして苦でもねえが。


今ごろイライラしているのだろう幼い恋人のことを想うと、自然と口許が緩む。



今日は、小鳥遊とは別々の現場だった。



オレは浮き島で受け持ってたガキどものフォローで。


アイツはいつも通り、美濃班に組み込まれての出動だ。



駆け出しのガキどもの世話だったオレとは違い、美濃班にくる仕事は、たいていが手間がかかるか危険度の高いものばかりである。


いったん出動となりゃあ、定時に終われるはずもない。



遅くなりそうだから今日は外食でいいですか、っつってメールが届いた時。


ちょうどラジオのニュースで、アイツが遅くなる原因となった事件が報道された。



立て籠り。


この街じゃあ珍しくもないが、時間だけはとられる、めんどくせぇ案件だ。



アイツが帰ってくるまで、社で待っててもよかったんだが。



近頃は残業時間を減らせだの、社に住むなだの。


やたらと小煩ぇことを言われだしたし。



いつものトコで飲んでる。



そう返事を返した時にゃあもう、長引く気配をみせていたのだろう。


小鳥遊からの返信は短く、やや焦っているような文面だった。



こりゃあ長丁場間違いなしだと、ひっそり苦笑したのもつかの間。


定時を過ぎたといって社を追い出されて。


家に帰ってもすることがあるでなし。


待ち合わせの時間まで、ぶらぶらと街を流して過ごした。



こないだまではハロウィンだなんだと盛り上がってた街中が、月が変わった途端にもうクリスマス一色なのにはちと驚いたが。



秋の気配も色濃くなり、寒さが堪えるようになってきたこの時季に。


街頭に立ってキャンペーン商品を売る連中の熱意に負けて、ちょいと無駄遣いをしてみたり。


そこそこ楽しんでたのは、小鳥遊にゃあナイショである。


アイツが必死こいて働いてんのに、オレだけのんびり遊んでた、なんぞと。


さすがにちと、後ろめたい。



いつもの店のいつもの席に着いてから、ふと思いついて携帯端末でニュースをチェックしてみりゃあ、案の定。


しっかりきっちり、にらめっこ状態に発展してやがったから尚更だ。



せめて飯くらいは待っててやるかと、ちびりちびり飲んでたものの。


ぼちぼち閉店の時間が迫ってきてる。



「テイクアウトでまだ作れるか?」



「常連さんのご注文でしたら、時間外になってもお作りしますよ」



「そりゃどうも。どうにも仕事が長引いてやがるみてぇだからよ。なんかつまめるもん作ってやってくれや」



小鳥遊と別行動の日にゃあ、毎度必ず待ち合わせに使ってる店だ。


顔馴染みになってた甲斐あって、多少無茶な注文でも通るのが有難い。



こっちの仕事を把握してるってのもあるんだろう。


最終オーダーですよ、と。


悪戯っぽい笑みを浮かべた店主が作って出してくれたのは、大量のサンドイッチだった。



たっぷりのローストビーフとオニオンスライス。


ボイルした海老にアボカドソースをあえたもの。


タマゴとトマト、きゅうりとツナ。


照り焼きチキンなどなど。



軽くつまめるものから、がっつり腹にたまるものまで。


残った食材を全部使ってみました、とかなんとか。


絶対ぇ予期して用意してたよな、と突っ込みたくなるほどの量を手早く詰めてくれた店主に苦笑を返す。



ま、いつものこったし。


オレがニュースを見ながら飲んでる時ゃ、たいていがこのパターンだからなあ。



ある程度は予想もつくか。



礼を言って会計を済ませ、のんびり歩いて現場へ向かう。



雲ひとつない、月のキレイな夜だ。


両手にぶら下げた大量の荷物がなけりゃあ、気のきいた夜の散策と洒落込めもしたんだろうが。



あいにくと、ロマンチックとはほど遠い、欠食児童の群れへの届けものだ。


途中見つけたコンビニで、ペットボトル飲料を山ほど買い込んで。


現場に辿り着いてみりゃあ、タイミングの悪いことに。



ちょうど突入とかちあった。



ドンパチやかましい音を聞きながら、ベースで寛ぐこと暫し。


日付もすっかり変わった頃――……。



「兎場さん!」



「おー」



やっとこ犯人をとっ捕まえて戻ってきた幼い恋人を、笑顔で迎えてやる。



「お疲れさん。案の定長引いたなあ」



「立て籠りとか立て籠りとか立て籠りとか! 最近そんなんばっかりなんですよ〜」



「実績あげちまったらなあ。呼ばれんのはしゃあねえよ。ほれ、差し入れ。飯食ってねえんだろ?」



「あなたは?」



「ひっかけながら、ちょいと食った」



むくれ顔から一転。


パッと顔を輝かせた小鳥遊が、オレの手元から、飲みかけの茶をさらってゆく。


新しいのを開けりゃあいいものを。


どうやら、空腹が限界に近かったらしい。



若者らしい勢いで、ガツガツとサンドイッチを食いだしたのを、笑って眺める。



いつまでたってもガキくささが抜けねえのが、また。


庇護欲をそそるったらありゃしねえ。



「取りゃしねえから落ち着いて食えよ」



「そんなことしてたらなくなります」



無駄に造作のいい顔をきりりと引き締めて、小鳥遊がオレの背後を指で指す。


なんだろうと振り替えるまでもねえ。



「あ〜ッ! ひとりだけズルい〜ッ!」



「先輩を差し置いて自分だけ先に食べるだなんて!」



「いい度胸だな、ヒヨコ。上役に後処理押しつけよってからにッ」



「姐さん姐さん。一番働いたんは坊やさかい、先に戻っていいって言ったの姐さんでしょ」



腹を減らせたガキどもが、怒濤の勢いでベースに突撃してきやがった。


ったくなあ。


成りだけでかくなりやがって、どいつもこいつも。



勢いよく飛び込んできたと思ったら、視線だけで許可を求めるなり、ガツガツとサンドイッチをむさぼり食いはじめたのに苦笑する。


なんでオレが全員分のペットボトル飲料を開けてやらにゃあならんのだ。


モリモリ食べて飲んでする美濃班の面々を。


後処理に追われる警察官たちが、半笑いで見ながら通りすぎてゆく。



あっちの連中に差し入れしてやりたくても、馴れ合い禁止だとかで、どうしようもねえし。


あっちは時間で区切っての交代制だ。



コイツら程には飢えてねえだろ。



無言でサンドイッチを食うガキどもの世話をしてやって、オレもまた、おこぼれを摘まむ。



そうして、大量にあったサンドイッチがすっかりなくなる頃。



「あ。ポッキーだあ」



ガサゴソと買い物袋を漁っていた雌豹の一匹が、お菓子を発見して歓喜の声をあげる。



「おぅ。明日は――……もう今日か。ポッキーの日だとか言って、いろんなの売ってたからつい手が出てなあ。欲しけりゃ持ってけ」



「わぁい。あたしチョコレート」



「じゃあ、あたしキャラメル味」



袋の中身をせっせと漁って。


欲しいものを仲良く分けた美濃班の連中が、腹がくちくなるなり、疲労感を意識したのだろう。


直帰しても構わないとの連絡を受け、回収班に装備を預けるや、三々五々に散ってゆく。



「むぅ。兎場さん、どうせなら、オレに最初に選ばせて下さいよ」



「ポッキーか?」



「ポッキーです」



「スタンダードなのはよけてあるぜ?」



「オレ、それよりチョコレートのが好きだもん……」



ぽつんと呟いて俯いた子供の頭をつついて。



「ん〜。今日はポッキーの日なんだと。んでな、ポッキーっつったら、『ポッキーゲーム』らしいぞ?」



ぶらぶらと時間を潰していた間。


街頭販売の連中に吹き込まれた知識を、耳元で囁く。



「ポッキーゲームって……」



「帰ったらしてみるか?」



「――……その続きも?」



「その続きも」



思った通り食いついてきたガキに笑い、周囲を確認してから、軽く唇を啄む。



夜遅くまで頑張ってたご褒美だ。



朝までもう、あんまり時間も残ってねえが。



ちょいとだけ。


今宵は甘えたなガキを甘やかしてやるとするかね。



せめてそう。


ひとりで過ごして物足りなかった時間の分は、たっぷりと――……。













※なんだかんだでウサギさんは、みんなのパパ化するんじゃねぇの、といふお話※














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