水々しい村の話
注意!
自転車が喋るけど気にしないで!
そこに、1人の少女と自転車がいた。
少女は自転車に乗って、旅をしているのか。
国から国へと移動する、渡り鳥の少女は、今は西側諸国にいるらしい。
ゆったりとも素早いとも言えない速度で走る少女の髪を、風がなぞる。
その風を心地いいと思っている。
しばらく走ると、国……ではなく、村が見えてきた。
季節が夏だからだろうか、辺りがとても乾燥している。
そのせいで疲れが溜まっている少女は、村で休むことにした。
その村ではあまり旅人が来なかったのか、少女が1人来ただけでとても歓迎してくれた。
村人が大勢話しかけてきたが、村長がまずは自分が話すと言うと、村人は静まり返った。
「えー……いきなり騒いですまない。最近はここら辺に誰も来なくてな。お主、名前を名前をなんと?」
「メルです。こっちの自転車はシド。」
「いい名前ですな!ようこそ我が村へ。メルさん。」
そこからは村全体でのもてなしが始まった。
美味しい食べ物を勧められたり、自転車の備品を安値で取引してくれたり、
まさに至れ尽せりと言う言葉がぴったりな状況だった。
乾燥期が来ているのにも関わらず、村は祭りを始めた。
祭り騒ぎの村の中で、卑しい考えが芽吹いたのか。
誰かの悲鳴が聞こえた。
少女が悲鳴が聞こえた方を振り返ると、盗み人が1人。
少女の腰に手が伸びる。
少しだけ村が潤った。
静まり返った祭りの中、村長が事態を聞いて駆けつけてきた。
目の前に広がる光景を見た村長は口を開いた。
「メ……メルさん……。流石にそこまで……いや、ありがとうございますメルさん。盗むなんて酷いですなぁ!いやぁ全く。」
少女は少し考えた。
「……今殺した人にも家族っていましたよね。」
「は、はい。えーっとそこの夫婦が盗人の親たちですな。」
村がまた少し潤った。
「メル……さん?」
「あの夫婦にも家族とか友人がいたりして……。」
村長が怯えているのに気づいた少女は、答えた。
「いやぁ、ほら。盗人を殺したってことはその両親に恨まれることだってあるでしょう?だから両親も殺したんです。そして盗人の両親にも家族や友人がいて……と、連鎖させると。全員殺した方がいいんじゃないかなぁって。」
少しずつ、少しずつ村は潤った。
乾燥した村は、いずれ水々しい村へと変わった。
あと1人で、村は完全に潤う。
「ヒィッ……。ひっぐ。酷い!酷いよ……。」
「どうして?」
「だって、お母さんもお父さんもみんな死んじゃったっ。ひぐっ。そう言うの、え……えごって言うんだよ!うぅ。」
「そうだね。でもそれが人間。」
村は潤った。はずだったが。
空振りする音が聞こえた。
泣き崩れて、死ぬまで正気を失わなかった村人1人は、その瞬間を見逃さなかったのか。
はたまた少女が逃げる機会を作ったのか。
兎にも角にも、村人は近くの村への渡り鳥となった。
◯
そこに、1人のメルとシドがいた。
メルはシドに乗って、旅をしているのか。
国から国へと移動する、渡り鳥のメルは、今は西側諸国にいるらしい。
ゆったりとも素早いとも言えない速度で走る少女の髪を、風がなぞる。
その風は心地いいと思っているのか、そうでないのか。
なんとなく。です。




