どっちが夢か分からないな
銃声が鳴る。爆風が吹く。終わらない戦場の音が鼓動のように鳴る。
走れ。走れ。死にたくなければ走れ。目の前に集中し周囲を警戒しろ。両手に抱える重みが私を守り敵を滅ぼす。敵を見つけたら迷うな。狙いをつけて撃て。このライフルがここでは命綱だ。
どうして私は走っているのだろう。どうして人は生きるのだろう。この戦場になにがあるというのだろう。私の人生になにがあるというのだろう。
虚無と無為が私のすべてだ。なにもない。なにもないはずだ。今の私はロボットとなにが違う? 死んでも代わりはいる。生きてやりたいこともない。死んで後悔することもない。ならばなぜ?
なぜ私は戦う。なぜ私は走る?
無意味な戦場でなぜ、私は息を切らして心を燃やしているんだ?
この熱の出所はどこなのか。戦う動機も分からないのに止めようとは思わない。考える暇を戦場は与えてはくれない。だから私は迷うことなく銃を撃ち死地を駆け抜ける。
この戦場が居場所のように――
この戦場が生きる意味のように――
この戦場が世界のように――
この戦場が、私の人生だ。
*
目覚ましの音に目を覚ます。白い天井が目に入るなり青華は上体を勢いよく起こし枕に手を差し伸べた。だがそこにあるはずの拳銃がない。
「ッ」
ハッとする。しまったと思うが次第にここがどこなのか、どういう状況なのか思い出す。
ここは第三アカデミアの学生寮で自分は生徒会に保護されここにお世話になっている。昨日はクラスメイトで友人の神崎信也と姫宮詩音とアイスを食べながら下校をした。そんな笑える日常を過ごしたのだ。
そのため枕の裏に拳銃があるはずもなくそれを理解して全身から力が抜ける。ふうと息を吐いてベッドに寝そべった。柔らかい反発が迎えてくれる。
なぜこんなことをしたのか自分でも分からない。過去を思い出せれば分かるのだろうけれどそれは叶わない。
失った記憶。唯一覚えているのは自分の名前くらい。それ以外は空っぽだ。自分がどんな人間なのか、どんな人生でどんな選択をしてきたのか。家族や友人も分からない。
けれど徐々にだが思い出している気がする。今の行動もそう。普通見慣れない天井に動揺し枕の裏に拳銃があるかどうか確認なんてしない。それを咄嗟に取る自分はどんな人生を送ってきたのか。それに今日見た夢。壊れた町の中をライフルを持って走る自分。あれはなんだ、なぜあれを懐かしく思う? むしろここが場違いに思える。
「どっちが夢か分からないな」
自分はいったいなんなのか。この現実に対する違和感は前からあった。今ではそれが強くなっている。それどころか非日常と思える夢の方がしっくりくる始末だ。
私はなんだ? どこから来た? あれはなんだ、あれは現実なのか?
失われた記憶が背後から忍び寄る。以前は探していたのに今では怖い。人型をした影を掴まえ光の下に連れてきたときそれはどんな姿をしている?
その時の私はどんな姿をしているんだ……?
自然と手が上がり胸の辺りの服を掴んだ。
なにか、大事なことを忘れている。異物感が頭から離れない。刺さった針が鈍い痛みを訴えてくるのにそれがどこなのか分からない。
眉根が寄り厳めしい表情になってしまう。
焦り、そう、焦りだ。こんなことをしている場合ではないと焦燥感が自分を責める。鞭を打つかのように強烈に。だけどその理由が思い出せない。なぜ鞭を打つ。なぜ急かす。私になにをしろと言うのか。
ピロン。
そこでスマホに着信があった。見れば神崎からだ。文面を読んでいくとそこには獅子王錬司という友人が話をしたいという内容だった。青華がエフェクトを付けた男たちに襲われたこと、それについて話を聞いてみたいらしい。そこから素性も分かるかもしれない。
それに詩音も一緒とのことだ。その一文に正直救われる。女子が傍にいてくれると気持ちも軽くなる。そんな気遣いが出来る神崎も優しいやつだ。
神崎はいい友人だ。周りをよく見ている。それにいざとなれば自分の意見を言う、慎重だけど芯が強い。そんなやつ。彼や詩音と出会い親しい関係を築けたのは間違いなく彼女にとって幸運だった。
だけどなぜだろう。神崎。その名前を聞くと胸が妙にざわつく。その理由は同じく分からない。記憶喪失というのは厄介だ。本当になにも分からない。
それに不満はあるがすぐに大丈夫だと返信を行い用意に取り掛かる。
新しい生活に不満はない。感謝しているくらいだ。だがそれだけではよしとしない。
過去と向き合うべきだ。そこにいる私が本当の私のはずだから。
私の人生を取り戻す。
青華は着替えを行いベッドから車いすへと乗り移っていった。




