やめ、やめて。私はこういうのはちょっと、ホントに。神崎! 助けろ神崎!
「みんなお疲れ様~」
「姫宮さんお疲れ様。その人は?」
「見学者です! 未来有望なアイドルの卵さんだよ」
「違います。初めまして、花崎青華です。ここには姫宮さんに連れられて来ました。よろしくお願いします」
「お邪魔します」
「あ、神崎君も来てたんだね。今日はどうしたの?」
「俺はこいつが暴走しないか見張り役です」
「君はいつも大変だね……」
ほんとにね。
もう顔なじみとなったアイドル部の人たちと挨拶を交え姫宮は楽しそうに青華に説明している。それから自分も更衣室に移動し練習用の服に着替えた。白のTシャツに黒のスウェットのズボン。動きやすさ重視の服装だ。それで準備運動に始まり筋トレ、次にダンスの振付の確認をみんなで行っていく。この頃になるとわいわいしていたみんなの雰囲気もなくなり引き締まっている。みんな本気で動いてる。その中にはもちろん姫宮もいて声を張り上げたり注意を受けたら元気よく返事をしている。その姿は本当に真剣でおふざけなんてない、夢に向かって一生懸命努力する一人の女の子だ。
姫宮の夢を笑う人はここにはいない。かつてはいたけれど今は違う。それはそうだろう。
こんなにも頑張っている人を、否定できるわけがない。
「詩音、頑張ってるな」
「ああ」
二人は許可を得た上で邪魔にならない隅から練習風景を見つめている。リズムに合わせる音楽と指導員の掛け声、それに合わせて動くみんなの声。それだけで華がある。それを邪魔したくなくて自然と小声になる。
「詩音は、明るいし優しいし、元気があるし。大変な思いしなくたって十分人気者で。それはこの一日を見てきただけで分かる。彼女はいるだけで周りを明るくする人。そう思ってた」
「だいたい合ってるよ」
「その裏に、こんなにも頑張っている姿があるんだなって。初めて知ったよ」
「だろうな」
姫宮詩音という女の子には不思議な魅力がある。普段は明るくて面白いのに、夢に対しては誰よりも真っすぐだ。懸命で、実直で。そんな真摯な姿といつもの姿の二面性というかギャップというか、それがまた彼女を応援したくなっていく。
「アイドルっていうのは基本、ファンを喜ばせるものだ。歌を歌ったりダンスを披露したり。そうやって見る人を楽しくさせたり喜ばせたりする。時には励ましたり応援したりする。でも彼女の場合」
「私たちが応援したくなる、かな」
「ああ」
それだけ、彼女は不思議な魅力で詰まっている。彼女がいつかライブステージに立つ、成功の舞台で歌う姿を見たい。そう思わせるほどの。彼女のファンでいることがむしろ誇らしいくらいに彼女は魅了する。
「来てよかったか?」
「うん。そうだな」
それは青華にも伝わったようで姫宮たちアイドル部のみんなを静かに見学していた。
それから振付から実際に本番のように立ち回り歌を歌いながら踊っていった。服装は同じ練習服だ。見た目だけなら普通。だけど彼女たちの真剣な姿勢や笑顔は見えない衣装となって華々しさを纏っている。雰囲気だけなら本当にコンサートのようだ。
その中で、これは個人的な思い入れではあるだろうけど、姫宮は誰よりも存在感を放っていた。信也はそう思う。
ダンス練習は一旦休憩となり各々座り込んだり水を飲んだりしている。姫宮も赤い水筒とタオルを片手に信也たちのところへやってきた。
「お疲れ」
「うん、ありがとう」
「詩音頑張っているんだな、いつもこんな感じか?」
「うん。あとはボイトレとかね。体は動かさないといけないし歌も歌わないといけないしいろいろ大変だよ」
タオルで拭いた後とはいえ濡れた前髪は努力の証だ。それだけ頑張ったということだ。
「そう聞くとアイドルって大変だよな」
「うん。なかなかの運動量だ、無理はしないようにな」
「やりがいはあるから大丈、夫!」
姫宮は水筒からがぶがぶと飲み込んでいく。
「ぷはー」
水を上手そうに飲んでいく。実際あれだけ汗をかいたんだしうまいんだろう。満足気な笑みが光る。
「それで青華ちゃん! どうだった!?」
「え? ああ、頑張ってるなと思って」
「ノンノン、そっちじゃないよ」
得意顔で否定してくる。
「お前ノンノンなんて言うキャラだっけ?」
「信也君いらないちゃち入れない!」
「ごめん」
(でもお前普段言わないじゃん)
「青華ちゃんもアイドルどうかなって。どうどう? 興味沸いた?」
練習とはいえ姫宮たちのライブ演習は見たんだ、なにか思うところはあってもおかしくない。
ただ青華は真面目というか硬派な印象を抱いている信也としては厳しいと思っている。
「いや、私は。詩音やみなさんはとても素敵だったと思うが私は見ている側でいいよ。それに見ての通り私は車いすだ、どの道無理だよ」
「そんなことなああああい!」
「え?」
「え?」
姫宮が大声で否定する。彼女は自信満々に言うが車いすのアイドルというのはなかなか見かけない。当然動きにもかなり制限がかかるし。ある程度のハンデはあるだろう。
だけど姫宮は言う、誰よりも力強く。
「車いすいいじゃん。そりゃダンスとは難しいかもしれないけど歌は歌えるし手は動かせるんだからそれで振付すればいい。アイドルはライブだけがすべてじゃないよ。それに青華ちゃんは可愛い! なれる!」
「いや、その。まいったな」
本人以上に自身の外見を熱弁されたら普通照れる。実際青華は照れ臭そうだ。
「そう言ってくれるのはうれしいが私になる気はないよ。今までこういうことには疎かった、と思うし、私には似合わない。こういうのは詩音みたいな女の子の方が」
「体験入部だ!」
「は?」
信也もそう思った。は?
「何事も経験、経験。まずはやってみようよ」
「強引過ぎない!?」
(だよな~)
そうは思うのだがそこは姫宮の行動力。本人は良かれと思っている節もありだからこそ躊躇いがないのも恐ろしい。
「まあまあ、やるだけやるだけ」
姫宮は恐るべき早さで後ろに回り込むと車いすを動かし始めた。
「やめ、やめて。私はこういうのはちょっと、ホントに。神崎! 助けろ神崎!」
「うーん」
「なにを躊躇している貴様! なんのためにここにいる!?」
「こういう時の姫宮止まらないからなあ」
「役立たずー!」
(すまんのお)




