こうして花崎青華のアークアカデミア生活は始まった
「花崎さんあれからどうだったの?」
「ああ、生徒会の人たちがよくしてくれてね、寮の部屋と着替えも用意してくれたし。学園側と相談して生徒にもしてもらった。これで当面の生活に困ることはなくなったよ。そういえば神崎君のことをいろいろ言っていたがなにかトラブルでもあったのか?」
「…………」
…………。
「いや? 全然。なにもないよ。みんな友達さ、それ以外にない」
「信也君は反生徒会のリーダーだったもんね」
「姫宮」
「うん」
「おはよう」
「おはよう!」
「そ、そうか、なんかいろいろありそうだが止めておくよ」
まあいろいろあった、花崎は察しが良くて助かる。
「そういえば捜索の方はどうなってるんだ? ほら、家族が捜索願を出してるとかさ」
「それなんだが、私の捜索願いは出ていないらしい」
「出ていない?」
それはおかしい。普通人一人行方不明になっているなら家族なりが出しているはずだ。それか本名だと思っている名前が実は違うとかかもしれない。
「小田原さんにいろいろ調べてもらったんだけれど戸籍情報もなくてね。私の素性は今のところ暗礁だ」
「そうだったんだね、花崎さん大丈夫?」
「ありがと、でも大丈夫だよ。記憶が思い出せないのは残念だけどそれでなにか損をしたわけじゃないしこうして今ここにいる。それだけで十分私は幸運だよ」
「でもさ、その、あれだろ?」
ここにはクラスのみんながいる。だから信也は濁した言葉で花崎に聞いた。
彼女は気丈なのでこうして振舞っているが一番重要ななぜ襲われていたのか、それが分かっていない。それが信也には心配だ。それは当然彼女もそうで信也の言わんとしていることを理解し表情がわずかに固くなる。
「うん……、それは不安要素ではあるが、でもここにいればひとまず安全だろう。そう思っているよ。神崎君もいるしな」
そう言うと花崎はいたずらっぽく笑った。あんな目に遭ったら普通怖くて落ち込むものだ、それでも彼女は笑う。そこに彼女の芯の強さを見て信也も元気に頷いた。
「おう! その時はまた手伝ってやるさ。人間の可能性、自分を信じる心。俺のアークと信念に掛けてな」
「なんだそれは」
「いいだろ? 俺のポリシーなんだよ」
二人で笑い合った。まだ出会ってからそこまで話もしていない。でも出会いが出会いだったからか彼女とは仲良くなれている。
彼女になにかあっても自分なら助けられる。そんな自信と彼女を守りたいという気持ちがさらに信也の中で大きくなっていった。
「二人とも仲良しじゃーん! ずるいずるい! 私も花崎さんと仲良しになるの!」
「なんだずるいって」
「すでに姫宮さんとも仲いいよ」
「ほんとに? それじゃあ青華ちゃんって呼んでいい? 私も名前で呼んでよ」
「詩音だっけ? 分かった。よろしね」
「うん!」
「なら俺も名前で呼んでいいのかな? よろしくな、青華」
「ああ。改めてよろしく、神崎」
「…………」
「…………」
「なあ、壁を感じてるのって俺だけ?」
「そんなことないよ」
「あるわけないだろ神崎。おかしなやつだなまったく」
「あるよね!? 絶対あるよね!?」
「ないない、ねー?」
「ねー」
「本当かよ!?」
腑に落ちない信也の虚しい突っ込みが教室に溶けていった。
噂の転校生、それは信也たちが助け出した青華のことだった。彼女の再会はとんだサプライズであり会えてよかった。
こうして花崎青華のアークアカデミア生活は始まった。
最初は記憶がない彼女のことを心配していた信也だったがいざ授業が始まると普通に頭が良くて驚いた。国語や数学、特に英語なんてペラペラだ。担当の先生も日常会話レベルなら問題なく出来るレベルと太鼓判だ。反対に歴史はからっきしで教科書に書かれている内容をカルトのギフトブックみたいな目で凝視していた。なんとも記憶喪失の基準が分からない成績だ。
問題は体育の授業だ。今日はバスケットで彼女は車いすであり信也は見学かと思ったのだが彼女は自らやりたいと言い出した。先生も許してくれていざ試合が始まったのだが彼女の身体能力はすごく、車いすながらすさまじいドリブルで相手をすり抜け点数を量産していく。そんな彼女に周りは大興奮ですっかり人気者だ。今ではばっちりマークされている。
「おい神崎君! なに女子の方ばかり見てるんだ!」
「ちげえって!」




