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宗作の遺産は俺が引き継ぐ。この会社の社長は俺がなる

「過労、だと思うけどそういうわけでもなさそうよね。私の方がよっぽど働き者だし」

「攻撃か?」

「それも違う。寝てる間にバイタルチェックしてみたけど、君が意識を失った原因は」


 伊吹は抱えていたノートパソコンの画面を錬司に見せ人差し指で自分の頭をつんつんと指す。


「ここの負担よ。ジャッジメントの戦い方はアークの超高速かつ連続使用。疲れないわけがない。無理がたたったのよ。これからは使用を控えるのね」


 錬司が行うアークの使用法は異次元だ。使用回数が尋常ではない。それだけ負担も大きい。長期の使用は出来ない。


「そういうわけにもいかないだろ」


 だが錬司にその気はなかった。たとえ無理でもやらなければならない時はある。

 ベッドから起き上がりクローゼットへと向かう。Yシャツを羽織り備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを飲み込んでいく。ただの水がおいしく感じる。水の冷たさが全身に広がっていく気がした。


 一息つく。それで意識を切り替え今すべきことを考える。


「データを確認する」


 机に置いてあるパソコンにUSBを指す。第二からコピーしたファイルだ。そこにはエフェクトの実験記録はあるが目的がなんなのか、誰の指示なのか、重要なところがなにもない。


「第二が勝手に行っているのか、もしくはここから誰かが指示を出しているのか。そこまでは分からないか。映像記録にある声に聞き覚えは?」


 伊吹は両肩を上げる。


「分からないわね、第二の内情は私からすればもうブラックボックスに等しい。調べたくても経営陣じゃないと無理ね」

「そうか」


 伊吹も立派な役職持ちではあるがあくまで技術者に過ぎない。会社が裏でなにをしているかまでは知りようがない。


 画面から映し出される銃を扱うエフェクトスーツ。こんなものが大量生産されれば脅威なのは間違いない。悪用されればどれだけの被害が出るか。


 かつての父が過る。彼の残した功績が再び人々に牙を向こうとしている。


 錬司の頭の中でいくつもの考えが浮かびそれらが一つにまとまっていく。自分が成すべきことを成すために、自分がどうあるべきなのか。


 世界を変えるために、自分が変わらなくてはならない。


 迷いはなかった。


「なら俺がなる」

「え?」


 伊吹が振り返る。それもそのはず、彼の言ったことは衝撃発言だ。

 これからの未来を大きく変える。

 錬司は椅子に座り直し背もたれに体を預けた。


「宗作の遺産は俺が引き継ぐ。この会社の社長は俺がなる」


*


 その発表は業界に雷鳴の如く現れ震撼させた。


 獅子王宗作の息子、獅子王錬司がレオンカンパニーを引き継ぎ社長になることを公表した。それは経済界に瞬く間に広がり世間でも騒がれることとなった。ニュースや新聞はもちろんネット記事でもランキング一位を取るほどの注目だ。それもそのはずでエフェクトという異能を扱う会社、それだけ注目度が高く関心を寄せている人は多い。


 その中でも特に衝撃を受けたのが役員幹部たちだ。実子とはいえいきなり社長になりますなど言われ心穏やかな者が何人いるだろうか。


 そうした経緯からこれから錬司は彼らとの会議を控えている。自室で白の0スーツに着替え腕時計を身に着ける。鏡の前でネクタイを締め準備を進める。


「確認するけどほんとになるつもり?」


 背後でその様を見つめる伊吹の表情は苦い。いつもの白衣姿とは異なり白のスーツとタイトスカートに身を包んでいる。もともと美人ではある彼女だがさらに上品さが際立っている。しかし彼女の表情はすっきりせず社長就任を目指す錬司に思い悩んでいるようだ。


「当然だ」


 彼女の問いに答えつつネクタイの位置を整える。鏡の前に映るのはまさに御曹司というべき姿だ。


「エフェクトの悪用は許さない」

「それはまあ、そうなんだけどね。だけど思い切り良すぎない? 大企業の社長になるプレッシャーってそう簡単になれるものじゃないと思うけど」


 彼女からすればつい数か月前まで高校生だった子供が毛嫌いしていた父親の会社を継いで社長になるのだ。経営経験ももちろんない、すべてが初体験。普通なら躊躇う。迷うことなく踏み切れるならそれは大馬鹿か大物かのどちらかだ。


「やるべきことをやるだけだ」


 だが錬司の中で答えは決まっている。大企業のプレッシャー、そんなもの眼中にない。


 彼の信念がそれを指し示すならそこを歩むのみ。合理的で大胆。それを可能としているのが彼の信念の強さだ。


「分かった。もう言わないわ」


 伊吹もやれやれと顔を振って納得する。ここまでくればもう行くところまで行くしかない。この男はキャンセルなどしないのだから。


 二人は部屋を出て会議室へと向かう。時刻は開始ちょうどだ。


 役員会議室の扉を開け中へと入っていく。そこにはガラス張りの部屋に巨大なテーブルが伸び左右に役員全員が着席していた。みなスーツを着ており女性もいる。錬司は上座に座り伊吹は背後に控える。

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