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ここで諦めるやつがジャッジメントになれるか

 錬司たちは実験棟から出る。今のところ怪しいものは確認できない。見れたのは第一や第三とは違う異能学園の様子だ。


 そこで体感したのは第一や第三にあった異能による差別、威圧感がないことだ。第三はマシになったようだがそれでもランクによる高低は依然としてあり第一では語るまでもない。そうした異能の差というのが雰囲気にも出るものだ。強者のオーラというものが全体の雰囲気までも構築する。

 しかしここにはそれがない。そこだけは本当に普通の学園と同じだ。


 エフェクトの持つ公平性。それは学園内の人間関係や雰囲気にまで影響を与えているのかもしれない。それが良いことなのか悪いことなのかは別として異能の選択肢にこういう場所があってもいいだろう。


 獅子王宗作の望んだ世界もこういうものだったのだろうか。彼の意志を引き継いだこの場所には彼の思想と息吹が感じられる気がした。


 そこでふと別の棟を発見する。実験棟はいくつもの建物が並びそこで事務や開発などを行っているわけだがとりわけそこは人の出入りがない。


「あの棟ではなにを?」

「あそこはエフェクトの保管庫ですね。開発品や試作品、また備品などなどです」

「見てみたいな」


 そう言うと今まで陽気に話していた小野田が難しそうな表情になる。


「申し訳ないのですが、あそこには第二の重要な研究資料なども保管されています。私には守秘義務があり、気を悪くなさらないで欲しいのですが、あなたは厳密にはレオンカンパニーの者ではありません。大変心苦しいのですが」

「いや、いい。こちらこそ無理を言ったようだ」

「いえいえ」


 そういうことなら仕方がない。


 それから別の場所を回ってから錬司たちは応接室へと戻ってきた。


「どうでしたが第二は」

「いいところだ。エフェクトを身近な存在として感じられる。次世代の人材を育成するのに適した場所だ」

「ほんとに言葉がお上手ですね。私の十代の時とは大違いだ。ははは。どうですか、以前は第一に入学されていたと聞きましたが今度は第二に編入されてみては。歓迎しますよ」

「考えておく」


 そうして雑談を交わした後で二人は部屋を出た。


「本日は時間を取らせて悪かったな。とてもいい体験だった」

「こちらこそ。あなたに興味を持ってもらえるなんてとても喜ばしいことです。本社にもよろしく伝えておいてくださいね? ははは」

「伝えておくよ」


 挨拶を終え錬司は第二を去っていく。駐車場で車に乗りエンジンを掛ける。免許証ならある、アークシティなら十五歳から運転可能だ。


 錬司は窓から第二の校舎を見上げた。父が作ったエフェクト、それが若い世代に継承されていく。新たな技術が世界を、人を変えていくだろう。


 だからこそそれが悪用されてはならない。錬司は常に険しい表情のまま窓から視線を正面に向けた。


 レオンカンパニー本社に到着した頃には時刻は夜だ。食事を済ませ錬司は伊吹に報告する。


「その保管庫が怪しいって?」

「おそらくな」


 伊吹のいる主任室でお決まりとなったブラックコーヒーを片手に話し合う。紙コップでアツアツのコーヒーを飲むのにも慣れた。


 伊吹は椅子を回すとパソコン前まで移動し第二アカデミアの設計図を開く。言われた保管庫を引っ張り出した。


「二階建て、地下もあるわね。保管庫としては広めだけど第二アカデミアだしなぁ。これだけで黒とは言えないわ」

「出入りは厳重なのか?」

「一部区間は完全な立ち入り禁止になってるわね。実際エフェクトの情報は大事だけど。第二関係者でも許可なしでは入れない。部外者ならなおさらね。レオンカンパニーの者でも入れるのはごく一部」

「分かった」

「諦める?」


 どれだけ疑わしくても警備が厳しいなら諦めるしかない。無理なものは無理。それを受け入れて人は大人になっていく。普通なら。


 しかしこの男はしないだろう。それを彼女も知っているからコーヒーを口につけパソコン画面を見たまま聞いてくる。


「ここで諦めるやつがジャッジメントになれるか」


 予想通りの答えに息吹は笑みを浮かべコーヒーを飲み込んだ。


*

 

 静まり返った夜の学校。朝の活気ある光景から反転し不気味さを漂わせる暗闇は人を遠ざける。こんな闇に自ら埋まりにいくのは後ろくらいものがある不審者くらいのものだろう。


 そう。表に出ることなく闇の中でしか生きられない者がいる。


 第二アカデミアの屋上、そこに黒のロングコートを羽織った男が立っていた。この学園に眠る闇を暴くため錬司は夜風に拭かれコートの裾を揺らしていた。


『ジャッジメント、聞こえる?』

「ああ」


 フードで隠れた耳からインカム越しに伊吹の声が聞こえてくる。


『今第二アカデミアのネットワークに侵入したわ。こちらで誘導する』

「手際がいいな、普段からしてるのか?」

『馬鹿言ってないでもっと集中して。深夜だけど警備はさすがに固いわね。監視カメラも多い』

「問題ない。ナビを頼む」

『はいはいっと』


 ここから離れたレオンカンパニー本社、エフェクト開発主任室で伊吹はキーボードを叩く。指を走らせると正面複数のモニターに映るのは第二アカデミアの設計図や監視カメラの映像だ。完全に第二アカデミアを把握している。当然犯罪行為ではあるのだがエフェクトの未来のために彼女も協力を申し出てくれた。彼女はパソコン技術も一流だ。それで第二をハッキングし錬司をサポートしている。


『問題の保管庫、正面左側の窓から中に入れるわ。そこから左の突き当りに地下への階段がある。その地下に一般立ち入り禁止エリアがあるわね』

「了解だ、今から向かう」


 昼間に視察した学園ではあるが内部までは分からない。そのため彼女の補助はありがたい。


 錬司はアークを発動し全身に当たる光を屈折させた。凄まじい数のアーク連続かつ高速発動が可能にする透明化。錬司の凄さはアークの能力よりも本人の能力のよるところが大きい。


 さらには自身を浮遊され飛行する。屋上から降下し建物の側面に着地する。一階窓下にしゃがみ中を伺う。人はいない、暗い廊下が見えるだけだ。


 錬司は指を小さく動かすと同時にアークで窓の鍵を外す。窓を開けそこから侵入し窓をアークで閉めながら左右を確認する。静かな空間に緊張感が漂う。


 言われた通り左を目指し小走りで進んでいく。すると左側に地下へと続くエレベーターと階段が見えてきた。


『待って』


 立ち止まる。曲がり角に背をつけて先を伺う。そこでは懐中電灯を持った警備員の男が通っていくところだった。警備員が通り過ぎるのを待ってから階段で地下へと向かう。


 地下通路。地下とは思えないほど広い空間は薄い照明に照らされいくつもの部屋がある。錬司は伊吹のナビに従い進んでいく。


 廊下の曲がり角の先、そこに本命の立ち入り禁止エリアがある。錬司は顔を覗かせるとそこには分厚い扉の前に二人の警備員が立っていた。

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