君の父、獅子王宗作はエフェクトの創設者にして我々のかつての仕事仲間だった
信也が錬司に電話を掛ける前日。
アークアカデミアを襲撃してきた謎の部隊。予見されていた脅威。それを撃退したのは一人の男だった。彼らに対処すべく用意されていた秘策は都市伝説として語られる恐怖の対象。
ジャッジメント、獅子王錬司。彼は幻想から現実に顔を出し襲撃者たちを退けた。第三とのやり取りに則って。
仕事は果たした。ジャッジメントとしてではなく錬司は第三アカデミアの学園長室に来ている。報酬を得るためだ。
夕焼けの光が部屋を照らし学園長である賢条の影を濃く映し出す。傍らに立つ教師牧野萌は部屋の影に隠れているが眼鏡の奥から見る鋭い視線は薄れない。部屋の中央、夕日の光の中に錬司は立ち二人を見つめていた。
「お役目ご苦労だったね、錬司君。素晴らしい働きぶりだったよ」
賢条は微笑を浮かべ健闘をねぎらう。とはいえ彼はいつもこの表情だ、それは錬司も知っている。
「ただうちの生徒に手を出したのはいただけないなぁ、それは話になかったはずだけど」
「やつらから手を出してきたんだ、俺からじゃない」
「まあいい、注意はしておきたかっただけだからさ。ほら、形だけでも言っておかなくちゃいけないことってあるだろう? 大人の体面というか」
「無駄話はいい、聞かせてくれ。獅子王宗作について」
そう、本題はそれだ。錬司にとってそれしか関心はない。
自分の父、獅子王宗作。彼がなぜ戦争を仕掛けたのか。その動機を知るために戦ったのだ。
世間で叩かれる彼の悪行とその下で生まれた自分の生い立ち。嫌悪でしかなかった男の真相を知るために。
その扉が、ついに開かれる。
「いいだろう」
賢条から笑みが消え細めている目が開かれる。
真実が、口を開いた。
「君の父、獅子王宗作はエフェクトの創設者にして我々のかつての仕事仲間だった。そんな彼がなぜ戦争行為に走ったのか。それは君たち家族のためだったのさ」
「なに?」
思いもよらぬ言葉に頭が混乱する。
ずっと悪だと思っていた。いや悪なのは変わらないだろう。あの行為によって被害を被った人々はいる。けれどそれが家族のためだったなど考えたこともなかった。
「狂気ではあったがね。だがあの行為によって彼は君の母を、いや、すべてをやり直すつもりだった。自ら壊した世界ごと。すべてをやり直すつもりだったんだよ」
「馬鹿を言うな、あの行為によってなぜそんなことになる」
「詳細は話せないがこれが私から言える事実だ。あの悲惨な行為が成功していれば世界はまた違った形になっていた、君たち家族を含めてね」
理解できない。理屈も分からない。だが彼はそれが真実だと言う。それを肯定することも否定することも錬司の知識では叶わない。
「あの時の彼は、鬼のようだったよ。普段は温厚だったんだがね」
「当然と言えば当然ですがね。自らの思いのまま世界を敵に回した男ですから」
牧野からも宗作への印象が語られる。彼女もまた生前の宗作を知る人物の一人だ。
「世界の行く末を案じ、そして妻を失った世界を否定した。それが獅子王宗作の最後です」
「彼も不憫な男だ。優しすぎたのさ、そしてそれを実現できる力を発明してしまった。いき過ぎた正義は暴走し彼を悪へと変えた。聖人と悪人の境目なんてきっかけ一つで簡単に飛び越える。彼の二面性を知っている者は少なくなってしまったが、だが知っている者ならそう言うんじゃないかな」
そう言われ伊吹のことが脳裏を過った。
『彼はそんな人じゃなかった』
彼を知る人物はなぜか宗作に一定の理解を示す。自分の理解とは反することを言う。自分の印象とかけ離れた言葉に戸惑ってばかりだった。
それが彼の二面性なのか。自分が知っているのは側面に過ぎないのか。迷いが確信を揺るがす。
錬司は初めて宗作の一旦を知った気がした。
「嘘ではないな」
「誓って」
彼の目を見る。眼鏡を掛けた男がいつもの笑顔ではなく真剣な眼差しで見つめてくる。
その目に偽りは感じない。錬司の直感がそう告げていた。
「彼も心苦しく思っているはずさ、君のことをね」
世界を変えようとし、世界に置き去りにされた一人息子。この世界に取り残された彼を宗作はどう思っているのか。
その答えは本人にしか分からない。
「ふん」
「帰るのかい?」
錬司は踵を返した。
「聞きたいことは聞いた、ここにいる意味もない」
これで契約は完了だ。お互い得るものは得てこれにて終了。晴れて自由の身になれた。
錬司は扉を開けるが、出ていく前に足を止めた。
「襲ってきた連中、あれはなんなんだ?」
銃による武装。普通じゃない。どこか大きな組織なのは間違いない。そんなところがなぜ学園のイベントを襲撃したのか。所属と目的はなんなのか。
「現在調査中さ。まったくひどいことをする人たちもいるものだ」
「…………」
錬司は振り返り賢条を見る。その顔はいつもの微笑に変わっていた。




