次に敵の戦力と戦術を伝える
天王寺の表情から確信はないようだがそれでも知りたい。
第一の狙い、アカデミア戦争の目的はなんなのか。
「兵士の一人が、ランクアップのために、そう言い残したようだ」
「ランクアップ?」
その言葉は聞いたことがある。というよりもアカデミアの生徒なら誰しもが知っていることだ。誰だって一度は夢見て諦める、そんな都合のいいおとぎ話。
ランクアップ。異能の強化。ランクによって分けられたアーク、その境目を無くし誰しもが理想を叶える魔法だ。低ランクの烙印を押された者もこれが実現すれば高ランクになれる。
だがそうはいかない。アークは固定。成長も強化もない。与えられた時が完成形でこれ以上のものは望めない。憧れのアークホルダーに待ち受ける残酷な現実だ。
それがランクアップ。それが第一の目的?
「そんな馬鹿な。ランクアップは不可能なはずだろ? 仮に出来たとしてそれが殺戮行為となんの関係が」
ランクアップは現在も研究されているようだが現在の結論は同じ。アークなどの異能を強化、成長させることは出来ない。だから最初で決まる。ランク至上主義なんてものがまかり通っていたのもそういう背景があるからだ。
「それは私にも分からん。この言葉の真偽も不明だ。やつらの狙いがなんであれ我々は戦わなければならない。己を、そして仲間を守るためにもだ」
にわかには信じられない話だが天王寺の言う通り本当か嘘か分からない、考え過ぎもよくない。重要なのは敵からの備えだ。
「ちなみに、学園側には話したのか?」
「同じことだ。信じるに値しない」
「でもさ、実際襲撃を受けたわけだろ? 俺たちだってそれで信じる気になったやつもいるわけだし先生たちだって」
アーク大運動会に侵入してきた正体不明の集団。皮肉ではあるがあの襲撃があったから彼女の言うことに信憑性が増したのは事実だ。それで信じる人も出てきた。
「改めて進言したが却下されたさ。犯行グループは現在調査中だと門前払いだ」
「くそ」
しかし大人はそう簡単には信じてくれない。
「まあ、無理もないわよね。第一との繋がりを証明できたわけじゃないし」
結局自分たちでなんとかするしかない。信也からすれば大人は腰が重いか耳が遠すぎる。
「次に敵の戦力と戦術を伝える。まず、やつらは空中から現れる。巨大な魚の怪物を改造した要塞、兵士はダグラスと呼んでいた。そこがやつらの拠点、もしくは動く前線基地だ」
「魚が浮いてるのか?」
驚きだ。普通に意外過ぎる。
「そうだ。外装は装甲で覆われ並大抵の攻撃ではびくともしない。背部、ヒレに当たる部分が司令部になっている。また腹部下は揚陸艇の降下ハッチとなっておりそこからいくつもの船が発進する。側面にはいくつものカタパルトがありそこからつぼみ型のカプセルを射出、地上や建物を貫通し中に収納されていた怪物を送り込む」
「怪物?」
聞いているだけでとんでもないのが想像できる。
「全長二メートルほどの人型、顔は犬のような形をした悪魔だ。体表に毛はなく全身が黒い。最大の特徴は背中に何本もの触手が生え有機的な銃器を両手、ならび触手が所持していることだ。それで複数の遠距離攻撃をしてくる。身体能力も人より高く耐久力もある。銃弾数発ならそのまま活動可能。分かりやすく言えばグレネードランチャーを四つも撃てる大男といったところだ」
「マジかよ」
怪物。もはや人ですらない。
「揚陸艇から出てくる兵士は完全武装でフルフェイスのヘルメットを着用している。これは以前アーク大運動会を襲撃してきたのと同じだな。戦力の大部分がこいつらだ。とはいえ油断はするなよ、装備もそうだがやつら個人の練度や士気、連携精度は高い」
「それは襲撃の時も思ったよ」
大運動会を襲ってきた集団の動きは昨日今日銃を渡された人の動きではない。訓練を行った、それも実戦経験のある一級の兵士だ。迷いのない的確な行動、それが全員なんて危険過ぎる。
「これらが一般兵と呼べるものだが、やつらの本命は生徒会役員たちだ。それが十二人いるらしい。中でも最高位の生徒会会長、そして三人の上級役員はトライリッターと呼ばれている実力者だ。先日襲撃してきた仮面の男、やつもトライリッターだ」
信也は直接見たわけではないが映像で確認している。白い仮面をつけた黒の長髪、目だけがギロついてる不気味な男。あれがトライリッターだったのか。
「はい、強かったですね。私も戦ったのですが退けられました」
「マジかよ」
琉衣が戦って勝てなかったのは驚きだ。というのも彼女は知っての通りランクA。それでも止められなかったというだけで敵の強さが伺える。
その驚きも一度だけではない。
「あの敵の強さ、それは異能に対する洞察力と判断力です。私のアークを見るなり身体能力と通常兵器だけで対応されたのは初めてです。言動は粗暴ですがその実冷静沈着です。気を付けてください」
「異能を使わず戦ったのか!?」
なんと異能を使わず。それで彼女に勝ったのだ。いったいどうやって? 本人が言っているのだから嘘ではないのだろうが信じられない。
「はい。悔しいですが及ばず。すみません会長、あそこで仕留めていれば」
「いい。済んだことを悔やんでも仕方がない。それにやつは他とは毛色が違う、お前が無事ならそれでいい」
「…………」
信也は黙り込み考える。




