慌ただしくも刺激的な、アークアカデミアの一日が今日も始まった
「アークアカデミア三年生、田口雷蔵だな。アークの自慢は構わんが恐喝行為は規則違反だ。生徒会の粛清対象だ。今回は見逃してやる。だが次はない。分かったな?」
「ち、ちくしょー!」
「あ、待ってくださいよ田口さーん!」
学園最高ランクを誇る天王寺にすごまれては抵抗もできず田口率いる不良三人組は走って逃げていった。
「ふん。私の世界では不良の大将だというのに、こうも違うとはな」
刀を抜くまでもなく争いは収まった。天王寺は鞘を地面に突き立て柄に両手を乗せる。
「ありがとうね天王寺さん、助かったよ」
「生徒会として当然のことをしたまでだ。ランク至上主義、私が蒔いた種とはいえ刈り取るのは手間だがな」
瞼を閉じ自省するように言う。確かにアークアカデミアの生徒はランク至上主義に傾倒している者が多い。それも全ては生徒会が主導していたからだ。
だがそれにも理由があったのだと信也は知っている。だから怒りとか恨みとかそういうのはもう持っていない。そうしなければいけないほど必死だった彼女の気持ちを知ってしまったのだから。
「ほんとだよ、面倒なことしやがって。でもまあ、サンキューな」
「ふん。さきほども言ったが生徒会の仕事をしたまでだ」
「そうかい」
天王寺が横目で信也を見やる。その目に親しみは感じないが敵意も感じない。強いて言うなら悪友みたいな? 以前の殺伐とした視線とは違う、どこか深いところで繋がっているような感じだった。
「信也、放課後生徒会室で会議がある。お前も参加しろ」
「えー」
「なんだ?」
睨んでくる。怖い。
「嘘だって。でももっとこう、頼み方があるだろ?」
「いいから来い。以上だ」
そう言うと彼女は消えてしまった。姿が一瞬でいなくなる。呼び止める間もない。
「まったく」
相変わらず自分勝手な態度だ。これからさきも同じなのだろうか。
「でも生徒会長、丸くなったよね?」
「そうかあ?」
「そうだよ」
姫宮はそう言うが信也としてはあまりピンとこない。だけど考えてみればそうかもしれない。今もこうして助けに来てくれたわけだし。以前なら絶対こうはならなかった。
アーク大運動会の事件以降生徒会と他の部長たちの軋轢は解消しつつある。というのも天王寺が全部長の強制参加を撤廃したからだ。それにランク至上主義の押し付けも止め学園全体に波及しつつある。田口みたいな時代遅れもいるがこの変化は大きい。生徒会の方向転身は学園をいい方向に向けている。
ランクで人を従わせるのではない、支配で束ねるんじゃない。
協力による団結に向かって。
そんな風になって信也はよかったと思っていた。
「ていうかなんで姫宮はあいつとそんな仲いいんだよ」
いつからあんな風に挨拶するようになったのか。前まで敵の親玉だったというのに。普通もっと躊躇いとかあっていいが。
「なんでって、なんで? 今では味方なんでしょ? なら仲良くなって当然じゃん!」
信也の疑問をとびっきりの笑顔と明るさで粉砕する。それで納得する。そうだよね、いちいち躊躇と敵対心みたいなのを持ち出す俺が矮小だったな、そうだったね。
「やっぱお前が一番すごいわ」
器が大きいのか単純なのか。判別はなかなか付かないけれど彼女らしい。信也としてはあれこれ考えるよりなにも考えてない方が得なんてずるい気もしちゃうけど。
「て、しまった遅刻だった!」
「うおおお! 頑張れ私! 間に合ええええ!」
「いやもう遅刻なんだって」
「間に合ええええ!」
「ああ、もう!」
やっぱりなにも考えてない!!
信也と姫宮は急いで教室に向かって走り出した。
慌ただしくも刺激的な、アークアカデミアの一日が今日も始まった。
*
それで放課後、信也と姫宮は生徒会室に向かい廊下を歩いていた。気持ち的には無視してやってもいいのだがそういうわけにもいかない。一緒に戦おうと約束したことだ、お互い素直になれない面はあれどやることはやらなくてはならない。信也だってやる気がないわけではない。
この学園に訪れる悲劇を知ってしまった今では。
第一アカデミア。またの名をフォースアカデミア。三つある異能の内フォースに特化した学園だ。並行世界ではフォースアカデミアが軍隊を率いてアークアカデミアを襲撃している。何度も何度も。そしていずれここにも来る。その戦力は強大であの天王寺ですら一度も勝てていない。それだけの強敵だ。
フォース。信也はアークしか知らないがいったいどんな異能なのか。フォースアカデミアは特に偏差値の高い学園でエリート校で有名だ、そんな人たちに与えられる異能。興味はあるが、それが敵だと思うと恐ろしい。
「信也君考え事?」
「そりゃそうだろ」
隣を歩く姫宮はいつも通りで、考え事をしていても晩飯のおかずのことだろう。




