なにをしている
朝に小鳥がなぜ鳴くか、早朝の空気はなぜ新鮮に感じるのか。早起きすればなぜ三文の得なのか。朝にはいいことがいろいろあるけれど。だけど確かに言えることがある。
今そんなのはどうだっていい!
「遅刻だあああ!」
やばい! そう心の中通学路を爆走するのは神崎信也だ。頑張れ自分、俺ならやれる。次の電信柱まで全力疾走して次の交差点まで小走りにしてそれから全力疾走でなんとか間に合うはず!
そう! 遅刻の登校中に小鳥の鳴き声とか早朝の空気感とかお呼びじゃないんだよ、てか遅刻してるからそんなのないんだよ。鳴けよ、せめて。俺を応援しろ!
「はあ、はあ。よっしゃ~」
いつもの登校道を走り切りなんとかアークアカデミアの正門前にたどり着く。時計を確認する。大丈夫、まだ間に合う時間だ。正門まで小走りにしてそこから全力疾走か? いや、少しくらいなら歩いてもいいよな? いやいや、それでうさぎと亀の結末になったら意味ないし。教室までの距離と時間と体力を計算する。それはもうIQ200くらいの勢いで計算する。
(くそ、分からん……)
朝っぱらから体も頭も疲れ果てるがなにやら正門前が騒がしい。女子生徒の後ろ姿と男子生徒三人組の姿が見える。
そういうよりもこれは見覚えがある。
「ここを通りたかったら出すもの出してもらおうか」
「うえーん」
またかよ!
その後ろ姿は間違いない、姫宮詩音だ。さらにその前に立つ二人はいつぞやの不良組だった。
なんなのだろう、彼女には不良ほいほいみたいに引きつける能力でもあるのだろうか。
「おはよう姫宮、朝っぱらから大変そうだな」
「信也君!」
姫宮が振り返る。栗色のセミロングが揺れ大きな瞳が信也を見る。アイドル志望ということもあって可愛らしい容姿をしているがその表情はステージでは見せられないほど困り果てている。
「イレギュラー? またお前かよ!」
「こっちのセリフだ、お前こそまたかよ。全然凝りてねえな」
うろ覚えだが田口という名前だったはずだ。両腕から電流を出すのを覚えている。
「うるさい! 懲りるもなにもこれがアカデミアのあるべき形、ランク至上主義の学園じゃランクが高いやつが低いやつを支配するんだよ!」
「なら俺が止めろと言ったらお前は止めるのかよ?」
「ぐうう」
返答に困っている。これくらいの反論用意しておいて欲しいものだ。上には上がいるんだから彼だって被支配階級になりかねないというのに。
「イレギュラー……。ランクが上のくせに下のやつを庇うなんて気に入らねえ」
「アホか! ランクで人を見下してるやつの方がよっぽど気に入らねえんだよ! 結局お前はランク至上主義を良いことにわがまましたいだけじゃねえか! 信念もなにもない、ただのチンピラが!」
「んだとお! 先輩に対してなんだその口の使い方は!」
「今度は年齢かよ」
駄目だ、話にならない。なにかとかっこつけて自分が優位に立ちたいだけだ。
「なにをしている」
そこで声を掛けられた。まるで日本刀の刃のように鋭い声が俺たちの耳に突き刺さる。
全員が振り返る。そこにいたのは、
「お前」
「なぜここに!?」
「あ、天王寺さんだ! おっはよーうございます!」
生徒会長、天王寺未来だった。黒の長髪に生徒会専用の白の制服。そして彼女が持つ黒い鞘と日本刀は彼女の特徴だ。今も雰囲気は抜き身の刃のように鋭い。
今まで確かにいなかった。だが彼女にはランクA+パラレル・シフトがある。それの応用、空間転移で現れたのだ。
何度も戦った生徒会のトップの登場にみな少なからず緊張が走っている。能天気に挨拶しているのは姫宮だけだ。よく敵対していたトップにあいさつ出来るものだと感心したくなる。
「おはよう」
「お前も律儀に返事するのかよ!」
と思っていたのだが天王寺も不愛想なりに返事をしてくれた。予想外の反応だがそういうことならと自分もしてみる。
「おはよう」
「…………」
「なんで俺は無視なんだよ!」
「それで、何事だ?」
「お前が俺のあいさつを無視したんだよ!」
「黙れ信也、さきほどから迷惑だ」
「そうだそうだ!」
「ええ……」
(うそでしょ、なんで俺がこんな扱い? ていうか姫宮お前……)
悲しい現実である。




