信頼なんて要らない? 信用も友情も要らない? 嘘を吐くな!
「無様だな信也。能力が同じでもお前のガンスリンガーは会長とは比べ物にならん。しょせんコピー品だ」
パラレル・シフトに翻弄され狙いが定まらない。それだけでなく並行世界から重ねてくる斬撃がいくつも襲ってくる。
「ちっ」
なんとか側面に飛び込み回避する。
攻防において隙がない。並行世界の能力ではあるが同時に空間すら超越してくる。五次元とは三次元の上位次元。並行世界を操れるとは空間を操れるに等しい。その実力は宍道琉衣を超えている。
信也は二丁拳銃で天王寺の後を追って銃を撃つも牽制程度にしかなっていない。反対に天王寺の攻撃は防ぐ術がない。
防戦一方だ。このままではいずれパラレル・シフトの攻撃が当たる。
やはり彼女は強い。能力も、人としての意思も。それか彼女は強すぎたのかもしれない。
信頼なんて要らない。信用なんて要らない。友情なんて要らない。
たった一人でここまで来れるほどに。このままでは本当に一人で学園を統一し第一アカデミアと戦っていく。
多少の軋轢なんて引きずって、そのまま彼女は進んでいく。
だから、自分が止めなくてはならない。
強い彼女に勝つために。
信也は彼女と戦っていくがその中で気づき始めていた。斬撃した後どの位置再登場するか。それが読めれば勝機はある。
だがチャンスは一度きり。こちらの狙いがバレれば必ず対策される。その前に!
信也は銃を撃つ。それは躱される。しかしこれは計算通り。天王寺にパラレル。フュージョンを使わせるための陽動。
本命は次の一発。ガンスリンガーで百発百中だとしても撃たなくてはもちろん当たらない。だから大事なのはタイミングだ。
信也は右手を左脇に通し背後を撃ち抜いた。
瞬間。
「があ!」
振り返ることなく発砲した背後撃ち。直後天王寺の悲鳴が上がった。
ゆっくりと振り返る。天王寺は足を負傷し座り込んでいた。振り返る素振りすら見せない動作での射撃。そのため反応できなかったのだ。
「ブラインドショット、だと?」
驚きと困惑、痛みに耐えながら鋭い目つきは変わらない。信也はゆっくりと振り返る。
「お前は強い。工夫なんて必要ないくらいにな。だから戦い方が変わらないんだよ。パターン化してることに気づかなかったのか? このタイミングで来ると思ったよ」
「く」
「その足じゃもう無理だろ」
「ふざけるな!」
天王寺が起き上がろうと足に力を入れるが痛みが走りすぐに座り込んでしまう。
彼女はもう戦えない。決着だ。彼女の長い戦い。それを終わらせたのはたった一発の銃弾だった。
「く」
悔しさに声が漏れる。
「こんなところで、終わってたまるかッ」
彼女の気持ちはまだ折れていない。胸の炎は消えていない。それは見ていて分かる。彼女は強い。
「ここで私が諦めたら、他のみんなはどうなる」
彼女の戦う理由、それを信也はもう知っている。だから彼女の思いも分かる。自分の願いも命も、もう自分だけのものじゃないってことを。
「私は、ここで負けるわけにはいかないんだ!」
そんな彼女でも、さすがに足を怪我しては戦えない。
涙が落ちる。認めたくない現実が痛みとなって現れて求める願いを足の怪我が否定してくる。
「どうして、こんなことになるの……?」
はじめて、彼女の弱音が漏れた。
彼女の強い意志、それは殻となって彼女を形作った。だけどそれはそうしなければならないほどに追い詰められていたからだ。
これが、彼女の素なのかもしれない。
「どうして……? どうして、なんで、よりにもよってあなたなんですか? あなたが最 後に言った言葉を守りたくて、ここまで頑張ってきたのに。どうして!」
誰よりもみなのことを思っているのに誰も自分を知らない。その事実は天王寺にとって皮肉でしかない。おまけに今回は信也が敵となって立ち塞がったのだ、神崎会長と同じ人物が。
「あなたが、私を否定するんですか、会長!? 私は、あなたとの約束を守ろうと、今まで頑張ってきたのに!」
辛い。辛くないはずがない。たった一人の戦いは彼女を追い詰める。みんなのために戦っているのに誰にも理解されない、それはどんな気持ちなのか。
「私の戦いは、もう、終わっていたのか……?」
なんのために戦っているのか、その目的すら見失いそうになる。
「それは違う」
信也の一言に天王寺が顔を上げる。涙に濡れた瞳を見た。
彼女の話を聞いて信也も彼女の動機を理解した。どうしてランク至上主義を押し通してきたのか、なぜここまで強行なのか。その謎は彼女の過去にあった。壮絶な戦いを一人で戦い抜いてきたのだ。
「戦いは終わってないし、努力も無駄なんかじゃない。でもな」
それを、無意味なんて思わない。
信也は認めていた、目の前にいる一人の女性を。これまでみなのために戦ってきた人をどうして責められよう。彼女こそ偉大なアークホルダーだ。
だけど、正解でもない。彼女はそれを誤った。
踏み間違えたのだ、進むべき道を。
「あんたは諦めたんだ、仲間を信じるという気持ちを!」
それが彼女最大の失敗で、それが一番認められない。
「ランク至上主義に頼らなければ仲間を動かすことが出来ないと、あんたは諦めたんだ!」
仲間のために戦っているはずの彼女が、なんで仲間を諦める? 気持ちは分かる。だけどそれは手放してならないはずのものだ。
「信頼なんて要らない? 信用も友情も要らない? 嘘を吐くな! お前が! 一番それを大事にしてきたんだろうが!」
なぜだろう、彼女のことを理解している。いや、理解しているからこそ許せない。
「そんなの……分かったような口を利くな! お前になにが分かる? 何回も、何十回も仲間や友に出会い、その度に否定される気持ちが。その苦しみが!」
そう言われて彼女も納得できるはずがない。その時の苦しみをただの理想論で否定されたくない。
「私は絶対に諦めない。この学園を統一し、戦うんだ。私がやらなくては駄目なんだ」
「お前、まだそんなことを」
怒りをやる気に転化して天王寺は立ち上がり始めた。アドレナリンで痛みが麻痺しているのか、だとしても戦える状態ではない。無理して動けばさらに悪化する。下手すれば取り返しがつかない。
これ以上彼女を傷つけるわけにもいかないが戦わないわけにもいかない。どうすれば?
その時だった。
「そこまでよ!」
両者の間に人影が落ちてくる。
「深優?」
真田深優。ジャッジメントにやられ医務室に送られたはずの彼女が降り立つ。
「彼女は戦わせない。もしやるなら私がお前と戦う、イレギュラー」
「お前」




