それさえあれば信頼も信用も、友情だってなくていい!
ここに神崎信也はいない。似ているけれど微妙に違う、並行世界とはそういうものではあるがよりにもよって神崎信也がいない世界とは。
「ごめんなさい。あなたにランクA+、それも並行世界の能力があるのは確かなようだけどそれだけであなたの言うことまで事実とは認められないわ。分かってもらえないかしら? それに、それが本当だとしてもこの世界でも同じことが起きるとは限らないでしょう?」
「…………」
「あなたの言うことはちゃんと留意しておくわ。忠告ありがとうね」
信じていないだろう。慰めだけの安い言葉だとすぐに分かった。
このままじゃ駄目だ、このままじゃ駄目だ。このままではあの時の二の舞だ。またみんなを助けられない。見殺しにしてしまう。
そんな強迫が胸の内から叫び続けるが、でも本当にそうなのだろうか。冷静になってみると時雨が言ったようにこの世界では何も起きないかもしれない。並行世界といってもすべてが同じじゃない。神崎信也がいないように第一が襲ってこないという別世界の可能性だってある。
はじめはあんなにも激しく燃え盛っていた思いも数日の平穏に勢いを弱めていく。疑念は決意に水を差し今では自分が間違っていたのだろうかとこの世界に慣れる準備を覚悟し始めていた。幸い生徒会のみんなは前の世界と同じくいい人だ。自分の勘違いならそれに越したことはない。
そうして新しい世界を受け入れ順応し始めていた時だった。
なんて馬鹿なのだろう。あの悲劇を目の当たりにしておいて、あんなに後悔しておいて、この身は神崎会長に託されたというのに。
『こちらは、第一アカデミアです。あなたたちには、死んでもらいます』
突如上空から響き渡る強襲の音。地上に轟く悲鳴と怒号、それらを吹き飛ばす爆発音。
私は、なにをしていたんだろう。この数日をなぜ無為に過ごした?
仲間は謝罪して戦いに赴き散っていった。仲間の死になにを詫びればいい?
そんなものはない、遅すぎる。なにもしなければ手遅れになると知ったのに、私はまた失敗を犯した。見殺しにしたんだ、自分のせいで。
もう、迷わない。
次の世界、そこは前の世界と同じだった。神崎はおらずメンバーは同じ。天王寺は必死に訴えた。何度も訴えた。だけどそれが通ることはなく惨劇は三度繰り返された。
別の世界に移った。そこでも説得しようとしたが駄目だった。だけど分かっていたことだ、周りから理解を得られないならいい、一人で戦うだけだ。神崎からもらった刀だけでなく銃器も調達し様々な場所に配置してその時を待つ。
そして戦争当日、天王寺はディメンション・エスケープで走り回り銃を撃ち刀を振っては別の場所に移って戦った。出来ることをした。
だけど、第一の勢力は天王寺一人だけでどうにかなるものじゃなく、またしても惨敗した。
何度、何度やっても敵わない。敵は強大で、協力しなければ戦いにならないのに周りにはそれが伝わらない。世界を移動する度にみんなはどんどん他人になっていく。自分が抱く思い出は端から見れば妄想に映り理解なんて得られない。
信頼もない。信用もない。友情もない。ただの他人なんだ。別の世界からやってきた余所者。
多くの挫折と悲しみが胸を貫く。だけど諦めない。この胸にはまだみんなとの絆が残っているから。みんなから託された願いのために戦う。そのためなら!
手段は、選ばない!
何度目になるかも分からない。二十を超えてそんなものどうでもよくなった。
新しい世界の生徒会室で、天王寺は宣言する。
「今日から生徒会は私の指揮下に入ってもらう」
よく知った、初対面の四人。
「この学園で主導権を持つのはランクが高い者が相応しい。よって、私がこの学園を導く」
反対も反抗も押しつぶす。この道を邪魔するのならたとえ彼女たちであっても容赦しない。
託された願い。自分の思い。
叶えるまで、諦めたりしない!
「私は天王寺未来。第三アカデミアの生徒会長。そして、この学園はランク至上主義に生まれ変わる!」
いつか勝利する、その日まで。
*
会場の広場、第一アカデミアの襲撃により無人の観客になった場所で、天王寺は事の経緯を話し終えた。
「信じなくてもいい、そんなもの要らない。必要なのは力だ。やつらを打ち破るだけの。それさえあれば信頼も信用も、友情だってなくていい!」
覚悟に固められた彼女の信念が叫ばれる。
「今度こそやつらに勝つんだ! そのためだけに今までを頑張ってきた。これまでの犠牲を無駄にはさせない」
決意に彩られた眼差しが刺さる。
これまで多くの戦いに参加して、何度も敗北してきた。それでも諦めずたった一人で戦い続ける彼女の強さ。それはランクだけで測れるものじゃない、人としての強さだ。
「あともう少しで学園は統一される。ランク至上主義によって一丸となり、私が率いて戦う。次のアカデミア戦争で勝つのは我々だ!」
それが天王寺未来。いくつもの並行世界を股にかけ、多くの敗戦の上に立つ孤独のアークホルダー。
「あと少しなんだ。なのになぜ、なぜお前がここにいる? 今までいなかったのに、それがなぜ私の邪魔となって現れた!? 神崎信也!」
天王寺の叫びが、正面に立つ神崎に向けられる。
彼女の話を聞き終えて神崎は精悍な面持ちだ。彼女の過去を知った。隣に立つ姫宮も初めて知る事実に驚いている。彼女の過去はそれだけ壮絶で言葉では言い表せない。
「あんたの戦う理由は分かったよ。でも、それでも俺は認めるわけにはいかないな」
神崎の言葉に天王寺の表情が怒りに歪む。
「あんたのやり方は間違ってる。託した俺だってこんなこと望んでいないはずだ!」
「分かったような口を利くな!」
天王寺が刀を構える。
「お前は会長じゃない、ただの並行同位体だ。決着をつけてやるイレギュラー! この場で倒し、この学園を統一する!」
「させるかよ!」
二人は走り出した。片や願いのために。片や信念のために。
「パラレル・フュージョン!」
「パラレル・シフト!」
異能と異能、思いと思いがぶつかり合う。
彼女の願いを知った。その願いに至るまでの過去を知った。戦う動機に理解を覚えたことを恥ずかしいとは思わない。本当に、彼女はすごいと思ったからだ。
(お前はすごいよ。だけど)
けれど、納得はしていない。
彼女を否定しようとは思わない。だけど認められない。
むしろ悔しくもある。
なぜ、なぜ、なぜ。そんなにも強く思っているのなら、どうして。
信也の目が真剣な眼差しで戦意を向ける。天王寺はすでに刀を構えアークを発動している。パラレル・シフトという並行世界系としてはおそらくトップの実力者。そんな彼女に対抗するために、信也もアークを発揮する。
「ガンスリンガー!」
青いジャケット姿のガンマン姿。並行世界にいるもう一人の自分。それは天王寺がいた世界の生徒会長だった。自分とは全然違う、すごい人物。度胸があって、機転が利いて、なにより仲間思いだったのが伝わってくる。
だからこそ思うのだ。今の天王時が間違っていると。
天王寺目掛け発砲する。だがパラレル・シフトによって彼女は場所を変え弾丸はかすりもしない。




