↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/255

お前こそが、俺たちの未来なんだよ

 時雨の声だ。今まで聞こえなかったが彼女も無事なようだ。


「時雨さん、真田さんが!」

『分かってる、ごめんなさい。私の責任だわ』

「違うんです! 私が、私のせいで!」

「もういい!」


 神崎の怒鳴り声に口を閉ざす。


「いい加減にしろ、ここは戦場だぞ! 通夜なら後でやれ!」

「…………」


 天王寺は俯き足下を見つめた。彼の言う通りだ、自分は甘えている。ここは戦場で自分だけでなく仲間の死をも覚悟していなくちゃいけなかった。


 自分には、それが足りなかった。情けない。自分はこの場に相応しくない。反省と後悔に押し潰されそうだ。


「天王寺」


 そんな自分を呼ぶ神崎の声はさきほどと違い優しいものだった。


「気持ちは分かる。でも今は切り替えろ」


 天王寺は頷いた。悔しさと不甲斐なさに泣きながら、それでも頷く。


 ここで泣いていてはなにも変わらない。ここで死んだら真田さんは無駄死にだ。それだけは絶対に駄目だ。


「通信機を貸してくれ」


 インカムを外し神崎に渡す。


「藤原、俺だ。状況は?」


『かなり悪いわ。敵の増援は止まらないし、それに』


 そこで言いにくそうに彼女の声が言い淀む。だけど意を決めたように言い出した。


『第一の異能者と交戦していた奏音は戦死、瑠衣も押されてるわ』

「そんな」

「分かった」


 小笠原奏音の訃報。そしてランクA+である瑠衣までもが苦戦するほどの相手がいる。

 天王寺は胸が締め付けられる。その代わり神崎は深刻な表情の中に鋭い目つきは崩さなかった。

 だが事態は最悪と言っていい。解決策も打開策もない。もとより圧倒的な物量に強力な異能者まで揃ってる。


 勝ち目が見えない暗闇の海辺に立っている。なにもない。灯台の明かりはなく絶望が押し寄せる。


「藤原、俺たちは負けるか?」


 その言葉に天王寺の胸がドキっと跳ねる。


 神崎も悪い冗談で聞いているわけではない、深刻な表情だ。


『……ええ、残念だけど』


 天王寺の表情が凍りつき、悔しさに歪む。ショックが胸を押し潰す。時雨が言うことの否定できない重み。天王寺は初めて彼女の能力を呪った。


「そうか」


 それでも神崎の様子は変わらない。ある程度予想していたんだろう。絶対の未来を告げられてなお決意を失っていない。


「俺に考えがある」

「え」


 考え? 戦力差はあまりにも大きく未来は確定してしまったというのに?


 天王寺には彼の考えが読めないが、そこで神崎が天王寺を見た。


「天王寺、お前のアークで別の並行世界に行け。まだ第一が来てない世界線に。そこでやり直すんだ、次こそ第一アカデミアに勝て」

「そんな」


 天王寺のアークなら並行世界に行ける。今までもしたことはあるが、でも最後にはこの次元に戻ってきた。別の並行世界に行ったきりなんてしたことがない。


「あいつらの襲撃は藤原の未来視でも分からなかった。ということはそもそも未来に存在しなかった存在ということになる。なら答えは簡単だ。やつらは並行世界から来た。この世界に存在しなかったから藤原の未来視でも分からなかったんだ」


 藤原の未来視は根拠不要のものじゃない、現状に基づいたものだ。だからこの場に存在しないものが現れたらそこから再度未来視が行われる。


「たぶんだが藤原の未来視には天王寺の死もあったんだろうがそれはあくまでこの次元のものだ、並行世界に行ったら分からない。だよな?」

『それは、そうね』


 ここが天王寺が亡くなる世界線だとしても別の並行世界に移ればいい。そこから先の未来はこの次元にいる藤原には分からない。


「やつらが並行世界からたまたま俺たちの次元を攻めてきたのかは分からないが奴らの練度と士気は初戦とは思えない。きっと別の並行世界にも侵攻している」

「それは」


 その可能性は高い。


 この惨劇は初めてではない、並行世界全体で起きているかもしれない。


「でも、俺たちにはお前がいる。この事態を知っていて、敵が来るのを知っているお前ならなんとか出来るかもしれない。だからだ、天王寺。お前は並行世界に行け」


 神崎に肩を掴まれる。彼の熱い頼み、願いが託される。


「で、でも! 会長たちは? 時雨さんや今も戦ってる瑠衣さんは!? まだ逃げ遅れてる生徒だっているのに!」


 彼の言う通り、この戦いが並行世界全体で起きているならまだまだ続く。こんなことが繰り返され多くの人が殺される。


 だけど別の並行世界に行くということはこの世界を見捨てるということだ。


 まだ生きている人を、仲間を、見殺しにするということだ。


「私だけ逃げるなんて出来ません! 他になにか方法が」

「これが一番現実的なんだよ!」


 神崎の大声が、天王寺の主張を遮った。


「いいか、よく聞けよ? ここでお前が死んでみろ、全部無意味だ。なんのためにみんな殺されたと思ってる? 小笠原も、真田もだ! 無駄死にしたいのか!」


 その声は必死だった。表情もだ。こんなにも切羽詰まった彼は初めてだ。


「あいつらの犠牲を無駄にしないためにもお前が繋ぐんだ。俺たちの犠牲を、この次元を踏み台にして未来に行くんだよ!」

「う、う」

「お前こそが、俺たちの未来なんだよ」


 絶望しかない未来で、彼女だけが唯一の希望だ。この世界を犠牲にして前に進めるのは天王寺しかいない。


 天王寺は、涙で溢れた。欲しいのはそんな未来じゃない。


 本当に救いたいのは、目の前にいる人たちなのに。


「はい」


 道は一つだ。いくつもの中から選ぶことができても進めるのは一つだけ。


 涙で濡れた道を、天王寺は歩むと決めた。


「伏せろ!」


 瞬間、神崎に頭を押さえられた。


「ガンスリンガー!」


 直後発砲音が鼓膜を揺らす。


 二発の銃声。一つは天王寺のいた場所を通過しもう一つは神崎が撃ち返したものだった。


 天王寺は振り返る。


「面白い話をしているなあ。ランクA+だとは思っていたがまさか五次元かよ、こいつは驚きだ」

「お前え!」


 そこにいたのは白い仮面を付けた長髪の男。深優を狙撃したやつだった。


「知ってるのか?」

「こいつが真田さんを」

「そうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。