『……える!? 聞こえる!? 聞こえるなら返事をして!』
深優は地面を蹴り突進しようとする。
「暴れ過ぎだ。我はランクB、シャット・アウトを発動! 相手の異能を無効化する」
「なに?」
地面を踏み込む自慢の足。そこから力がなくなり深優は失速、前に一歩進むだけだった。
「そんな!」
ブラック・スワンの不発。異能を打ち消す異能。
深優の表情が凍りつく。
「おいおい兄さん、いいとこだったのに止めるなよな。俺までなくなっちまうだろ?」
「長いんだ、さっさと終わらせるぞ」
三人が深優に近づいてくる。今の彼女はただの人だ、身体的には普通の女子高生でしかない。そこにスポーツ体型の男子三人では勝ち目がない。
「真田さん逃げて!」
深優は立ち尽くしている。逃げても無駄だと諦めているのか、俯きながら動かない。
三人が前に立つ。あらゆる攻撃を無力化するバリア、相手の異能をコピーする異能、どんな強力な異能も打ち消す異能。
対異能戦に特化した三人組。勝利を確信している男たちにはすでに笑みが浮かんでいる。
「あばよ!」
コピーキャットを有する伊吹が腕を振り上げる。非力な女子に全力の拳を振り下ろされる。
瞬間だった。深優は伊吹の胸ぐらを掴む。
にやりと笑った。
彼女は諦めていなかった。無防備に近づいてきたのは向こうの方。深優は膝蹴りで股間を蹴り上げたのだ。
「があああ!」
あまりの痛みに伊吹は倒れその場でうずくまる。
「掴んじまえばバリアもはれないでしょ」
「お前ええ!」
「ブラック・スワン!」
「バリアカーテン!」
深優は即座にアークを使い元太を襲う。しかしバリアカーテンによって阻まれるがそれも計算の上。深優はバリアを足場にして優雅に飛び掛かったのだ。
今までの戦闘でバリアが貼れるのは一枚のみ。自分を守っていたら他人は守れない。機転を効かせた反撃。油断していた三人組は後手に回りなすがまま。
「わ、我のシャット」
「遅い!」
無効化させる前に蹴る! 西部劇の早打ち勝負よろしくどっちが早く相手を取るかの戦い。深優は大きく広げた右足で優雅の頭を狙っている。
「やった!」
(さすが真田さん!)
絶望的な状況でも諦めず、そこから勝機を見出す。彼女の不屈の闘志が勝利を手繰り寄せた。
バン。
「――――」
深優の足が振るわれる。しかしそれは空振りに終わり、飛びかかった彼女は地面に倒れ込んだ。不安定な体の違和感と激痛に顔をしかめながら自身の足を見る。
右足の、膝から先がなくなっていた。血が溢れ出し千切れた足が地面に落ちている。
音がした方向を見る。建物の屋上、そこにレンズの反射光が小さく光っていた。
白い仮面の男、ヴィクターだった。屋上でうつ伏せになり狙撃用ライフルのスコープを覗いている。異能者同士を戦わせ自分は安全な場所から狙撃する。確実な勝利のためにヴィクターはこの機を狙っていたのだ。
「くそ……」
気づけなかった。いや、気づけるはずがない。目の前に三人の対異能者部隊がいて他にも注意を向けろという方が無茶な話。だがこの勝利主義者はそんな隙すら許さない。
勝利のためにあらゆる手段を行う。
建物の屋上から狙われていることを知り、深優は背後に振り向いた。
「ごめん、未来」
それが彼女の最後の言葉だった。
頭が弾かれる。血を流し二発目の銃声と共に彼女の体が倒れる音がした。
「あ……」
その光景に天王寺は頭が真っ白だった。頭の回路が混線を起こして理解が追いつかない。膝が崩れその場に座り込む。ぽつりと一人きり、彼女の遺体をじっと眺めていた。
そこへ、あの声が聞こえてくる。
『こちらは、第一アークアカデミアです。あなたちには、死んでもらいます』
「あああああああ!」
死んだ、真田さんが死んだ。殺された。それを理解した瞬間感情が爆発した。
心が暴れ怒りに支配される。だけど僅かな理性がそれを抑えた。
この状況はまずい。相手には異能を無効化する相手がいて自分は今狙撃に狙われている。
迷っている隙はない。天王寺はパラレル・シフトでその場から姿を消し別の場所へと移動した。
「ん?」
ターゲットの消失にヴィクターは引き金から指を外す。
「消えた? 透明化か? いや影もねえ。おいおい、ランクA+は一人じゃなかったのかよ」
ヴィクターは急いで起き上がる。狙撃用ライフルは置き捨てだ、それよりもここはまずい。ランクA+に場所がバレれたならいつ奇襲を受けるか分からない。
ヴィクターはダッシュでその場を離れていった。
同じく、天王寺は人気のない場所を走っていた。広い学園の敷地で一人ぼっち。長い髪が激しく揺れ、その頬には涙が通っていた。
真田さんが、死んだ。胸が苦しい。内側から圧迫されるほどの感情に息が詰まりそうになる。
自分はなにをしていた? 彼女が一人で戦っていた時なにをしていた?
立っていただけだ。棒立ちで見ていただけ。
そのせいで彼女は殺された。
「あああああ!」
津波のように押し寄せるのは悲しみと自責の念だ。相手の異能をケアした行動だった。だとしてもやれることはあったはずだ。もっと周囲に気を配っていれば防げたはずだ。
自分のせいだ。自分のせいで真田さんは亡くなった。
「おい! 天王寺!」
「あ」
校舎の前、そこで声をかけられる。振り向けばそこにいたのは神崎会長だった。
「かい、ちょう」
生きている。無事な姿に安心するが喜ぶ気持ちにはならない。神崎は慌てて近寄ってきた。
「お前どうしてここにいるんだ? 藤原は? くそ、出てきたのか」
「か、会長。真田さんが、真田さんが……」
涙でくしゃくしゃの顔で彼を見る。彼女が死んでしまった。その事実を伝えたいのに言葉が出てこない。
天王寺の尋常ならざる気配に意味を理解したのか神崎の表情はみるみると固くなっていった。
「……そうか。とりあえずお前が無事でよかった」
「でも」
「いい、分かった」
どうすればいいのかなんて分からない。だけどどどうにかしたい。その一心で言うが本当は分かってる。
共感して欲しいだけだ。こんなの甘えでしかない。なのに泣くことしか出来なかった。
その時通信機からノイズが走り声が聞こえてきた。
『……える!? 聞こえる!? 聞こえるなら返事をして!』
「時雨さん?」
『よかった、ようやく通じた』




