「「「無敵三兄弟!」」」
建物の物陰から一人の男子生徒が現れる。第一アカデミアの白の制服、水色の髪にバイザーをつけている。目元は見えないがそれでも美形なのが伝わってくる。雰囲気からも軟派さと自信が漂う。
「第一アカデミア生徒会役員、二年生。相原真言」
そう言うと彼はバイザーを外した。予想を裏切らない切れ長の美しい瞳が奏音を見る。だが注目すべきはその美しさじゃない。
妖しい輝きを放つその目だ。
「先に言っておくけど、俺、ランクAだから」
表情に笑みを湛え、相原は現れた。
*
天王寺と深優は互いに機動力を活かし学園内を駆け回り敵を倒しては逃げ遅れた生徒の救出を行っていた。
「あれは」
その足が止まる。
二人は校舎前の中庭で立ち止まり警戒した。それはこの場所は酷く荒れていたこともある。壁につけられた銃創や壊れたタイルが壊れ土が飛び散っている地面。ここで大規模な戦闘が行われたのは明白だ。
だが二人が警戒しているのは過去の傷跡ではない。
目の前にいる、今までの敵とは違う第一の制服を着た三人組がいたからだ。
「ん? こいつらもターゲットか?」
「そうだよ兄ちゃん、こいつらもここのアークホルダーだよ、報告書に上がってたやつだ」
「お前はもっと真面目に目を通すんだな。だがもう一人は知らんな」
「んだよ、ならたいしたやつじゃないさ」
そこにいる三人は全員同じ顔をしていた。黒い髪の坊主頭、丸い頭が三人並ぶ。球児のような見た目だがその服装は間違いなく第一のものだ。
「なんだ、こいつら」
緊張感のない会話に深優が険のある目で睨む。この男たちからは気迫というものを感じない。まるで遊びのようだ。今もへらへらと笑っている。
「ここの戦闘はこの人たちが?」
辺りの惨状から激しい戦闘があったのだと推測できるが彼らには怪我や戦闘をした汚れも見当たらない。
「そうに決まってるだろ、ちょうどそこのにいちゃんを倒したとこさ」
三人組の一人が顎をしゃくる。その先を見た。
「え」
そこに横たわる丸焦げの体。全身が炭化しているがかろうじて残っている頭髪とその大きな体格から誰だか分かる。
「田口?」
田口健。生徒会と何度もやり合った不良の頭がそこにいた。
「そんな」
彼が亡くなったこと、なにより彼の強さを知っている。そんな彼が倒されたということがすぐには信じられない。
「ランクCだったけどなかなかだったよね兄ちゃん?」
「そうか? ランクCならこれくらいだろ?」
「俺たちの敵じゃねえけどな」
「お前ら」
勝利したことに笑っている。そこには敬意も悪びれた様子もない。自分たちから襲ってきておいて殺しておいて、笑っているのだ。
「許せねえ」
田口は深優から見ても厄介な不良でいい印象なんて微塵もない。だけど同じ学校の仲間で、こんな嘲笑をされて我慢なんてできない。
「お前ら一人も逃げられると思うなよ」
「真田さん」
深優はやる気満々だ、表情は怒りをあらわに体勢が前に出掛かっている。それを天王寺は抑えるため声をかける。怒る気持ちは分かる、それは天王寺も同じだ。だがこの三人が田口を倒したというならその実力も高いはず。勢いのまま戦うのは危険だ。
「それはこっちのセリフだよ! だよね兄ちゃん?」
「当たり前だ! 俺たち対異能者部隊に敵はいねえ!」
「その通り」
「対異能者部隊?」
今までの相手は通常兵器を使う兵士ばかりだった。中には怪物の姿もあったがそれでも異能までは持っていなかった。あくまでも通常の戦力内。
でも彼らは違う。
「そう! 僕たちこそがフォースアカデミアの生徒会役員、黒崎元太!」
「俺は次男の黒崎伊吹!」
「我が長男、黒崎優雅! 三人合わせて!」
「「「無敵三兄弟!」」」
どん! と効果音が鳴りそうな勢いで三人は並んでポーズを取る。中央の優雅がガッツポーズをとり左右の二人が腕を曲げ力こぶを作る。よほど練習を重ねたのかその動きに澱みはない。顔つきからも自信が表れている。
「死ね」
そんな三人を無視して深優は突っ込んだ。無駄に凝った動きは隙だらけ、構ってやる道理もない。
すぐさまブラック・スワンで距離を詰め蹴りを放つ。
「僕はランクBバリアカーテン発動!」
ブラック・スワンの一撃、それは突如現れたオーロラ色のバリアに防がれてしまった。
「なに!?」
ブラック・スワンがびくともしない。深優はもう一度蹴るが同様、効いていない。
「無駄無駄! 僕のバリアカーテンはあらゆる攻撃を無力化する。これで相手が異能で攻撃してきても安心ってわけさ」
深優が苦しそうな表情を浮かべるもまだ諦めていない。バリアは厄介だがこれは元太の正面にしか展開されていない。
深優は機動力を活かし反対側に移動、伊吹に標的を変える。
「俺はランクBコピーキャットを発動! 視認している異能をコピーする!」
伊吹へ放つ深優の蹴り。が、同じく伊吹も蹴りを放ってきた。互いの足と足がぶつかり合う。
「く」
「残念だったな! お前はランクDだな。そんな能力じゃ俺たちを斃すなんて無理無理!」
蹴りは拮抗し二人は離れる。自分の能力が弾かれたことに表情はさらに歪んだ。
それは自身の能力が通用していないことだけじゃない。アークとはその人の個性だ、自分にしかないアイデンティティ。それをコピーされた、大切なものを奪われたショックの方が大きい。
「真田さん、私も戦います!」
「駄目だ未来!」
相手は強力だ、数だって多い。天王寺は構えるが深優が叫ぶ。
「こいつの能力はコピーだ、私はともかくお前のはまずい!」
「く」
パラレル・シフトの手が止まる。
相手のアーク、コピーキャットは相手の異能をコピーする異能。ブラック・スワンは強力だがまだ単純だ。だがパラレル・シフトはランクA+、どんな悪用をされるか分からない。
出来ない。リスクが高すぎる。
(でも、だからといって見てるだけなの?)
歯痒い思いが全身を蝕んでくる。
「はああ!」
天王寺が見守る中深優は懸命に戦っていく。元太のバリアの隙を突きながら伊吹のブラック・スワンと蹴りの応酬を繰り広げる。電光石火のぶつかり合い、これほどのランクD同士の戦いは天王寺も見たことがない。




