南門展開中の部隊から援軍要請! ランクB生徒の抵抗が強く突破が困難とのこと!
時雨は未来から逃げたわけじゃない、天王寺を庇うために芝居をしていた。それを瞬時に見破り会長はそう手配した。まさに阿吽の呼吸。あまりにも自然過ぎて見破れなかった。
その連携に関心すら感じるが、同時に寂しさを感じていた。
「だから、ありがとうございます。気を遣ってくださって。でも、本当は頼って欲しかった。仲間外れにされてるようで、ちょっと寂しかったんです。優しさだって分かっているんですけどね」
複雑な心境だが天王寺は立ち上がった。
「私、みんなのところに行きますね」
こうしてはいられない。二人の気持ちを捨てる行為だとしても生徒たちを見殺しにするような真似は出来ない。
天王寺はアークを使おうとするが直後時雨に腕を掴まれた。
「駄目よ、未来! あなたはここでッ」
必死な表情で自分を見上げてくる彼女。訴えるような視線を向けるが、しかしなにも言えず目線は下がる。
言えない。これから先は。
彼女が言えないことを知っている。だから自分を守ってくれようとした。
天王寺は時雨の手の上に自分の手を置いた
「ありがとうございます」
自分を心配してくれている。自分のことを思いこんなにも苦しそうな表情をしてくれる。
嬉しかった。それがなによりも自分を仲間だと言ってくれていたから。
「分かりました。でも、行きます」
しかし、掴まえる手を優しく引き離す。
「私は、そのためにここにいるんです」
彼女が顔を上げる。涙ぐんだその瞳に天王寺は笑顔で頷いた。
「待って!」
時雨がもう一度叫び、見ればなにかを手渡してきた。耳に掛けるインカムだ。
「分かった。あなたは止まらないわよね、視なくても分かる。ならせめてこれを持っていって。それと深優なら研究棟の前で戦ってるわ」
「! ありがとうございます!」
急いでインカムを取り付ける。それに深優の居場所まで教えてくれるあたり本当に分かってくれている。
「行ってきます!」
そう言って天王寺はアークで移動した。時雨からの不吉な予兆、無言の予言なんて気にもせず。その瞳は未だ希望を捨てていない。
研究棟前。そこには展開した敵部隊と見たこともない怪物。それに立った一人で戦う深優の姿があった。
「真田さん!」
ブラック・スワンで縦横無尽に駆け回り、射線をかわしつつ強襲する戦法はさすがだ。だがいつまでも躱せるるものじゃない。
「パラレル・シフト!」
天王寺は並行世界から重ねた斬撃で敵を切り裂いた。
「未来?」
援護に駆けつけた天王寺に深優は驚いた様子で見る。
「どうしてここに!? ていうか時雨さんは、ち、行かせたのか」
「その言い方だと真田さんも気づいてたんですね」
「まあな。あの人は見た目よりよっぽど強かだよ」
「なら、私も同じところを見せないとだね」
深優が見る。その表情は少しだけ意外そうな、それでいて悲しげな顔だった。
この戦いで天王寺が迎える未来。時雨はそれを暗に提示した。にも関わらず目の前の彼女は明るい。
未来を信じて止まない、眩しいくらいの表情を浮かべていた。
「心配は嬉しいけど今は一緒に戦いたい。仲間だよね、私たち」
そんな顔で言われては深優もふっと笑うしかない。
「ああ、そうだったな」
仲間だ、一緒に戦う。彼女は強い。
「いくぞ未来、へらへら刀を回すなよ!」
「そんなのしたことないですよ!」
二人は走った。ブラック・スワンとパラレル・シフトで移動して次なる敵を討ちに向っていった。
アークアカデミアの反撃だ。
*
神崎はじめ生徒会による抗戦により第一アカデミアの侵攻は鈍化を示していた。最初の奇襲から始まり戦力差を考えれば圧勝まで見えた戦況はしかし局地的に苦戦を強いられている。
「356飛行揚陸部隊、撃墜されました! 手段は通常兵器ですがアークによって瞬時に出現したとの報告あり!」
「南門展開中の部隊から援軍要請! ランクB生徒の抵抗が強く突破が困難とのこと!」
ダグラス司令部内では強襲部隊からの報告が飛び交いその中には芳しくないものも含まれている。
その中で艦長席に座る少女は開戦から変わらず優然としていた。
第一アカデミア生徒会役員、会長代理、トライリッター。この悪魔改造艦ダグラスの艦長である。第一アカデミア生徒会には十二名の役員がおりその中でもさらに三人の上級役員をトライリッターと呼んでいる。彼女こそ会長代理を務める生徒会現最高責任者だ。
シフォンは紅茶を口につけながら報告に耳を傾ける。
「頑張っていますわね」
出だしは最高の形を取れた。だがそう上手くは進まない。むしろこの展開は想定の範囲内だ。
「それはそうだろう」
彼女の呟きに隣に立つ少女が応える。
彼女もまたトライリッターであり美しい銀色の長髪、女性にしては高めの長身。白の軍服調の服装で立つ彼女は背筋をピンと伸ばし微笑む少女とは対照的に鋭い眼差しで眼下を見つめていた。
その姿はまさに軍人。規律を板につけたような彼女は楽観も油断もなく戦況を見つめる。
「相手も必死だ。それに同じ異能者、抵抗は当然ある。その異能者も大方出揃ったようだがな」
「そうね。報告で分かってる限りではあるけれど対処はおおむね可能。ま、しょせんはアークホルダー。私たちフォースターに勝てる道理はないですわね」
目を瞑り紅茶の香りを楽しむシフォンの仕草は午後のお茶会そのものだ。気迫はあるのに戦場の荒々しさはまったくない。
「シフォン。余裕は結構だが慢心は目を曇らすぞ」
「あら。あなたが負けるということかしら?」
「そういう話ではない。戦いの心構えだ。私にはお前が遊んで見える」
その発言にこの場の音が一瞬静まり返った。
第一アカデミアは超がつくほどのランク史上主義だ。アークアカデミアでもランクを鼻にかけ横暴な態度を取る生徒もいるがそんなものとは比較にならない。同じトライリッターとはいえ相手は会長代理、実質的な最高責任者だ。そんな相手に不遜な言い方をすればどんな処分が下されても文句は言えない。
場は凍りつくが、しかし彼女の表情は変わらず毅然としシフォンは笑って受け流していた。
「ふふ、これは失礼。でも大目に見てくれないかしら。この戦いは私たちの夢の第一歩。心弾む前哨戦。それに、私は死というものに疎いものでね、気に触ったなら謝るわ」
「まあいい」
二人のやり取りが無事通ったことで通信士たちの表情も和らぎすぐに引き締め務めに戻る。
「相手の戦力がわかったなら作戦は第二段階ね。小競り合いではなく主力同士のぶつかり合い。楽しみだわ。まさにここからが本番」
そう、奇襲から始まったアカデミア戦争だが第一アカデミアは未だ主力を投入していない。
異能者同士の戦い。本当の勝負はこれからだ。
だというのだが、シフォンは探し物を求めて周囲に目を配る。
「なのだけれど、ヴィクターが見えないようね?」




