始めますよ、アカデミア戦争を
赤い点である空間異常は拡大していき巨大な穴となる。そこからあるものが現れた。
でかい。それは巨大な魚だった。同時にそれは戦艦だ。黒い金魚のようで、目には赤いバイザーが付けられ全体的に金属の鱗で覆われている。まるで生物を機械化したような姿をしてヒレを優雅に動かし空中を泳いでいる。
「なにあれ」
まったくもって理解できない。当然だが初めて見る。魚型の機械なのか魚が機械で武装しているのか分からないがとりあえずはそのでかさだ。旅客機? いいや違う、さらにでかいそれはまさしく戦艦、もしくは空母だ。体の上部にはいくつもの砲塔のようなものまで見える。
「見てください、上の方!」
よく見れば魚の背中、ヒレの一番盛り上がったところにメインデッキのような展望台がある。間違いない、あそこに誰かいる。
すると外から声が聞こえてきた。それは町内放送のような拡声器で、無機質な女性の声で告げられた。
『こちらは、第一アークアカデミアです。あなたたちには、死んでもらいます』
「なに?」
意味が分からなかった。本気なのか冗談なのかまるで判断がつかない。
ただ、息苦しいほどの不気味さを感じていた。嫌な予感がする。
まるで悪夢の中に放り込まれたような、そんな重圧を覚えながら天王寺は泳ぐ戦艦を見上げていた。
*
上空、突如アークアカデミアに現れた悪魔戦艦、その名をダグラス。それは静かに滞空し聳える校舎を見つめていた。
それだけではない。さらに多くの者がそれを見下ろしていた。
ダグラスの背中、頂点にあるヒレ状をしたメインデッキではガラス越しに何人もの人物が並んでいる。
ここは司令部。部屋の周囲ではモニターに向かってキーボードを打つ者や通信士たちがやり取りを交わしている。彼らは皆制服とヘルメットを被りこの場は物々しい雰囲気だ。
その中で、中央にいる者たちは別格だった。
艦長席に座る一人の少女、彼女を中央として左右に並んでいる。
「さて」
鈴のような声が響く。艦長席に座る金髪の少女は濃い青色のドレスに身を包み一口飲んだ紅茶を受け皿に戻す。
「はじめましょうか」
その顔は怪しく歪み、興奮と愉悦を滲ませる。
同時刻、ダグラスの底部からハッチが開き飛行揚陸艇が離陸する。いくつもの船が兵隊を乗せてアークアカデミアへと降下していった。中には同じく制服とヘルメットを被った兵士たちがおり前に立つ仲間のリュックに緩みがないか確認。親指を立て合図すると今度は自分のを確認してもらい親指を見る。
そうしていくつもの揚陸隊がアークアカデミアに着地した。扉が開くと同時に外へ走り出す。
「行け行け行け!」
大声に急かされながら、武装したフォースアカデミアの生徒たちは飛び出した。
それと同時、ダグラスの鱗が展開する。斜めに開いた鱗はそれが射出台となり黒いカプセルを打ち出していく。種のような楕円形のカプセルは建物の壁面や地面に突き刺ささりカプセルが開くとそこから現れたのは黒い体躯の怪物だった。二足歩行のオオカミを思わせる体躯は二メートルを優に超えその手には有機的な銃が握られている。さらに二本の黒い触手が伸びそれも銃を構えていた。
宣戦布告、部隊の展開は始まった。
いよいよ開幕だ。新たな歴史、新たな進化の第一歩。
ダグラス艦長、フォースアカデミア生徒会会長代理、トライリッター、シフォンの赤い瞳が見開く。
「始めますよ、アカデミア戦争を」
そして、惨劇は始まった。
『こちらは、第一アークアカデミアです。あなたたちには、死んでもらいます』
アカデミア戦争の始まりだ。
「撃てぇ!」
部隊長の号令が、なにも理解していない無垢な命を襲う。
なにも知らなかった。なにも理解出来なかった。当然納得なんて出来るわけがない。
だが容赦はない。理解も共感も不要。
一方的な、殺戮だ。
「きゃあああ!」
「うわあああ!」
突然発砲、襲撃にアークアカデミアは一瞬にして地獄絵図だ。悲鳴を上げて逃げ惑い絶句とともに落命する。
アークアカデミアの大地は血に染められた。
「なんだあれは!?」
生徒会室。その光景は当然神崎も見つめていた。上空に浮かぶ要塞のような魚、そこから展開される敵部隊。地上では生徒たちが襲われている。
「俺たちも行くぞ!」
「ですが会長、敵の狙いも規模も不明。迂闊に動くのは」
「なら見てろってのか!?」
瑠衣の助言を睨み付ける。
「やらなきゃならねえんだよ、ここにいる全員が同じ気持ちなはずだ、そうだろう!」
神崎が見渡す四人の少女。時雨は未だ不調だがみな信頼している仲間だ。
「俺たちもやる、いいな?」
覚悟を問う。これは今までのような対不良の制圧戦とは違う。そんな生優しいものじゃない。
戦争だ。倒すのではない、殺すための戦いだ。
それは彼女たちも見たから分かっているはずなのに。
「分かってる」
「分かりました」
「しゃーないわね、さすがにゲームどころじゃないわ」
「はい」
深優も、瑠衣も、奏音も、そして未来も頷いた。その全てに戦意が宿り皆は頷いた。
「瑠衣、お前は生徒たちの避難誘導に当たれ。一人でも多くの生徒を逃すんだ。お前ならやれるはずだ」
「了解です」
「俺と真田、奏音は散開してやつらの迎撃だ」
「? 神崎会長、それじゃ各個撃破される可能性が! まとまって動くべきです!」
「いや、俺たちは手が足りない。それで規模は広範囲だ。一箇所に固まってたら救えるものも救えねえ」
「ですが!」
「未来!」
必死に反対する天王寺の言い分も分かるが、神崎には生徒会としての責任がある。
「議論してる時間もねえんだよ」
その覚悟の大きさに天王寺は納得するしかない。
「お前は時雨のそばについてやれ」
「え?」
「行くぞ!」
「ちょっと待ってください! なんで」




