真田さんって、けっこう可愛いんですね!
「パラレル・シフト。自分の可能性を見つけたみたいだな」
「はい」
会長のやったなという視線。その微笑みに天王寺も自信を持って頷いた。
「並行世界にいる自分の事象を集めてこの次元に転移させる、か。器用だな。大変なんじゃないか?」
「実は結構」
事実に苦笑する。並行世界からちょうどいいのを探す作業はかなり苦労する。
「やっぱりすごいな、ランクAていうのは。やってることが高度過ぎて想像つかねえよ、並行世界を旅行するなんてさ」
「止めてください」
褒められるのは嬉しいけれどこの能力は努力で手に入れたものじゃない。なんというか認められるのと褒められるのは違う。努力を褒められるのは分かるがたまたま手に入れた力を褒められるのはどうにもしっくりこない感じがしていた。
「天王寺にその能力はお似合いだと思うぞ」
「え、そうですか?」
自分自身そう思ったことはない。神崎は真っ直ぐと見つめてくる。
「自分を諦めない。そういうやつには無限の可能性がある。だからこれはお前向きだ」
そう言われた時、胸が熱くなった。
本当の意味で自分を褒められた気がした。
諦めない。それがこのアークの強さになる。
神崎はふっと笑うと隣に置いてあった袋を手に取った。それは黒い布の袋であり細長い形状をしている。それを手渡してきたので両手で受け取った。
「おも」
「重いだろ? 普通に考えれば鋼の塊なんだから重いのが当たり前なんだけどな。扱うには練習やトレーニングが必要だけど、俺はこれがぴったりだと思ってさ」
重量感のある布の袋。両手に乗ったそれをまじまじと見つめる。
「開けてみな」
袋の結び目を解き中身を取り出す。
それは刀だった。黒い鞘に収められた、映画や漫画でお馴染みの日本刀。直で見るのは初めてだ。鞘から少し刀を抜き刃を見る。美しい鋼の刀身。真っ直ぐな波紋は不思議と見入られる。
「いいんですか?」
「当たり前だろ、学園に交渉して譲ってもらったんだ。これなら接近戦もやり易いだろうし天王寺なら遠距離もできる。瑠衣とは違うが同じように戦える。なにより、天王寺には芯がある。あの時の姿を見たらそう思ってな。受け取ってくれるか」
「はい!」
そう言う天王寺の表情はやる気に輝いていた。鏡を見なくても分かる。胸の内から湧き上がる思いからそう確信する。
私を認めてくれた、この刀をくれた彼の思いに応えるためにも。
天王寺は頑張らなければならない。決して諦めることなく。
「私、頑張ります! 頂いたこの刀と一緒に。誰かを守れる、そんなアークホルダーになります!」
夢と一緒にこの人の思いを乗せて。
「ははは。ああ、天王寺ならなれるさ」
神崎は嬉しそうに笑い立ち上がった。窓から差し込む夕日を照り返すピンクの髪は弓道場の時と同じだった。
「期待してるぜ」
あの時も今も、この人は天王寺を信じてくれている。
そう思った。
それから二人は別れ天王寺は正門へと続く道を歩いている。桜の青葉に挟まれ夕日に染まった道を歩く。
ふと見れば片手にさきほどもらった刀がある。
「ちょっと重いな」
残念ながら腰に差す場所がない。手に余る重さに少し表情が歪むがすぐに頬が緩む。この重さは同時に彼女の誇りだ。これと共に歩む道のりに今は期待を弾ませる。気分がいい、消すにはもったいない。
「どうした一人で笑って、気色悪いぞ」
「真田さん」
と、正門には深優がいた。パトロールは終わったのだろう。いつも通りフードを被った彼女は一人正門にもたれ立っていた。
「どうしたんですか、こんなところで」
「そんなことより、それどうしたの?」
彼女の目が下に向けられる。追いかければそこにはさきほどもらったばかりのものがある。
「ふふふーん、気になります? 気になりますよねー? 実はですねー」
「もういい、どうせ会長にもらったんだろ」
「なんで冷めてるんですかー!? 実際そうですけど!」
なぜバレたのか、まだなにも言ってないのに。
「言い方がなんかうざかった」
「そんな〜」
ただ彼女にも認めて欲しかっただけなのだが気持ちが逸ったようだ。
「そういえば真田さんはここでなにしてるんですか? パトロールは終わったんですよね、誰か待ってるんですか?」
「まあ、ね。やり残した用事があってさ」
「へー」
生徒会以外の用事だろうか。とはいえ天王寺にはよく分からない。
「頑張ったじゃん」
「え」
なにが? 一瞬なんのことか分からずきょとんとしてしまう。
深優はそんな天王寺を横目で見やる。
「今朝、頑張ったんだって? お疲れ」
「…………」
不意打ちだった。彼女は普段そういうの全然言ってくれない人で、そもそも生徒会に入るのも反対していたし、そんなこと言ってくれるなんて全部思っていなかった。
その一言にいろいろな思いが湧き上がって、言葉が咄嗟に出てこない。とりあえず思ったのが、
「それを言うために、わざわざずっとここでスタンばってたんですか!?」
「やっぱりうざいなお前」
まさか、自分を労うために彼女がずっと待っててくれたなんて。そのことに喜びがバーストする。
「仕方がないだろ、そもそも待たされたのはお前のせいだろ。なんでこんなに遅いんだよ」
「それは会長を待っていたからです! 私は悪くありません! 会長が悪いんです!」
「ならそれでいいけどさ」
(会長! ごめんなさい!)
「もういい、やり残した用事ていうのはそれだけだから」
「あ、待ってくださいよ!」
踵を返し正門から出て行こうとする彼女を呼び止める。深優は足を止めめんどくさそうに振り向いた。
「あ、あの。せっかくなら一緒に帰りませんか? 同じところまででいいですから」
彼女は好きではないだろうけれどこのまま別々に帰るというのもあれだ。彼女とは未だに距離感を縮められた実感がない。だからこそ少しずつ、一歩ずつでいいから近づいていきたい。
「そんな風に頼み込まなくても勝手についてこればいいだろ」
「ん」
突き放すような言い方に目線が下がる。それはそうかもしれない。でもそれはそれで迷惑だろうし。乗り気じゃないって知ってるし。勝手を押し付けたいわけじゃないっていうか。
「友達なんだろ?」
「え」
意外な言葉が天王寺を振り向かせる。今、友達って言ってくれた?
見つめる先、深優はいつもの不機嫌そうな表情を柔らかくして、ふっと微笑んだ。
「…………」
その笑みに不安だった心は消え去り、笑顔で駆け寄った。彼女の隣に並び一緒に歩き出す。充足した気持ちが胸を埋め尽くして、見える景色すべてが愛おしく感じる。
自然と笑みが漏れる。私は彼女に振り向いた。
「真田さんって、けっこう可愛いんですね!」
「蹴るぞお前」




