ご冗談もそこまでにしてくださいね?
それから放課後、天王寺たちにとっては生徒会の時間だ。昨日は遅い時間だったので入会しただけで終わってしまったから実質これが初日ということになる。
ここは一つ、やる気を示すという意味でも誰より早く入室し掃除でもしておこう。
気合の入った天王寺は早めに生徒会の扉を開け中へと入った。
「え」
「あれ」
しかしその思惑は入った瞬間に瓦解した。
すでにそこには副会長の藤原時雨がいたのだ。それはいいのだが、今の彼女はイメージとだいぶ違う。
生徒会長のイスに座って背中を反り、スマホから伸びたイヤホンをつけアニメを見ていたのだ。机には紅茶もあり自分で作ったのだろうか。彼女はまさにくつろぎモードだ。
彼女はもっとこう、優雅に紅茶でも飲んでるしっかりした先輩、という印象だったのでちょっと意外だ。
と、時雨が恐ろしい形相で睨みつけてきた!
「み、見たわね~!」
「えええええ! な、なにをですか~!?」
まるで幽霊みたいなことを言っている。別段天王寺は気にしないのだがイメージが崩れるのが嫌だったのだろうか。
生徒会長の椅子でアニメを見てるのは確かに意外だったけどふと紅茶にも目が止まる。
「えっと、時雨さんその紅茶一杯目ですよね? シュガー三本ですか? ミルクも入ってますよね? 昨日は確かストレートだったはずですけど」
「あー! 声に出さないで~!」
「ごめんさいいいい!」
気づいたことをすぐ言葉にするお喋りな口は時雨によって塞がれてしまう。息ができない! 彼女の肩を叩いて離してもらう。
「ふうー。もしかして隠してるんですか?」
「そうよ。いいでしょ別に。はあ~、この時間はいつも人がこないから油断してた。私のアークっていったい」
使わなければないも同じ、か。彼女はかなり落ち込んでいる。
「誰にも言わないでよ? 花音や会長に知られたら一生ネタにされる」
「分かりました、誰にも言いませんから」
(アニメ好きや甘党くらい表に出していいと思うんだけどな〜)
予期せぬ事態に彼女の一面を知った天王寺だがそれでより彼女への親近感が沸いたのは言わないでおいた。
それから天王寺は時雨からしなくていいとは言われたが一応目的の掃除をしつつ、そうしている間に他のメンバーも集まってきた。
「真田さん、お疲れ様です」
「ん」
最後に真田がやってきて全員集合だ。
もちろんその頃には時雨はいつものソファに座り紅茶をストレートで嗜んでいた。
「生徒会の内容?」
会長が応える。質問した天王寺は頷いた。
昨日は自己紹介だけで終わってしまい生徒会の活動内容まで詳しく聞けていなかった。
「生徒会の活動はまあ、他の学校とほとんど同じだよ。なにか行事があればそれの運営や準備をしたり各部活動の費用を管理したり、イメージする通りだ。だが一つだけ明確に違う点がある」
「違う点、、対異能戦の鎮圧、ですか」
「そういうことだ、俺たち生徒会は風紀委員も兼ねてるってことさ」
それは分かっている。覚悟していたことだ。
「うちは全員がアークを貰える学園だろ? 浮かれる気持ちも分かるが、中には分別が付かないやつもいるんだよ。知ってるだろ?」
「はい」
まさか登校初日からその洗礼を受けるとは思わなかったが。
「もしかして多いんですか?」
嫌な予感が走り聞いてみる。当たって欲しくない予想は、しかし嫌な形で当たってしまう。
「多い」
そうか。そう思い少しだけ悲しくなる。自分があんな目に遭ったのは単なる不運ではなく当たり前で、自分のような人も他にいるんだ。
それがアークアカデミアの闇の側面だ。
「強いアークを手に入れると気まで大きくなるんだよ、人っていうのはな。好き勝手使いたくなる。逆に生徒会は人気がなくてな、常に募集中さ」
「え。でもランクが高い人多いですよね? 瑠衣さんとか最上位じゃないですか」
「こいつはな、今でこそ大人しいが昔はワルだったんだよ」
「そうなんですか?」
意外だ、意外過ぎる。会長は愉快そうに喋っているが。
「でもそれじゃどうやって生徒会に」
「それは俺様よ! こいつが俺に惚れてだな、改心して生徒会入りしたわけさ」
「へえええ!」
(そうなの!? 二人ってそういう関係だったんですか!)
「会長」
と、今まで口を挟まなかった瑠衣が笑顔で会長の隣に立つと、会長の頭にティーカップを置きそこに熱々の紅茶を注ぎ出した。
「ご冗談もそこまでにしてくださいね?」
そう言うと次に会長が座っている椅子を空間転移で消してしまった。
「うおおおおお! なにするてめえ! やばいやばいやばい!」
「やばいのはあんただ、会長」
「言えてるわね」
「こんな男の子に惚れるはないわ〜」
「未来さん、今のは全部ウソですから本気にしないでくださいね?」
「あ、はい」
「うおおおお! 溢れる〜!」
会長は空気椅子状態で頭に乗ったカップが倒れないように頑張っている。器用だ。
「会長の冗談はともかくとして、この学園の不良集団が問題なのは事実です」
「それなんですけど、そういうことが起こった時のために警備隊がいるって聞いたんですけど、その人たちに任せればいいんじゃないですか?」
「そうもいかない事情があるんだよ」
「そうなんですか?」
背後で壁に背もたれている真田が言う。
「深優の言う通り。確かに異能を持った生徒が破壊活動などを行った場合警備隊は出動出来るわ。でもね、その度に武装した人たちが学園内に現れるのは剣呑でしょ? 対面的にも良くない。それなら暴走した生徒を、同じ生徒が止めました、ていう方が都合がいいのよ。ありたいていに言えば、大人の事情ってこと」
「そういうことですか」
アークアカデミアに限らずアークシティというのが特殊な場所だ。法律も通常の日本とはかなり違う。そんな場所とは言え子供相手に大人が武装して鎮圧し、それが頻発してますなんて社会問題にならないはずがない。
最悪アークアカデミアは閉園、お終いだ。
「そのためにも問題が表面化する前に私たちの手で抑えなきゃならない。この学園を守るためにもね。そうでしょ会長?」
「うおおおお! その通りだあああああ!」
(まだやってる……)
「でもね、未来ちゃん」
すると時雨が憂いのある瞳で見てきた。同時に表情は真剣で尋ねてくる。




