お前なんちゅー発想してんだ……
「もしかして、私のアークと関係してるんですか?」
にも関わらず、自分にだけ塩対応というのには理由があるはず。そして彼女のこうした態度は昨日自分のアークを明かしてからだ。
そう思い聞いてみると深優はそっと反対側に顔を向けた。やっぱりそうだったのか。
「私のアーク、なにか問題でもありますか?」
それが少しだけ気になった。このアークが彼女の機嫌を損ねているのではないかと。
「いや、アークはいい。てか、すごいアークなんだろ、それ? 私にはよく分からないけど」
「ならどうして」
深優はそう言うがやはり口調には陰がある。それで教えてくれた。
「ランクA様には分からないよ」
「なんですかそれ」
ランク? そりゃ彼女はランクAだ。けれどそれで判断されるのはあまりいい気はしない。
「なんでって、あんたねえ……。いいわよ。教えてあげる。理由は私のランクがあんたより下だからよ」
「下、というのは?」
「ふうー……。私はランクD。ブラック・スワン。両足だけが自慢でね。それ以外はなんの取り柄もない出来そこないよ」
「そんなことないですよ!」
そんなことあるわけない、あの時の彼女はあんなにもかっこよかったのに。
「両足が強化されてるってことは走るのとか速いんですよね? 五十メートル走とかどれくらいで走れるんですか?」
「五十なら二足、調子のいい時なら一足で完走できるかな」
「すごい! 世界記録ぶっちぎりじゃないですか!」
「バカ。アーク使っていいならランクA+が勝つに決まってるでしょ」
「そ、それは……。でもでも、十分すごい能力だし、いいと私は思いますよ。……私の口から言っても、説得力ないかもしれませんけど」
こういう時、ランクAというのを恨めしく思う。とても珍しい能力なんだろうけれどそのせいで発言の意味合いが変わってしまう。ランクAという恵まれた異能が意味を歪め真意を伝えづらくさせてしまう。
「なんで真田さんはそう思うんですか?」
「昔、私より上のランクのやつに絡まれたことがあってさ。その時にいじられたんだよ。それが悔しくってさ」
「なるほど、それで」
「ま、その時に現れたのが会長なんだけどさ」
「神崎会長が?」
「ああ」
見間違いだろうが、彼女の横顔が薄っすら笑ったように見えた。
「奏音と並ぶほどのぐーたらだけど、あれはあれでやる時はやるんだよ。私と同じランクDなのに怖気づくことなく立ち向かってさ、それで私も生徒会に入ることにしたんだ」
「それなら私と同じですね! 私も真田さんに助けられたから生徒会に入りましたし」
「そっ、か」
天王寺と深優の入会動機は同じだった。今度は自分がきっかけになっていたことに深優は感慨に耽っている。
「会長の能力は昨日教えてもらっただろ、覚えてる?」
「もちろんです」
それは知っている。あれから生徒会のメンバーの異能は教えてもらった。それで会長の能力だが正直に言うと少しだけ意外だった。
「ガンスリンガー、ですよね? 昨日皆さんのも教えてもらいましたから。銃器火器限定で手元に呼び出せる異能。さらに撃てば百発百中。空間転移はランクAの領分ですが一部に限定されるものはランクDになりますから。それに命中精度は体への影響ですから同じくランクD」
「そ。ここで誤解しちゃいけないのがあくまでも転移しているのであって作り出しているわけじゃないってこと。会長はこの異能だから学園と話をつけて警備隊の装備が使えるらしい。もしなにもないところから拳銃なんて取り出してたらそれこそめちゃくちゃ、質量保存の法則を無視したランクBだし」
「なるほど、無から作り出しているわけじゃないと。もしそうなら無限に銃を作って売れば大金持ちですもんね」
「お前なんちゅー発想してんだ……」
(え、だって、そう思いません?)
深優が若干引いている。
「神崎会長が会長なのって、それが理由なんですか? その、言いにくいですけど生徒会って会長よりも高いランクの人ばかりじゃないですか。ランクですべてが決まるとは思いませんし私も嫌ですけど、そこがちょっと意外っていうか」
そう、はじめて会長のアークを聞いた感想は率直に言ってそれだった。藤原は未来観測のランクA、奏音は影を操り触れたものを操るランクB,琉衣に至っては空間転移で天王寺と同じランクA+だ。その中でランクDの神崎が会長であることにまったく違和感がなかったと言えば嘘になる。これは、自分も気づかない内に人をランクで判断しているということなのだろうか。もしそうなら自分がちょっと嫌になる。
「安心しな、そう思うのが普通だよ」
「え」
だけど、そんな不安は彼女が否定してくれた。
「でもな、人はランクじゃない。あの人が会長だから意味がある」
「なるほど」
そういうことか。どうして高ランクばかりの生徒会で会長がランクDなのか。そうすることでランクだけではないというメッセージになる。
あの人はアークアカデミアの代表であり象徴なのだ。
「それだけじゃないけどね。やる気の問題っていうか。うまく言えないけどこの人ならいいかと思える人なんだよ。だから時雨さんや他のみんなも納得してるんじゃないかな。まあ、あの人が会長なら会長でそれでいいさ」
「人望なんですね」
「完璧とは絶対に言わないけどね」
「ははは」
雑誌を顔に乗せて寝てる人なのでそう思われても仕方がない。
「でも、それならどうして私がランクAという理由で避けるんですか? ランクは関係ないなら普通でいいじゃないですか」
「お前、ずっと隠してただろ」
「言う機会がなかったんです!」
「んー」
「ホントですってば!」
(そんな~)
彼女が天王寺を避ける理由、それはそんな些細なことだった。




