ということですよ、そろそろ起きたらどうですか会長?
「……あんたねえ」
「あらあら」
「フュー、熱い告白だこと」
「あ! いや、別に今のは変な意味じゃないですからね!」
「分かってるって、まったく」
勢い余って言うつもりがなかったことまで言ってしまった。今更ながら恥ずかしい。目線がやや下がる。
「ということですよ、そろそろ起きたらどうですか会長?」
会長?
執事のような服装をした人の隣には一際大きな机がありその椅子には誰か座っていた。背中を大きく反って寝ていたため気づかなかった。顔の上に開いた雑誌を載せているが、この人が会長?
「なるほど、話は聞かせてもらった」
雑誌を取りばっと体を起こす。起きていたようだ。その人は椅子を回し天王寺を見つめてきた。
青いジャケットを羽織り明るいピンクの髪、陽気な瞳を向けてその人は言う。
「生徒会は君を歓迎するぜ。俺は神崎信也、ここの長だ、よろしくな!」
元気な声と陽気な雰囲気に、あ、この人苦手な人だと一瞬で勘づきながらも今は生徒会に入れたことの喜びが上回っていた。
「ありがとうございます! 頑張ります!」
大きく頭を下げる。良かった、もしかしたら無理なのかなと心配した後なだけに余計にそう思う。
「マジかよ」
「ふふ。ほら深優、決まったことなんだからつべこべ言わない。よろしくね、未来ちゃん。一応私が副会長を務めてるわ」
「そうなんですね、改めてよろしくお願いします」
壁際に立っていた執事の服をしている女性が近づいてくる。水色の髪のショートカットは中世的できれいとかわいいが両立している。
「宍道琉衣です、これからよろしくお願いします、天王寺さん」
「はい、よろしくお願いします」
彼女はきりっとした雰囲気があるが厳しいとかは一切なく浮かべる表情は柔和で物腰は柔らかい。そのため初対面には緊張してしまう天王寺もすぐに安心する。
「ほら、奏音。あなたの番ですよ」
「わーてるわよ、子供扱いしちゃつてさー」
ソファで寝転がっている子は町で見れば小学生かと勘違いしてしまいそうな小柄な人でカラフルなソックスが特徴的だ。彼女もピンク色の髪をしておりツインテールが可愛らしい子だ。彼女はゲーム機からこちらに顔を向ける。
「小笠原奏音、じゃ」
そう言ってゲームに戻ってしまう。
すごい。
「まあこの子はこういう子だから気にしないでね」
藤原も諦めムードでそう言うあたりこれで通用しているようだ。
「よし、これでみんなの自己紹介は済んだわけだな。と、忘れちゃいけないことがあった」
会長である神崎が言う。いったい忘れていることとはなんだろうか。
それは当然といれば当然の質問だった。
「天王寺、どんなアーク持ってるんだ?」
ここはアークアカデミア。すべての生徒が異能を持ち誰しもが特別になれる場所。ここでは名前以上に重要な意味を持つと言っても過言じゃない。風紀を保つため時には戦闘もしなくてはならない生徒会にとっては特に重要だ。
それで神崎は聞くのだがそれに深優が答える。
「ああ、会長、こいつのランクは低くて、だから私は」
「いえ」
「?」
それを遮る。彼女は勘違いをしている。天王寺もはっきり言ったわけではないので仕方がないのもあるけれど。
でも違う。彼女のアーク。天王寺がこの学園からいただいた異能はまだ歴史が浅いものの学園史上最上のランクを誇る。
「ランクA+、パラレル・シフトです」
なにもなかった彼女に突如与えられた、最高位の贈り物だった。
*
登校初日から波乱万丈となった彼女の学校生活。でもトラブルは出会いと居場所を与えてくれた。
天王寺は無事生徒会の一員となったのだ。とはいえまだ見習いって感じで本格的な活動はまだこれからだが頑張って一日でも早く皆に認められるようになりたい。次は自分が生徒会として誰かを守るんだ。
(そうしたら、真田さんも褒めてくれるかな?)
そんなことを期待しながら。
真田深優は天王寺が生徒会に入るきっかけであり憧れの人だ。アークアカデミアでできた初めての友達でもある。あの人に認められ褒めてもらえたら、それはすごく嬉しいことだ。想像しただけでちょっと頬が緩んでしまう。
そんな、青葉をつける桜並木の通学路を歩いている時だった。夏の到来を感じさせる風が前髪を揺らし、乱れた髪を整えて前を見るとそこに見慣れた服装の子を見つた。
「真田さーん!」
走って隣に並ぶ。白のパーカーという格好は彼女しかいない。
「おはようございます」
「おはよ」
彼女は前を見ながら素っ気ない態度だ。この人は普段からこうなのであまり気にすることじゃない。生徒会のみんなでも彼女はこういう風だ。
「私たち同じ生徒会ですね、これからよろしくお願いします、先輩」
「いいよそんな呼び方」
今日も彼女のツンとした振る舞いは変わらずだ。
「昨日は助けてくれましたから、次は私が真田さんの役に立ちますよ」
「私は一人で十分だよ」
「真田さんは登校はいつも一人なんですか?」
「見れば分かるだろ」
「なら明日から一緒に行きましょうか!」
「なんでだよ」
「私たち仲良いですよね」
「それ本気で言ってる?」
そこで初めて真田が天王寺を見た。そんな彼女に見せつけるように言ってやる。
「言ってますよ。真田さん、全然こっち見てくれないんですから」
彼女を振り向かせるために本気で言った。もちろん本当にそうなりたいと思っている。
「お前、けっこう強引なんだな」
「真田さんがそれだけ頑固なんです」
これだけ話し掛けているのに話を広げるどころか見てもくれないのだから、テコでもなんでも使うしかない。
「どうして私のこと見てくれないんですか? 真田さんが人付き合いが好きじゃないのは分かりますけど、他の皆さんとは顔合わせて話してるじゃないですか」
生徒会での振る舞いを見れば分かる。積極的に人と関わろうとはしないけど無礼なわけでも怠惰なわけでもない。それは小笠原奏音の役だ。深優はちゃんと仕事はしてるし責任感もある。社交的ではない、というだけだ。




