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アークアカデミア。まるでユッセ城の逆バージョン

 生きていく上で自然と湧いてくるものがある。あんなことしてみたい、こうなれたらいいなっていう、それはちょっとした憧れのようなもの。夢なんて大層なものじゃない。でも日常から外れた、寝る前にかじる妄想。そんなささやかな想像の楽しみが現実として目の前にある。


 青空の下の大きな正門、その先に見える校舎やビル。その前に立つ学校指定の制服に身を包んだ黒髪の少女は今緊張と不安で立ちすくみ、感慨深さにそれらを見上げていた。


 アークアカデミア。まるでユッセ城の逆バージョン。妄想が現実となって飛び出た3Dのおとぎ話。


(お母さん、お父さん、私、やりました!)


「ここが」


 感慨深さに言葉が漏れるが続きが出てこない。これを形容するなんてきっと無理。これから彼女が体験することはルイス・キャロルでも思いつかない不思議で素敵な出来事の連続だ。


(大丈夫かな、私。ドン・キホーテになっていないといいのだけど)


 と、いつまでも正門前で耽っていても仕方ない。彼女はこれから学園長室に行って挨拶をしなければいけない。


 遅刻してはいけないので意を決め少女は遅れた入学に足を踏み入れた。


「おい待てよ」


 の前に、その足は太い声に呼び止められる。


 少女の前に二人の男子生徒が立ち塞がる。まるで品定めするかのような目を向けさらには挑発的な笑みまで浮かべている。こういう人たちとは極力接点を持たないように生きてきた少女にはこれだけで体が固くなる。心臓の動きがびくんと跳ねた。


「えっと、なんでしょうか?」


 表情にも不自然な力が入る。


(いやいや、駄目よ。人を見た目で判断したら。もしかしたら友好的なクラブ活動の誘いとかそういうのかもしれないし)


 そう希望的に思ってみるが。


「お前ランクはいくつだよ!?」

「低ランクのやつがタダでここを通っていいと思ってるのかぁ!?」


(ええええ!)


 残念ながら現実は違いました。


「あ、あの」


 あまりのことに口が動かない。怖くて全身が痺れて動けない。


「なんだよ、すぐに言えないってことはやっぱり低ランクかよ。さてはFランクだな?」

「そんな恥ずかしいやつがここを通っていいと思ってるのか? 渡すものがあるんじゃないのかなあ?」


(うう。私、ここのままどうなるの……)


 不安が彼女の心に広がっていく。


「おい」


 そこに、新たな声が加わった。


「なにしてるんだお前ら」


 振り返る。そこには白のパーカーを羽織り両手をポケットに入れた子が立っていた。フードを被っているため顔が見えないがスカート着用なので女の子だと分かる。


「げ、生徒会!」


(生徒会?)


「私はな、お前らのようなランクを鼻にかけていびるやつが」


 彼女はずかずかと彼らの前に歩み寄る。それに一人の男が応じる。


「やる気か!? 俺はランクD、グレイトアームを発動! 強化された俺の右腕で、お前なんか」


 男が腕を大きく振りかぶる。でも、それが振り下ろされることはなかった。


「気に入らないんだよ!」

「ぐおおお!」


 前蹴りを放つ。お腹に直撃! それで男は吹き飛び倒れていく。


 その瞬間、少女には男を倒す場面がスローモーションのように再生されていく。蹴りの勢いで彼女のフードが外れ赤いショートの髪と苛立った表情が露わになる。


(かっこいい)


 自分は恐怖で動けなかったのに、物怖じせず、堂々としていて。赤い髪の子は少女というフィルター越しに見るヒーローであり、名前も知らないその人に心を奪われていた。


「待て、俺はなにもしてないから止めろ!」


 必死に静止を求めるもう一人に対し、無情、彼女は怒りに任せた蹴りで吹き飛ばしていく、


「ぎゃあああ!」

「クズが」


 彼女は蹴り上げた足を下し倒れた彼らへ人とも見ない侮蔑を送っていた。

 呆気に取られる。この人はいったい。

 人に自ら話しかけることに躊躇いはある。正直苦手だ。

 けど、この人への思いは少女に勇気をくれた。


「あ、あの」

「ん?」


 決して友好的ではない、不機嫌がまだ抜けきれていない目が少女を見る。


「ありがとうござました! 助けてもらって」

「ああ」


 感謝の言葉に彼女は特に気にした様子はない。


「いいよ、あんなの。気に入らないんだ。ムカつくよな、ああいうの。ランクで全部決めやがって」


 嘆息しながらつぶやく様からも彼女の思いが伝わってくる。


「あいつだって私と同じランクDだろうが。ま、私も生徒会だからさ。目についたら止めなきゃならないし。もしまた絡まれるようなことがあったなら教えればいいから」


 それで思い出す、生徒会。言葉自体聞いたことはあるけれど彼女のしていることは普通のそれとはかなりかけ離れている。


「あの、生徒会って」

「ん? 知らないの?」

「私、実は今日が初登校なんです。怪我で遅れてしまって。今もこれから学園長に、あ!」


 しまった、こうしてる場合じゃない!


「学園長室! 学園長室に行かないと!」


 早く、早く! 時間は? まずい、あまりない! でもどっち? どこにあるの!? 

 

「落ち着け落ち着け」


 取り乱す少女をやや呆れ顔でなだめてくれる。


「私が案内してやるよ」

「ほんとですか!? ありがとうございます!」

「まったく、忙しないのが入学してきたわね。私は真田深優。生徒会所属の一年生。あなたは?」


 彼女の名前は真田深優。この学校の一年生。それで少女もハッとする。助けてもらったのにまだ自己紹介をしていない。

 背筋を伸ばし彼女を真っすぐと見つめる。


「初めまして。私、天王寺未来って言います。よろしくお願いします!」


 自己紹介は元気よく。その様は初々しい新入生そのもので、実際そうで、早速トラブルに巻き込まれたけれどそれがきっかけで素敵な人と出会えることが出来た。

 それが天王寺未来。この学校の一年生で、送れた入学生。


「はいはい。ようこそ、アークアカデミアへ。それじゃ急ぐわよ」


 そうして天王寺は真田と並んで小走りで駆け出した。時間に急かされ足を動かすがふと隣の彼女へ振り返る。

 きりっとした目つき。凛のある姿勢。とても力強くて、こんな風になれたらいいななんて、少しだけそんな思いを抱いていた。


「一年生だったんですね、上級生だと思いました」

「私は絶対同い年だと思ったよ」

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