お前は学園を平和にしたいんじゃない、自分のものにして満足したいだけのお子様だ! そんなやつがランクAなんてものを手にしたのが不幸の始まりだよ
二人は構える。アーク大運動会は中止となった、だが二人の決着はまだ付いていない。
生徒会の横暴、ランク至上主義による支配構造。それを崩すことが信也の目的だ。
それを主導する親玉が目の前にいる。
ならば必然、
「パラレル・フュージョン! エレメント、ロード!」
「パラレル・ジャンプ!」
二人の戦いは必然だった。
「ファイア!」
「次元斬り!」
エレメント・ロードとなった信也は炎を放ち天王寺は並行世界から斬撃を呼び寄せる。
「止めて二人とも!」
姫宮が叫ぶ。けれど二人は止めない。
二人の視界を覆うほどの炎は切り裂かれ炎の中に道が出来る。
「ソードマスター!」
「ディメンション・エスケープ!」
ソードマスターによる跳躍で間合いを詰めるが天王寺は並行世界を経由して別の場所に避難する。相変わらずのヒットアンドアウェイ戦法だ。
直後自分のいる空間に鏡が割れたような亀裂が入り回避する。信也もエレメントロードで遠距離攻撃をするが次元回避によっていなされてしまう。
やはり強い。彼女のアークはランクA+。その強さはアークアカデミアで最上のものだ。
だからこそ惜しい。
「それほどの力を持ちながら人を支配することしか出来ないなんて、あんたにはがっかりだよ!」
「なに?」
苛烈な戦闘の最中信也は言う。
「お前は学園を平和にしたいんじゃない、自分のものにして満足したいだけのお子様だ! そんなやつがランクAなんてものを手にしたのが不幸の始まりだよ」
「ッ!」
ディメンション・エスケープを以てしても信也の言葉までは防げない。信也の言葉に天王寺の表情が歪む。
「お前の王様ごっこはここでお終いだ! 俺が終わらせる!」
「黙れ……!」
怒るのは当然だ、こんな挑発をされれば平静ではいられない。
だが天王寺の表情には怒りとは別の感情が混ざって見える。それは悔しさや悲しさ、そうした怒りとは別の感情が彼女の顔には表れている。
「自惚れた夢に浸ってるのはお前の方だ!」
「黙れえええ!」
信也の言葉を遮る。そう言う天王寺は怒りの形相を浮かべており、その目は、かすかに潤んでいた。
「お前に私のなにが分かる!?」
攻撃する。回避する。動くたびに黒の長髪を靡かせて、怒りで赤くなった頬には涙が伝う。
「戦ったさ、頑張ったさ、私なりに努力して、それでも駄目だったからこうしているんだろう! なぜ、お前がこのタイミングで現れた? どうして私の敵としてそこにいるッ」
怒りと悲しみが同居した激情が、諦めない信念が、苛烈な攻撃となった襲いくる。
「いい加減にしろ! その顔で、私に知ったようなことを言うな!」
「人の顔に文句言うんじゃねえ!」
だが信也だった負けていない。ディメンション・エスケープこそないものの信也もランクAの使い手。さらに汎用性なら誰にも負けない。
たとえ自分では勝てなくても、この身には並行世界の自分たちがついている。
「ガンスリンガー!」
すべての自分を動員して、この勝負に勝つ!
「!?」
青いジャケットを羽織った信也のガンスリンガーの姿。その変身に天王寺は動揺した様子を見せる。
彼女の手が、その時止まっていた。
その隙を見逃さない。信也は手りゅう弾を周囲に放り投げる。一か所に投げても回避されるだけ。なら広範囲への攻撃、制圧だ。
放り投げられた数個もの手りゅう弾が宙を舞う。落下する標的、猶予は刹那、さらに複数。これをほぼ同時に撃ち抜くのはまさに至難。
それを見事達成してみせよう。それこそがガンスリンガーとしてコピーした、この自分の矜持にして誇りだから。
手が動く。同時に腰を屈め距離を縮める。ガンホルダーに仕舞われた拳銃を最短距離で抜き、計算と直感が導く最速で銃弾を撃ち出した。
その一瞬の煌めき。芸術の域にまで磨かれた動作に、天王寺は見入っていた。
「どうして……」
回避も防御も忘れ、この一瞬に我を忘れる。
「なぜ私があなたに否定されなくちゃいけないんですか、神崎会長……」
その表情から怒りは消えて、涙だけが静かに滴り落ちていた。
信也の銃弾が手りゅう弾に命中し天王寺の周囲で爆風が発生する。天王寺は吹き飛ばされ地面に倒れ込んだ。
「があ、ぐう……!」
声が漏れる。痛む体を震わせて、けれど心がそうさせるのか、天王寺は必死に起き上がろうとしていた。両手を地面に付けて上体が起き上がる。
「俺が」
「信也君が会長?」
「ッ!?」
その動きが止まる。
「……世迷言だ、気にするな」
「そんなこと言ったて、気になるだろ」
言い間違いは日常でもある。だが信也を会長と呼ぶのはどう考えても不自然だ。彼女は顔を背け追及から逃げるように目を閉じている。
「なあ、教えてくれよ。あんたになにがあったのか。神崎会長てどういうことだよ?」
信也は彼女のことをなにも知らない。だが彼女の暴挙は止めなくてはならない。
それでも彼女のことを知ることで状況が改善できるなら。信也は彼女の背景になにがあるのかを知りたい。
自身の失態から生じた信也からの追及は止められそうにない。観念したように瞳を開け、天王寺はぽつりとつぶやいた。
「私は、別の並行世界から来たんだ」




