自分の思い通りにならないから支配するなんてなあ、わがままなんだよ!
この状態では空間転移をしても相手も一緒だ、意味がない。
頸動脈を圧迫される。その苦しみは意識を暗闇に引きずり下ろす。そうして彼女までもが意識を失っていった。
彼女の腕がだらりと下がる。その後誰もいなった彼女の背後からジャッジメントが現れた。光学迷彩を解くように体が実体を表す。ジャッジメントは掴んだ彼女を乱暴に放り捨てる。
会場には藤原、真田、小笠原、そして宍道が倒れ、ジャッジメントだけが立っていた。アークアカデミアが誇る生徒会の四天王。誰しもが強かった。一人として弱い者などいない。その連携はランクA神崎信也すら倒した。それが四人がかりで戦い、破れた。
勝ったのはジャッジメント。高ランクホルダー狩りの、ジャッジメントだ。
「四天王が、負けた?」
観客からどよめきが漏れる。その事実は衝撃的過ぎた。
「ジャッジメントだ……」
認めざるを得ない。これは疑問を確信へと変えるのに十分過ぎる。
高ランカーを狩る異能者。噂話でしかなかった、質の悪い都市伝説だと思われていた。
しかし今日、それは現実となって現れた。
「ジャッジメントだああ!」
観客であるアークアカデミアの生徒が叫び、それは連鎖的に広がっていった。アークホルダーの悪夢が実在した、それをすべての者が知ったのだった。
「手を上げろ!」
会場に警備隊が到着する。銃口をジャッジメントに向ける。
ジャッジメントは包囲されるも彼らと戦う理由はない。最後に彼らを一瞥し、興味無さげに正面を向くと自身を浮遊させ飛び立った。その後透明となり姿を消す。
「探せ! 入口を封鎖しろ!」
警備隊の指示も虚しくジャッジメントはこの場から消えていった。
襲撃者はいなくなり撃退したジャッジメントも立ち去った。脅威は去り安堵した空気が広がっていく。
「なんだよ、これ」
すべては終わった後。信也が現れたのはそんなタイミングだった。走って会場入りした信也が見るのは破壊された台や道具、戦闘の爪痕だ。さらには生徒会の四天王たちも倒れており生徒会役員によって手当や搬送がされている最中だった。
「えええ!? なにが起こったの!?」
「分からない」
隣の姫宮も信也と同様に驚いている。さきほどまで自分たちがいた場所が半壊しているのだ。それに怪我人も出ている、只事ではないのは明らかだ。
「会長!」
生徒会たちから声が上がる。アークを使い会場の中央に天王寺が現れる。
「被害は?」
「トラック内の損傷が激しく、怪我人多数です。ですが幸いなことに生徒会並び警備隊の人たちにも死亡者はいないようです。襲撃者はジャッジメントによって撃退され消失。そのジャッジメントですが四天王によって取り押さえようとするも失敗、現在治療中です」
「そうか……」
部下からの報告に天王寺は静かに呟くもそこには隠しきれない怒りと焦燥が見て取れる。
「くそ!」
目をぎゅっと瞑り、悔恨の念を絞り出す。誰も聞き取れないほどの小声には彼女の最大限の悔しさが表れていた。
「天王寺!」
「信也か」
信也たちは天王寺に駆け寄る。
「どういうことだ、なにが起こったんだよ」
「それを今調査中だ」
「あんたは、なにか知ってたんじゃないのか? 聞いたぜ、仮面を被った男と会話してたって」
聞いてみる。天王寺は襲撃の首謀者らしき人物と話していたのをここに来るまでに聞いていた。知り合いか、そうでなくても事前に知っていたと考えるのが普通だ。
「知ってるなら教えてくれ! やつらは一体なんなんだ? なぜここが襲われたんだ? 俺に出来ることなら協力するぜ、こんなのめちゃくちゃだろ!」
「そうだよ、よく分からないけど、困ってるならお互い様だよ。助け合わないと」
こんな惨劇を起こされて黙っているわけにはいかない。生徒会とのいざこざはあるがそれとこれは別だ。
が、天王寺は顔を背け黒髪を揺らす。
「ならば丁度いい。お前たちには生徒会に所属してもらう。全部活動の部長たちもだ」
「お前なあ!」
こんな事件があったというのに天王寺はあくまでも生徒会のみで対処しようとしている。
「まだそんなこと言ってるのかよ、そんな場合じゃないだろ、状況分かってるのか? 今は争う時じゃないだろ」
信也はそう言うものの天王寺は顔を合わせず、代わりに拳を力強く握っている。
「私にはもっと力が必要なんだ、今よりも強固な体勢がッ」
「いい加減にしろ! どうしてお前の中には支配しかないんだよ、協力だっていいだろう!」
「協力?」
その言葉に天王寺の表情が歪み、信也を見た。
「そんな不確かなものなど私は信用しない。力をつけるには力で束ねなくてはならない。ランク史上主義による支配が万全の体制を整える。そして、今度こそやつらを倒すのだ!」
そこには狂気にも似た熱意があった。独善的な信念は他者を寄せ付けない鋼の刃だ。
「それこそが! 私がここにいる理由だ!」
天王寺未来の、決意が叫ばれる。
「知ったことか!」
だが、それを否定する。
「お前の理由なんて俺たちの知ったことじゃないんだよ! そんな勝手で俺たちの自由を奪おうとするなよ!」
信也は彼女の目を見て叫ぶ。彼女の瞳は鋭い刃のようだ、見られただけで心が切り裂かれそうになる。
それを真っ直ぐと受け止めて、なお違うと叫ぶ。
「人の在り方を勝手に決めようとすんなよ、その人なりのやり方や生き方だってあるだろ。人間の可能性、自分を信じる心。それは誰しもが持っているものだ、お前が決めれるものじゃない。支配で人を好きに出来はしない!」
信也の信念。天王寺にも引けを取らない情熱が刃も通さぬ鉄の意思となる。
「なんでそんなに支配にこだわるんだよ……? お前にだって仲間がいるだろ? どうして他人をもっと信用できないんだ?」
語気を下げ彼女に尋ねる。これほどの強い意志だ、なにか事情があるのだろう。信也はそれを知らないが、それを知ればなにか方法が見つかるかもしれない。
「黙れ! これが私のやり方だからだ!」
けれど、天王寺は耳を貸さない。
「これしかないんだ、私には!」
「駄々っ子が!」
天王寺が刀を抜いた。彼女を写したような鋭利な刃が信也に向く。
「ち、力ずくかよッ」
めちゃくちゃだ、信念を通すためとはいえ暴力に頼るなんて論外だ。
「私に逆らうというのなら、ここで倒れろ!」
「自分の思い通りにならないから支配するなんてなあ、わがままなんだよ!」




