どうジャッジメント、舌は動かしてあげるから喋れるわよ?
緊張が張り詰めるがそこで藤原が動く。このまま静観する彼女ではない。
アークを使い未来を視る。優位な戦況を必勝に変えるため、勝利への地図を広げる。
そこに記されていた情報に、彼女は驚いた。
「みんな! まっ――」
次の瞬間、錬司は動いた。直後彼女の言葉が詰まる。
今の発言、仲間になにかを伝えようとしていた。それを伝えてはならないと瞬時に判断、先手を打つ。
藤原の体は宙に浮き両手を首に当てる。足をバタつかせ必死に首を掻いていた。
それを皆が見る。
「副会長!」
錬司は手を伸ばし藤森の首に向けていた。
それは念じたものを一ミリだけ動かすアーク。実用性なしのランクF。だが錬司はそれを高速、かつ連続で行い藤原の首を一ミリずつ圧迫、さらに体を浮遊させていた。それにより藤原の発声を封じ、そのまま意識を失わせた。
それは彼女ら高ランクホルダーには想像も出来ないことだろう。
今彼女を襲っているのは他ならぬ役に立たないアーク、ランクFなのだから。
「貴様!」
地上に落ちるのを宍道がスペースジャンプで受け止める。同時に真田が飛び出した。
ブラック・スワンによって生み出される爆発的な推進力を持って真田の蹴りがジャッジメントに迫る。彼女が全力で走ればその全身は風圧を纏う。猛風となって彼女は蹴りを放つ。
だが、それを錬司は避けた。
自身の体へ念じ、一ミリずつ移動。それを超高速で行い疑似的な高速移動を行ったのだ。
「なに?」
「深優の蹴りを」
「避けた!?」
真田はさらに蹴りを放っていく。ボクサーのジャブのような蹴りの連続。だが錬司には当たらない。そのすべてを見切り加速を以て回避する。
人間の動きではない。まさに超人。高速移動ができるという能力としか思えない。
そこで反撃に出る。拳を打ち出し真田は両手を交えガードした。その拳も一ミリ動かすアークの加速が乗った一撃。強烈。腕が痺れるほどの打撃だ。連続して受ければ耐えられない。
「くそ!」
真田は地面を蹴り一旦退避、体制を整えるため数メートル後退する。
が、悪夢は終わらなかった。
ジャッジメントもまた前進し間合いを詰めてきたのだ。
あり得ない。それはアークの常識を覆すことだ。
アークは一人につき一つ。マルチアークは存在しない。ではこれはなんだ?
真田は駆け回る。まるで電光石火の速度。しかしジャッジメントを引き剥がせない。黒の外套を靡かせ、まるで自身の影のように離れない。
「奏音!」
「分かってるけど速すぎるのよ!」
影を操る小笠原も真田を援護しようとしているが両者が速すぎて狙えない。
ならばと宍道が動く。スペースジャンプでジャッジメントに近づきナイフで攻撃する。ジャッジメントは避けるがその隙に真田は退避した。
「奏音!」
「よっしゃあ!」
宍道も姿を消しその場はジャッジメントだけとなる。
「ドッペル・シャドー!」
奏音の影が伸びジャッジメントの影と合わさる。ついにジャッジメントの影を捕まえた!
「取ったー!」
「…………」
これではさすがのジャッジメントといえど身動き出来ない。彼女のランクBドッペル・シャドーは自身と重なった影を操る。これでジャッジメントは小笠原の操り人形だ。
「どうジャッジメント、舌は動かしてあげるから喋れるわよ?」
もはや彼は虫かごの中。小笠原は彼に近づき挑発的な目で見上げていく。
「馬鹿が」
だが、その油断をこの男は見逃さない。
彼女が奪えるのは体の自由のみ。意識までは奪えない。
彼の能力を封じることは出来ないのだ。
「深優! やっちゃって!」
彼の放つ不穏な気配に危機感が沸騰する。小笠原は叫び真田も叫んだ。
「はあああ!」
地面を踏み込む。自身を突風に変え足を振り上げる。大振りの飛び蹴り、これで終わり!
「!?」
直後、真田の体に異変が起きた。蹴りを入れる体勢のまま体が静止し、宙に固定されていたのだ。もがこうとするもびくともしない。
さらには地面に叩きつけられる。次に浮上し会場の壁にまで突き飛ばされ激突、さらに反対側の壁にまでぶつけられる。
「ぐ、あ」
それにより真田は意識を失い倒れてしまった。
「深優!」
宍道は叫ぶが異変は奏音にも起きていた。
「ぐう!」
奏音の体も浮かび上がり首を絞められているようにもがく。首に両手を当てるがどうすることも出来ない。当然そこにはなにもない。どういうことかも分からない。そのまま小笠原は倒れてしまった。それによりドッペルシャドーがなくなりジャッジメントの拘束が解かれる。
「奏音」
仲間はみな倒された。残りは宍道ただ一人だ。
「よくもみなを!」
宍道は空間転移で宙に飛び、両指にナイフを挟む。それだけでなく背後にも大量のナイフを出現させた。そのすべてがジャッジメントに照準を向けている。
「くらえ!」
一斉にナイフが放たれる。鋭い刃が雨滴のように降り注ぐ。それは文字通りのナイフの雨。逃げ場はない。その隙間に人が入るスペースはなく数による絶対命中。宍道琉衣本気の攻撃だ。
それに対しジャッジメントは片手を向ける。迫り来るナイフの大群。それがジャッジメントの目前で動きを止めていく。
「くっ」
ナイフの停止。さらにジャッジメントは手首を回すとナイフも反転し今度は彼女に照準を向けてきた。
「!?」
それはさきほどの反対。今まで送り出してきたナイフすべてが自分に向いている。
ジャッジメントは腕を振るう。それを合図にナイフが襲い掛かってきた。宍道も負けずと第二陣を展開、ナイフの雨と雨がぶつかり合う。空間はナイフがぶつかり合う激しい音が響き渡り火花が散っていく。
宍道はなんとかやり抜け無傷のまま着地した。すぐに当たりを見渡すがジャッジメントの姿が見えない。
「どこにいった?」
辺りを見渡すがどこにもいない。背後や上空、すべてだ。
瞬間、膝裏を蹴られ地面に膝を付く。首を絞められた。
(今までどこに!? スペース・ジャンプでディメンション・エスケープを、いや、密着されてる。逃げられない!)




