これがジャッジメント? 思ってたのと違うわね
目の前にいる正体不明の人物。それをまじまじと見つめる。なにが目的なのか、なにをしているのかまったく分からない。しかし分かることがある。
彼は宙に浮いていた。そして飛んでくる銃弾を止めたのだ。誰にでも出来ることではない。異能を使っているのは明白。しかしなにを? どんな異能を使えばこんなことが出来る?
まるで複数の異能を使っているとしか思えない。そんな異常な存在。それが導き出す答えは――。
「ジャッジメントだ……」「ジャッジメント?」「ジャッジメントだ!」
その名を観客が叫んだ。
「ジャッジメント?」
伊吹もその名をつぶやく。
「間違いない! 物を止めたり動かしたり、マルチアークのジャッジメントだ、本当にいたんだ!」
それはここ最近巷を騒がせていた噂話だ。
審判者事件。その者はマルチアークを使うという。高ランクのホルダーを倒しその傲慢を裁くという。
それがジャッジメント。ランク至上主義が生んだ怪物にして抑圧された者たちが生んだある種の願望。
彼が本当にそのジャッジメントなのかは分からない。しかし伊吹はそうだと知るなり慌てた様子でポーチバッグの中身を漁る。そこから刺激スプレーを手に取りジャッジメントに向けた。
「あなたは誰!? なぜここに現れたの!?」
ジャッジメントと言えば無差別に高ランクの異能者を襲う危険人物だ。助けられたが今度は襲われるかもしれない。決して味方というわけではないのだ。なにをしでかすか分からない通り魔のようなもの。
「自分の能力を見せびらかせるため? そんなことしても誰もあんたのことなんて認めないわよ」
言いながら伊吹は一歩後退する。どうするべきか。すぐに逃げ出すべきだが後ろを向けた瞬間襲われるかもしれない。そもそも襲撃者を浮かせて倒したこの男から逃げられるなんて思えない。
危機感が募る。どうすればいいのか、考えるが答えなんて出ない。
そんな彼女に、ジャッジメントは振り向いた。
「自分を認めてもらいたいなら、誰かを助ければいい」
「え」
そう言うと男は会場へと戻った。会場に新たな襲撃者たちが侵入し男は戦っていく。その姿を観客全員が見送った。
だが伊吹だけは別の表情を浮かべその姿を見つめている。
「錬司……?」
その少し前、天王寺はヴィクターと戦っていた。その際観客席から叫ばれるジャッジメントの言葉にヴィクターが反応する。
「ジャッジメントだと?」
見れば視線の先には部下を倒していく黒服の男がいる。白のロングコートを羽織った彼とは対照的な男は襲撃者を無力化していく。
「ち、撤退だ」
「逃げるのか!?」
「ま、目的は達成できてるんでね」
そう言うとヴィクターの背後に異空間が現れた。水面のように歪曲する空間を背にヴィクターは後退していく。
「お前がなにをしようが結果は見えている。俺は目的を絶対に達成する男なんでね」
ヴィクターは銃を撃ち鳴らし天王寺を牽制する。制圧射撃に天王寺も近寄れない。
「決着をつけるにはまだ時期が早い。だが安心しな、逃げるわけじゃねえ。戦う機会はいずれ来る」
「待てッ」
襲撃してきておいて逃す手はない。だが態度に反してヴィクターに隙はなく接近を許さない。
「今回も、俺たちの勝利でなぁ。ぎゃはははは!」
そして笑い声と共にヴィクターは消えていった。
会場で戦う錬司だが襲撃者たちがテレポートで消えていく。倒した襲撃者たちも自動テレポートでこの場から消えていった。その後を追うように天王寺もパラレル・ジャンプで消えていく。
争いはなくなった。残ったのは破壊された会場と被害者、逃げ遅れた観客たち。
その中でジャッジメントだけ浮いていた。彼はアークアカデミアの身内ではないし端から見れば襲撃者と同じ正体不明の不審者でしかない。
衆人環視の中錬司は立ち尽くす。好奇と不安の入り混じった視線はこの状況を表しているようだ。
この男は敵なのか、はたまた味方なのか。
錬司はトラックの中央におり襲撃者が倒れていた場所を見る。そこにいたはずの襲撃者は消えている。他になにか手がかりはないかと見渡すと、連中が使ったと思われる薬莢が転がっていた。錬司はそれを拾い一瞥してからポケットへと入れる。
他にやれることはない。そう判断しこの場を去ろうとする。
「待ちなさい」
それを止める声があった。
振り返る。そこにいるのは一人の女性。執事の服装に身を包んだショートカットの女子生徒。
宍道琉衣がいた。
「どこにも行かせないわよ」
彼女だけじゃない。反対側の扉から暴風の如き勢いで今度はパーカー服の女子が現れる。フードの自体から鋭い視線を飛ばす。
真田深優。
「ええ、あなたを行かせるわけにはいかないわ」
さらに四天王の頭脳役。司令塔である彼女がウェーブのかかった長髪を揺らしながら現れる。
藤原時雨。
「ようやく現れたわねジャッジメント、私から逃げてたのは自信がないのかしら?」
彼を小馬鹿にしたような言葉を吐きながら小学生にも見える小柄な体躯。ピンクの髪にいたずらするような目でジャッジメントを見る。
小笠原奏音。
錬司は四方を囲まれた。
「生徒会です。あなたを会場への侵入行為、さらに余罪追及のため連行します。抵抗は止め我々の指示に従ってください」
「襲撃犯との戦闘により観客を助けてくれたことには感謝するわ。でもあなたにその資格も許可もない。なによりあなたにはいろいろ聞きたいことがあるの、同行願えるかしら」
執事姿の宍道は気を緩めることなく、藤原は自身の髪を指で遊びながら聞く。だがそこに油断はなくそれはここにいる全員が同じだ。
「これがジャッジメント? 思ってたのと違うわね」
そう呟く小笠原だがその眼差しは真剣だ。好戦的な瞳はそのままだが油断はない。目の前の男が噂通りのジャッジメントなら本気でいかなければならないことを知っている。
だが彼女たちも生徒会の四天王、その誰しもが強力なアークホルダーだ。一対一ならまだしも四人がかり。
圧倒的に有利だ。ジャッジメントを捕まえるなら今しかない!
彼女たちに囲まれ錬司は苦境に立たされていた。
過去の清算。ジャッジメントが裁かれる時が来たのだ。
質問に微動だにしないジャッジメントに膠着状態となる。




