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(これがアーク? エフェクトの出力とは全然違う。並行世界への干渉なんてとんだめちゃくちゃじゃない!)

 今日この日のため、この敵を今度こそ倒すため。それが彼女の目的。


 なぜ自分がここにいるのか? 


 示すため、誓いを立てた。


 天王寺は積年の念を抱きこの場に立っている。


 そんな彼女をヴィクターは変わらず愉快な目で見下ろし続けている。


「報告には聞いてた、お前がここにいるってことはな。だがずいぶん変わったな、敗北がお前を変えたのか?」


 天王寺の戦意を滾らせた瞳とは対照的に男の双眸は愉悦を滲ませている。この出会いをどこか楽しんでいる。


「それにここでは生徒会長だって? あの時の弱虫がずいぶん出世したもんだ」

「黙れ」


 男の言葉を怒りと共に遮る。


「これ以上お前たちの好きにはさせん。お前たちは、私が倒す!」


 鞘から刀を引き抜き構える。黒髪がふわりと浮かび剣先が男をとらえた。問答は無用。この敵を討つために今日までを生きてきた。


「お前の能力は厄介だ。素面じゃさすがに無理か」


 天王寺の戦闘態勢に男も動く。今まで銃器だけで戦ってきた男ではあるがそれだけで彼女を倒すのは困難だと判断したようだ。


 突如としてアークアカデミアを襲撃した張本人。宍道を無能力で倒すほどの実力者。それがどのような異能を持つのか。


 それがついに明かされる。彼女のアークを知っていながら逃げないのは自信があるため。

 己の異能ならば倒せると。


「俺はランクAアーク、並行世界・他者融合(オルタネイティブ・フュージョン)発動! 並行世界にいる他者の能力をコピーする。俺がコピーするのは」

「!?」


 天王寺の目がまさかと見開く。


「ガンスリンガー!」

「貴様ぁ!」


 ヴィクターの両手に拳銃が握られる。天王寺に突きつけるが同時に彼女もアークを発動した。

 パラレル・ジャンプ。これで並行世界を経由しながら男の目の前に現れる。刀を打ち付け、男の拳銃と押しつけ合う。


「あの人のアークを、お前が使うなああ!」


 怒号を放ち、それでも男の楽しむ目は崩れない。


 パラレル・ジャンプを駆使する天王寺に仮面の男はワイヤーガンを使ってその場を離脱、互いに場所を移動しながら戦っていった。


 二人の戦い、さらに増援として駆けつけた警備隊と襲撃者たちで銃撃が行われる中、観客席には伊吹がまだ脱出できないでいた。


「なによこれ」


 逃げるに逃げれず身を屈め椅子の影に隠れる。音だけははっきり聞こえる。その銃弾がいつ自分に向かうかと思うと怖くなる。怖い。だが見なくてはならない。そう思い顔をゆっくりと浮上させる。


 そこで繰り広げられるのはアークアカデミア最高ランクのアークホルダーと襲撃してきた首謀者との異能合戦だった。


(これがアーク? エフェクトの出力とは全然違う。並行世界への干渉なんてとんだめちゃくちゃじゃない!)


 研究者の性なのか危険を顧みない。いや、理解しているが抗えない。無理もない。異能研究者として目の前には最高級のデータがあるのだから。


 しかしそこで現実を目の当たりにする。エフェクトとの能力に差があり過ぎる。それもそのはず、エフェクトとトップクラスのアークではまさに別物だ。どんなに汎用性があるとはいえやはり強い能力というのはやはり惹かれる。その差が大きければなおさらだ。


 研究者魂で伊吹はアークを見続ける。


「会場を破壊しろ!」


 襲撃者の指示に部下がロケットランチャーをどこからともなく取り出し発射した。防弾シールドといい対象限定の空間転移、ランクD技術があるのを伊吹は見逃さない。襲撃者は警備隊が隠れていた障害物の台の根本にロケットランチャーを撃ち込み倒壊させた。その台は観客席へ傾きそれは伊吹の方向へと倒れてきた。


「あ」


 自分を覆う影が大きくなっていく。同じく自分のように身を屈めている多くの観客も一緒に。逃げる余裕なんてなかった。なんとか立ち上がるのが精一杯でこれだけ人が込み合ってる中走ることも出来ない。


 だから出来るのはただ見上げることだけだった。分かっているのにどうしようもない。危険がやってくるのを。


 迫る台。伊吹は咄嗟に腕を出し顔を背ける。


(助けて!)


 死の間際それだけ祈ってた。


 あとは消えるだけ。だがその時がなかなか来ない。


「え」


 おかしい。いつまでも落ちてこない台に恐る恐る目を向けてみる。


 台が、止まっている。空中で固定されているように落ちてこない。不可思議な現象に伊吹や他の観客までも固まっていた。


「なんだあれは!?」


 そこで観客が大声を上げ伊吹もその後を追う。


 会場にいる誰しもがそれを見上げていた。落下する台が止まるという異常とともに現れた異常。

 それは上空に浮いていた。黒の外套を靡かせてフードを目深に被っている。顔は影になって見えない。体格からおそらく男性。


 黒の不審者。漂う雰囲気は只者ではないと一瞬で分からせる圧倒的な雰囲気。


 あれは誰だ? 敵か味方なのかも分からない。誰しもが固唾を飲んで不審者を見つめた。ここにいる誰一人正体を知らない。


「撃てぇ!」


 唯一仲間ではないと知っている襲撃者たちが攻撃する。なんであれ倒せばいい。その合理的な判断は不審者に向けていくつもの銃弾を浴びせた。数人からなる銃弾、避けられるはずがない。


 が、それが当たることはなかった。


 銃弾が不審者当たる前に動きを止める。彼の周囲に見えないバリアでもあるように次々襲いかかる銃弾も静止していき空間に縫い付けられていた。


「なんだと」


 銃撃が止む。それで静止していた銃弾も落下していく。次に不審者は高速で地上に降り襲撃者たちの前に立つ。再度銃撃しようとするがその前に不審者は片手を動かした。


「ぐう!」


 直後首を締め付けられる苦しみと共に体が持ち上がっていく。足をばたつかせるも地面に当たらない。それも全員だ。見えない手で首を掴まれ持ち上げられているように、みなが首を触るがそこにはなにもない。


 不審者が片手を突き出すと襲撃者たちは吹き飛んだ。体を会場の壁や床にぶつけ意識を失っていく。


 それで決着。たった一人の男は白い襲撃犯を圧倒し鎮圧させていた。


 彼の活躍に観客もざわつき始める。驚愕する者にまさかとつぶやく者もいる。


「今度はなんなの」


 伊吹も理解出来ない。


 すると外套の男がこちらにやってきた。浮遊しながら観客席に立つと倒壊したまま止まっている台を動かし始めた。避難が完了し誰もいない観客席へとゆっくり下す。


 助かった……? 唖然としたまま彼を見つめる。

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