俺の名前は勝利主義者(ヴィクトリアン)。気軽にヴィクターと呼んでくれ
「あなたたちを拘束します、武器を捨て投降なさい」
「…………」
すぐにでも攻撃する気迫で言うのだが男は呆然としている。聞こえていないのか聞く気がないのか、隙はないのだがそこにはやる気が感じない。戦意というのがまるでないのだ。
「聞いてるのですか、武器を捨て――」
瞬間、男は拳銃を抜き発砲してきた!
「!?」
速い。気を抜いていれば撃たれていた。いや、自分でなければ無理だった。それほどの早業、0.何秒の速攻だ。
宍道はランクA、スペース・ジャンプによって回避、同時に男の背後に回り奇襲を仕掛ける。出現すると同時にナイフを男に突きつける。
「なッ」
が、男はすでに振り返り裏拳を放っていた。出現すると同時に攻撃を受け防御も取れず宍道は地面に転がっていく。
(なぜバレた? 読心術? それか副会長のように未来が見えるのか?)
奇襲は完璧だった。なのに先手を打たれたということはそれに対応した異能を持っている可能性が高い。
そこから宍道は男の能力を推測していく。
「意外そうなを顔してるなぁ」
宍道は見上げる。仮面で表情は見えない。だが冷たく見下す双眸だけは見て取れた。
「教えてやるよガキ。人はな、あまりにも優位な立場にいると戦術が単純化する。複雑なことしなくても勝てるからな。そうした思考が戦略の幅を狭め相手に読まれる隙を生むんだよ」
驚きに目が丸くなる。
(そんな、計算で私の動きを読んだ?)
本来圧倒的優位であるはずのランクA、次元の操作という能力。だがその強力さ故に行動が単純化してしまい読まれてしまったのか。どこからでも攻撃できるならわざわざ正面からいかない。ではどこから攻める? 死角だ、背後が鉄板。
だからこそ読まれ、反撃されたのだ。
「異能に胡坐を掻いてると死ぬってことだ」
男は銃口を向けてくる。すぐさま空間転移で回避する。
宍道はしまったと思ったがそれなら複雑にしてやればいい。
宍道は空間転移にフェイントを加え再びナイフで攻撃する。これならどこから攻撃するか読めない。宍道は今度は背後ではなくあえて側面から、男の顔を狙って切っ先を当てる。
「ッ」
が、そこに男の姿はいなかった。
仮面の男は身を屈めていた。
(避けられた?)
たまたまか? そう考えるが思い直す。違う、この男は読んでいたのだ。
どこからでも攻撃できるということは好きな場所を攻撃できるということ。ではどこを攻撃する? 弱点の頭部? 胸部? 死角の背部? どれも正解だ。
が、足を狙うという発想がない。それを読まれ男は限界まで身を屈めたのだ。
さきほどと同じ、思考を読まれている。
こんなことは初めてだ。異能に対抗するには異能しかあり得ない。そう思っていたのにこの男は思考と身体能力だけで対抗してくる。
まさに対異能者のエキスパート。異能に対する理解と対策、それがずば抜けている。
すぐに宍道は離脱してから攻撃、再度攻める。
(!?)
次に出現した時、男は目をつぶり両耳を押さえていた。どういうことかと思った直後この場を爆音と強烈な光が覆った!
「ぐう!」
それにより聴覚と視覚がやられその場にうずくまる。
「つうー、近すぎたな」
男も影響を受けているようだが事前に耳を押さえていたので軽微だ。宍道はもろに閃光弾を受けてしまった。
「空間転移っていうのは点の攻撃は避けられるが広範囲攻撃では不意を突かれる」
男に腹を蹴り上げられ彼女の体が転がる。
「死ね」
男が向ける拳銃。発砲する直前。感覚が消失する中で咄嗟に空間転移を使い姿を消した。ディメンション・エスケープ。ランクA+としての強さを発揮し宍道はこの場から離脱した。
銃声が鳴り響くが銃弾は地面を穿つ。
「消えたか」
周りを見ても宍道の姿はない。あのダメージでは当分は戦えないため離脱したと考えるのが普通だ。
「どうしましょうか、ランクA+となると厄介かと」
「戻ってくるまで時間はある。会場に向かうぞ」
「は!」
宍道を退けたことで襲撃者は侵攻を再開する。会場の自動扉を通り通路を進む。その進み方は連携が取れており迷いがない。何度もこうしたシチュエーションを行っているのだと分かる。十字路に差し掛かれば防弾シールドを出現させた兵士が左右の通路を塞ぐように並び安全確保、最後尾の兵士が通り過ぎる際に肩を叩きそれを合図として防弾シールドを消し列に加わる。何度か警備隊と交戦するも突如出現できる防弾シールドを駆使しながら排除、ついにはトラックにまでたどり着いた。そこで待ち受けていた警備隊と交戦するも盾役と攻撃役の連携を活かし排除する。警備していた者は銃撃に倒れてしまった。
発砲、本物の銃撃戦に観客たちから悲鳴が上がる。困惑などという不確かなものではない。不安などという曖昧なものではない。
恐怖という、明確な危険を知ったのだ。
観客は大慌てで逃げ出していく。楽しかったはずの場所が一転阿鼻叫喚だ。
戦場と化した会場。そこで唯一の笑い声が響く。
「ぎゃはははは!」
恐怖に支配された場所で歌まで歌いだし仮面の男は壇上を目指す。
「ロンドンブリッジ、フォーリンダーウン。フォーリンダーウン。マイ、フェア、レディ~」
上機嫌に歌いながら台に上がりマイクの上に立つ。
「あ、あー」
ふてぶてしい態度でマイクを確認し壇上から会場を見渡す。
「これはこれはごきげんよう、アークアカデミアの皆さん。俺の名前は勝利主義者。気軽にヴィクターと呼んでくれ。皆さんお楽しみのところ悪いが急遽予定は変更だ。残念だけど、これからは戦争のお時間さ。ぎゃはははは!」
男は拳銃を頭上に向け発砲する。戦争という言葉と威圧に混乱はさらに広がった。恐怖と死。異能とは別次元の非日常に巻き込まれる。
「そこまでだ!」
男の手が止まる。
女性の声が響く。恐怖と嘲笑のピエロは動きを止め突如として現れた女性徒を見る。
ここに颯爽と現れたのはアークアカデミア生徒会会長、天王寺未来。今まで外にいた襲撃者を一人で倒し会場に仮面の男が出たことを知って現れたのだ。
トラックには天王寺と襲撃者たち。ステージからヴィクターは見下ろし地上で天王寺が睨み上げる。
「ほう」
天王寺を見やりヴィクターの目つきが変わる。天王寺はいつにも増した戦意のある瞳で男を見る。
それは単なる襲撃者を見る目ではない。因縁の敵を睨みつ表情も怒りに燃えている。
「第一アカデミア」




