未来のありとあらゆる可能性にこのことは存在しなかった
第四章
それは突然だった。
アークアカデミア第二会場ではステージで出し物が行われている。大画面ではアーク大運動会の様子を映し出しながら各部活動が自分たちの成果を発表しており観客たちは異能の発表を見ては歓声を送り自由に過ごしていた。
そこへ突如爆発音が響く。何事かと訝しむ頭に今度はサイレンが鳴り響く音警備員が現れる。
「皆さん落ち着いてください! これから我々が誘導しますので避難をお願いします! 現在ここは危険です! 避難の用意をお願いします!」
その声掛けは良くも悪くも観客に真実を与えた。混乱は一気に膨らみさらに会場のすぐ近くで再度爆発音が響く。
会場はパニックだ。我先に逃げようとする観客たちを警備員たちがなんとか誘導していく。
だがここ以上に生徒会は混乱していた。アーク大運動会運営委員特設室には生徒会の藤原や宍道、小笠原ほか多くの生徒会委員がおりモニターを前にやり取りをしている。突如現れた襲撃者、その知らせにこの場は騒然としている。
「襲撃者の場所と規模は!?」
「現在会場入口付近で警備隊と銃撃戦となっています。敵の規模は確認されているだけで一個小隊です」
「そんなのがどこから現れたっていうのよ」
モニターを切り替えその場面を映す。そこにはアークアカデミアの警備隊と白い服を着ている集団が撃ち合っているところだ。
「なによこれ」
そのあまりの光景に小笠原はつぶやき宍道も顔を引きつらせている。藤原は観客や生徒含め避難指示を出したあと顎に手を当て思案していく。
「副会長、これはまさか」
「ええ、会長の言っていたことが実現したわけね」
宍道の確認に藤原はこれが事前に予言されていたことだと確信する。
「私たちを動かすための妄言だったら良かったのだけど、まさか本当になるなんてね」
「ていか、あんたこれ察知できなかったわけ?」
さすがの小笠原もゲーム機の電源を切り苛立っている。きっといいところまでいっていたのだろう。
藤原のアークはランクAの未来観測だ。これほどの事態を予知できないというのは考えづらいが。
「出来てたら真っ先に報告してるわよッ」
それも当然。藤原は出来ていなかった。未来が見える彼女ですらこの事件は予期せぬ事態だ。
「未来のありとあらゆる可能性にこのことは存在しなかった。となれば考えられるのは一つ。私たちを襲っている連中は別の時間軸から来たってことよ」
「別の時間軸?」
「そう。ようするに私たちがいるこの世界の住人じゃない」
「それか並行世界から来たってことですか?」
「そうね。さすがの私も別宇宙のことまでは見れないし、そう考えるのが自然よ」
彼女のアーク、未来観測はあくまで自分がいる宇宙の時間軸しか見れない。この宇宙にある要素や条件、それらをもとに未来起こりうることを確率として視る能力だ。
だが並行世界の介入となれば別だ。この宇宙の外でなにが起こってるかまでは分からない。よって計算することも出来ずまったくの予想不可能というわけだ。
別次元からの侵略。予期できぬ奇襲。
「生徒会総員に通達! 生徒や観客の避難誘導、風紀隊は警備員と共同で襲撃者の迎撃に当たるわよ!」
「はい! すでに誘導と部隊の編成を行っています!」
「これが会長の言っていたことなら規模が小さ過ぎます。なにか狙いがあるはずです」
「そうね」
「知ったことじゃないわよ、要は倒せばいいんでしょ?」
そこで扉が勢いよく開けられた。振り返ればそこにいたのは真田だった。
「深優、大丈夫なんですか?」
「あんたあのひっどいカレーパンで運ばれたんでしょ? 今もふらふらじゃないのよ」
「いけるッ!」
真田の表情には未だ兵器級の辛さを持ったカレーパンのダメージが残っている。顔は赤くやや頬が腫れているようにも見栄足取りもしっかりしていないがその目つきだけは本物だ。戦意を漲らせ誰よりも気合が入っている。
「こんな時に眠ってられるか」
「分かったわ」
真田の覚悟を受け取り藤原は頷く。非常事態だ、彼女も戦力に加わるなら心強い。
「報告! 天王寺会長が出撃したとのこと! すでに襲撃者と交戦中!」
「会長が!?」
「私たちもいくわよ! 琉衣、先行して!」
「はい!」
この場から宍道がいなくなる。他の四天王たちも部屋を出て走り出した。
この場を襲う並行世界からの襲撃者。未知なる脅威がアークアカデミアに降り注ぐ。
その頃、第二会場入口前はまさに戦場だった。駆けつけたアークアカデミアの警備隊もアサルトライフルで応戦するものの敵を追い返すことが出来ずにいた。
相手は十数人ほど。その全員が白の軍服にヘルメットを着用しているため顔は見えず、銃器までも白色のアサルトライフルを使っていた。
敵は兵士を並ばせ防弾性の盾を使い壁を作っている。それが小走りで距離を詰めながら後方の兵士が銃撃か手りゅう弾を使って警備隊を倒していく。防御陣形を崩すことなく突破していった。
その陣形の中央、黒い長髪をした青年が戦場を見渡す。白のロングコートに仮面で表情を隠しているが覗き込む目は愉悦を浮かべていた。
止められない。そう判断した警備隊は怪我人を負って撤退していく。装備が違い過ぎる。この敵は本当にここを破壊するつもりで来ている。
会場前は警備隊が撤退したことで襲撃者のみとなる。
「クリア!」
「クリア!」
「このまま会場に入るぞ」
「了解!」
緊張感に欠けた声色に覇気が満ちた部下の声が応える。防弾シールドは消失し身軽になったところで小走りで前進していく。
「待ちなさい!」
それを宍道が阻んだ。空間転移によって彼らの正面に現れた彼女はすでにナイフを手に戦闘態勢だ。彼女の登場に襲撃者たちも足を止める。
「能力者か」
彼女は突然現れた。普通ではない、アークを持っているのは明らかだ。
だというのにこの男に動揺はなかった。
「ランクA+だな。どけ、俺がやる」
部下をどかし仮面の男が前に出る。ランクA+だと知った上で戦おうとしてくる。
宍道は目つきを鋭くした。生徒会の四天王として今までも多くのアークホルダーと戦ってきた。その中には危険な戦いもあった。
だがこの敵はそのどれとも違う。自分の異能を知っていながら戦う姿勢。それも殿や妨害だけが目的の戦いでもない。自分に勝つ気でいる。
彼と対峙する。隙がない。戦いの中にあって平然としているその態度はまさに異常。普通であることがこの男の異常性を示している。
宍道は緊張していた、今まで戦ったことのないタイプだ。会長の威圧感とはまた別、異質な不気味さがある。
宍道と仮面の男が向かい合う。一対一だ。




