アーク大運動会は始まった
彼女がここにいるのは予想外というわけではない。むしろ想定内だ。だが他の四天王がいない。
「他の四天王はどうしたんだ? 参加していないのか?」
これは予想外だ。見落としていないかともう一度辺りを見てみてもやはりいない。
「やったね信也君! ライバルが減ってラッキーじゃん」
姫宮は喜んでいるが果たしてそうなのか。ライバルが少ないのは確かにいいことだがこれには裏があるに違いない。
「不満か? お前らなんて私一人で十分だってことさ」
「ムッキー! いけ好かないんだから!」
「…………」
(本当にそうなのか?)
怪しい。だが真意が読めない。そのまま真田と別れると反生徒会派の部長たちがやってきた。彼ら彼女たちも生徒会所属の参加者の少なさに疑問を抱いているようだ。
「どういうことだろう?」
「俺もよく分からないですけれど油断はできないですよね。生徒会長は強制参加にかなり力を入れているようだった。これだって向こうが提示してきたことだし。なのにここで手を抜くことは考えづらい」
みなでどういうことかを考えるが答えは出ない。とりあえず気を付けつつも全力でアーク大運動会を勝ち抜いていくしかない。
開始までの時間が刻一刻と過ぎていく。それに比例して観客たちの期待感が上がっていく。そろそろか。まだなのか。いったいどんな大会になるのかとそこかしこで話される。
開始時刻になる。クライマックスに達した時この場は暗闇に包まれた。昼が暗転する。歓声が上がり静まり返る。いったいなにが起こったのか、静寂が下り興奮が上がる。
次に光が現れた。それは流星群が夜空を流れるようだ。それらのいくつかは地上に降り注ぎ光の破片をまき散らす。それらは観客の間を漂い集まると妖精となり色とりどりの小人たちが宙を走り回った。他には光のドラゴンや巨人たちが闊歩する。観客たちは大盛り上がりで光の像たちは中央のステージに集まっていき一つの大きな光となる。それが弾けた時ステージにはアイドル部部長の三木島と他の部員たちがステージ衣装で立っていた。
彼女たちの登場、特にプロアイドルとしてすでにデビューしている三木島の登場にファンたちから歓声が上がる。巨大な液晶に映し出される彼女たちはみな煌びやかな存在だ。
彼女たちの歌とダンスが始まる。アーク大運動会の開幕を告げるプレリュード。それは華やかに、非日常な魅力を伴って幕を上げた。
「きゃああああ! 三木島さああああん!」
「お前が一番喜ぶのかよ」
歌が終わり照明が元に戻る。センターである三木島が前に出る。
「みなさん、ようこそアークアカデミアへ! ここは異能を扱う学園、みなさんにはいつもとは違った日常を、そして我々のことをこの機会に知ってもらおうと思います。さきほど見せたのは私のアークです。光を操り幻想的な光景を見せることが出来ます。どうだったでしょうか。少しでも楽しんでもらえたのなら嬉しいです。ですが異能はまだまだあります。これからも多くのアークが皆さんを驚かせ魅了することでしょう。改めて、ようこそアークアカデミアへ。今日はあなたに特別をお届けします」
アイドル部員がお辞儀をしてステージを下りていく。それと交代に壇上に現れたのは未来だ。華々しい登場をした彼女たちと打って変わり厳格な態度で喉を鳴らした。
「アイドル部のみなさん、素晴らしいショーをありがとうございました」
社交辞令だと一発で分かる固い口調から未来のあいさつは始まった。
「みなさん始めまして。私はアークアカデミア生徒会会長、天王寺未来です。今回、アークアカデミア初となる運動会を開催することとなりました。このイベントでは各々が持つ異能を駆使して競技を行うというものです。みなさんにはぜひ我々が持つ異能を見てもらえればと思います。つまらない前置きは以上としましょう。ではアーク大運動会のルールを説明します」
液晶が切り替わりルール説明の画面が表示される。
「このアーク運動会は個人競技となります。自身の体力と知恵、なによりこの学園で獲得したアーク。これらを使って競い合います。その競技は障害物競争。これ一つとなります。拍子抜けでしょうか? いいえ、ご覧ください。これが障害物競争のコースとなります」
「なんだこれは!?」
液晶に映される障害物競争のコース。それはここが始点となっておりそのコースは学園中に巡らされていた。まさにこの学園そのものが障害物コースなのだ。
「障害物はこの学園のいたるところに設置されています。それぞれの建物や施設を存分に活かして行われる、いわば異能のトライアスロン。この学園を舞台に行われるフルマラソンなのです。開始はここからとなり終点は校庭、その道中も液晶で表示されますのでここで観戦することも可能となっています。これを一日をかけて行います」
「一日かけて障害物競争!?」
「そんなの大変だよ~」
嫌な予感が的中した。
(くそ、まさかそんな手を打ってくるなんてッ)
こちらの予想を完全に超えてきた。まさか超長期戦で打ってくるとは。数多くの障害。それを出されれば異能の差がもろに出る。たとえ一つ二つ有利な障害で勝負できたとしてもその他多くの勝負で覆されてしまう。
(それでも他の四天王たちがいないのはどういうことだ? 他に理由があるのか?)
「では、これよりアーク大運動会を始めたいと思います」
天王寺が言うとトラック内にあるシートが取り払われる。
それは巨大なアスレチック、ジャングルジムや橋渡り、その他様々なものが合わさったものだ。
「では選手は開始地点まで移動をお願いします」
司会者からの指示に選手たちが移動していく。信也も移動しようとするが、そこでステージに立つ天王寺を見上げる。彼女も信也を見下ろしており目が合った。針のような視線が突き刺さる。
しばらく見つめ合い信也は開始地点に移動した。
開始地点は複数あり第二ドームだけでなく他の場所からでも行われる。それがコースの先で合流する形だ。信也はここ第二ドームの開始地点なので線が引かれた場所に立つ。それでも十数人の生徒が並び今か今かと開始の時を待っている。
「位置について、よーい」
司会者の掛け声に合わせみなが構える。
ある者は名誉のために。ある者は使命のために。ある者は反旗のために。
「始め!」
アーク大運動会は始まった。
*
アークアカデミアで開催されるアーク大運動会がはじまる少し前。屋台が並ぶ通路は観客でごった返している。本当にお祭りだ。
「すいません、リンゴ飴一つ」
その中には伊吹真理もおりとりあえず目についた屋台でリンゴ飴を買う。いつもの白衣姿ではなく白の服に淡い水色のタイトスカートだ。リンゴ飴をかじりながらパンフレットを眺め会場を確認、ふと周りを見渡してみる。
「ふーん」
第三の異能学園。どんな場所かと思っていたがこうして見てみる分には普通だ。金がかかっているのは分かるがそれ以上に特殊な技術やらなにやらが使われているといったのは見えない。それは第二も同じなのでこんなものかと納得する。
伊吹は会場の席に座る。野球ドームで実際に見たことがあるがそれと似ている。席から見下ろせば生徒数十人がトラックに整列している。あれが今回の参加者か。参加するくらいならよほど異能に自信があるのか。
興味がある、一研究者として。
そういえばと錬司のことを思い出す。ここには彼の友人もいるはずだ。いったい誰なのかは分からないが、せっかくなら彼も見にくればよかったのに。それが実はいたりするのだろうか。
そう思い観客席を見渡してみるがやはりいない。分かっていたことだ。そのままリンゴ飴をかじりつつ開始時刻を待つ。
その光景を錬司はさらに高所から見下ろしていた。
アークアカデミアにある天井の骨組み、そこから錬司はドームを監視している。服装は黒のロングコートにフードを目深に被っている。ここからならアークアカデミアの全容が見える。
アークアカデミアから依頼された警備の仕事。彼はその任に着いている。父の真相を知るために。葛藤が今でもないと言えば嘘になるがこれが錬司の出した答えだった。
眼下には大勢の人間と見知った顔がいる。リンゴ飴を片手に観戦に来ている姿は視察とは思えない。普通に遊んでいるだけのように見えるが直に見るだけでも得るものはあるかと納得した。
そしてもう一人。馴染みの顔はトラックで引きつった笑みで歓声に手を振っていた。そういう凡人めいた振る舞いは昔から変わっていない。呆れるが不思議と口元は緩む。そうしてアーク大運動会の開会式が始まり信也はスタートラインへと着いていった。
「さて、お手並み拝見だな」
友人の競技。それを心の隅で応援しつつ錬司は表情を引き締め目線を配る。
この大会に不審な者がいないか、鷹のような目で見渡す。
彼こそがこの場を任される、ジャッジメントなのだから。




