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異能第三学園初となるアーク大運動会

「あの人は、本当に優しい人だった。それに襲撃したところで実利なんてなにもない。無差別に人々を襲ってそれがなにになるか。お金が入るわけでもなくエフェクト開発に活かされたわけでもない。私も、今も考えてる。答えは出ないわ」


 真剣な表情で紡がれる答えには彼女の心情も綴られている。そこあるのはやるせ無さと無情さだ。彼女も見えない答えに思い悩んでいる。


「そうか」


 答えを知る者は誰もいない。少なくともここには。


 レンジはしばらく思案した後エフェクトを置いた。顔を上げる。その顔は覚悟を決めていた。


「出かけてくる」

「え、どこに?」


 問いには答えず錬司は部屋を出る。そのまま会社も後にして向かう先はアークアカデミア。迷いのない足取りは学園長室へと運び扉をノックする。


「どうぞ」


 女性の声がする。扉を開けるとそこには牧野と賢条がいる。賢条は机に両肘を立てて座りその傍らに牧野が立っている。


「来ると思っていたよ」


 錬司の入室を賢条はニコニコの笑顔で迎え入れた。


「では答えを聞こうか。決まったんだろう?」


 彼の笑顔は分かり切った未来を確認するようだ。その質問に錬司は答えていく。


「ああ」


 それは不本意で絶対にないと思っていた。自ら汚水を覗くようなことはしない。しかし今は違う。


 伊吹真理。彼女との出会いは錬司に知らない父の側面を教えてくれた。そこから生まれた父の謎、彼女ですら知らない動機を知りたくなった。


 なぜ、宗さんは人々を襲ったのか。


「警備の件、受けおう」


 彼の答えに賢条は満足気に頷いた。


 黒く汚れひどく臭う黒色の水面の奥底、そこになにがあるのか。


 獅子王錬司。エフェクトの生みの親宗作の息子の、新たな戦いが始まった。


 *


 ついにその日はやってきた。異能第三学園初となるアーク大運動会。園内は今までにない盛り上がりを見せており敷地内のあらゆる場所に屋台が所せましと並んでいる。学園内はすでに抽選倍率百二十倍を勝ち抜いた一般観客で賑わっている。これから始まるのは人類史上初となる異能を駆使した運動会。見たことも聞いたこともない、どんな運動会になるか誰も分からない未知の祭典だ。期待するなと言う方が無理な話。このイベントに興奮は渦を巻き園内を満たしていた。


「いよいよか」


 当日を迎え信也は鉛を飲み込んだような緊張を覚える。アカデミアの教室にかばんを置きふと周りを見渡してみると皆はアーク大運動会のことで持ちきりだ。どうなるのだろうと楽しそうに話している。この運動会は生徒会と反生徒会の戦い、全部長への生徒会強制参加をかけた戦いだ。しかし彼ら多くの者からすればあまり関係ないことでもある。このイベントに単純な興奮と期待を抱いている。


「信也! アーク大運動会出るんだろ? 頑張れよ!」

「信也君なら優勝目指せるよ」

「ありがとなみんな」


 クラスの皆からの無邪気な声援に応えつつ信也は改めて覚悟を決める。だがクラスメイトの陽気な雰囲気に場違いな気がして苦笑いしてしまった。


「信也くーん、おっはよーう!」


 そう思っていると当事者にも関わらず同じくらい場違いなテンションで入室する女の子がやってきた。ため息が出る。


「お前……」

「もーう、どうしたんだよ相棒! せっかくの運動会なんだから楽しまないと! そうでしょう!?」

「「うおー!」」


 振り返りクラスメイトたちを煽る。ノリのいいみんなが大声で返してくれた。だが信也にその無邪気さはない。


「それはそうだが」

「姫宮ちゃん運動会頑張ってね〜!」

「頑張るうううう!」

「はあ……」


 どうも緊張があるのは自分だけだ。


「それで? 確か開会式て第二ドームだよな? 完成したのか?」

「予定通りやるんだからそりゃそうなんじゃない?」

「それもそうか」


 今回のアーク大運動会は一般的な運動会とは違う。クラス対抗や赤組白組のような形式ではなく参加者は希望制で個人間の競争だ。種目も障害物競争の一つのみではあるがその分多くのものが用意されている。委員会が種目を決めているはずだがその内容は公開されていないため不安が募る。いったいどんな障害物が待ち受けているのか。


 そうこうしていると時間が過ぎていった。


「そろそろ時間だしいくか」

「よっしゃー! 頑張るぞー!」


 教室を出て第二ドームへと向かう。そこは運動のためのドームであり中央にはマラソン用のトラック、周囲を観客席が囲っている。ドームの生徒用入り口には警備員が立ち通路には柵が置かれ一般客が入れないよう厳戒態勢だ。そこは普通と比べ物々しいが今更気にすることでもない。アークアカデミアではたまに見かける光景だ。信也は中へと入っていき姫宮とは別れ更衣室で運動着に着替えていく。そのまま開会式場であるトラックへと出た。瞬間だ。


 観客席から轟く歓声の大音量。クラスメイトだけでなく他の生徒や一般客など大勢から声を掛けられる。声が重なり合って聞き取れないが自分を応援してくれていることは分かる。信也は優勝候補だ、ランクAアークという触れ込みは一般の人にも知れ渡り期待と好奇が集中している。信也は慣れない雰囲気に戸惑いながらも両手を上げて観客に答える。


「信也君すごい人気だね」

「プレッシャーだけどな。でも嬉しいよ」


 信也たちは列に並んだ。トラック内にいるのは参加者だけで他の生徒は観客席にいる。ここには信也たちを含め百名ほどが並んでいる。正面には台が置かれ天井、バックには野球ドームと同じような巨大な液晶がある。


「ん?」


 そこで知った顔を見つけた。


「真田」


 信也に呼ばれ振り返る。


 真田深優。生徒会の四天王。彼女も参加者としてここにいる。生徒会からの刺客というわけだ。


「おはよう」

「ん」


 不愛想な態度は相変わらずだ。ここで笑顔で挨拶されても困るが。


「さすがの人気ぶりだな。周りの反応でお前が来たのが分かる」

「ははは」


 恥ずかしい。そこで辺りを見渡すと信也はあることに気づいた。


「あんただけか?」

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