面白い根拠だ、説明を求めても?
「いやだな、そんなことしないってば。ぼく、学校の職員だよ? 子供にひどいことなんてしないってば~」
内心で舌打ちした。
遊ばれた。能力を無効化され少なからず動揺した。それを見られるなど屈辱だ。
ここは異能学園、生徒全員が異能を持つ。それを鎮圧するためには対異能はあって当たり前だった。
それを見せつけられたのだ。
錬司は賢条から牧野へと視線を変えた。
「はあ。獅子王錬司君。学園長の意図して誤解を与える発言は謝罪します。ですが、早とちりをしたのはあなたです。もう少しご自身の立場を自覚し自重してもらえませんか? 私たちは穏便かつ対等な会話を求めています」
「ふん」
錬司は視線を逸らす。狙いはどうであれ事を荒げるのは得策ではなさそうだ。
「ま、君の異常性にまったく興味がないと言えば嘘になるけどね。ただ今回はそれとは別だ」
「その本題とやらを早く教えてくれ」
「分かった」
賢条は机に両膝をつき両手に顎を乗せる。顔は笑っているが気を許せない雰囲気が漂う。
「アークアカデミアでは近々アーク大運動会なる催しを予定していてね。生徒たちによるアーク使用可能の楽しい楽しいイベントだ。だが万が一ということがある。君にはその警備について欲しいんだ。秘密裏にね」
「俺が?」
「そう、君が」
賢条は頷いた。
「君はアークホルダーとの戦闘経験が豊富だ。競技に熱中し過ぎた生徒がどんな行動に出るのか、学園長としては彼らの良識を信じたいがかといってまったく備えをしないわけにもいかないのでね。暴走した生徒、また不穏な動きがあった場合それに対処して欲しい」
「言っていることは分かる。だが解せんな。俺が真面目に働くと思うか? そんな役割に部外者である俺を採用する理由が分からん。それこそやつにやらせればいいだろう」
「やつ?」
「信也だ」
「あー」
それで賢条は納得したように声を出した。
審判者事件の内容はアークアカデミアは知っている。ならば自分と信也が知り合いなのも承知だ。形式上、信也は錬司に勝った実力者だ。自分のような部外者よりも身内に頼った方が安全だ。
「彼は参加者だ。このイベントでは生徒会の方針を決める戦いでもあってね、彼はそれで頑張っているんだよ」
「あいつが?」
「反対派の人たちからは期待されているようだよ?」
「ふ」
錬司は笑った。はじめて見せた笑顔だ。
神崎信也。なにかと優柔不断だったり落ち込んだりなよなよしている印象だったがどうも上手くやっているらしい。自分と戦った時にも見せたがなにかしら変化があったらしい。
友の成長、その知らせにふと笑った。
「我々でも警備は行うが人手が足りなくてね。異能戦を想定した戦いができる人材っていうのは貴重なんだ。そこで君の出番というわけさ。この催しの終わりまで警備を勤め上げる。それが確認できれば君は釈放。何事もなければそれでお終いのお仕事だ。どうだい、悪い条件とは思わないが?」
「なるほど」
これはただの警備ではない。いざとなれば相手はアークホルダー、異能戦だ。それができる者でなければ勤まらない。
賢条が自分を抜擢した理由は分かった。事情も不自然なものはない。仕事の内容も十分可能なものであり今まで何人もの高ランクの者を倒してきた錬司に不安はない。
「断る」
「なぜだい?」
だが答えはノー。それが錬司の出した答えだった。
「お前たちが信用できない」
「なるほど、ちなみに信用できない理由を聞いても?」
「俺を信用しているからだ」
錬司の答えに賢条は考え込むように間を置いた。
「面白い根拠だ、説明を求めても?」
「お前らは俺の素性を知っている。多くのアークホルダーを襲った犯人だ。そんなやつを雇えば再犯する可能性がありかえって被害が拡大しかねない。羊の守りを狼に任せるのか? 真っ当な判断ではないな、裏があるとしか思えない。それが理由だ」
「なるほど」
筋の通った賢条の説明に錬司も筋の通った答えを返す。
うまい話には裏がある。一見正しく見えても横から見れば形は変わる。錬司の警戒もまた尤もなものだ。
普通はこうはならない。賢条の説明だけで納得してしまう。
しかしこの男はそうならない。その先までも考える。
「やはり君は優秀だ、冷静で自分の状況と周りがよく見えている。君の分析能力は素晴らしいものだ」
「世辞はいい」
「どうしてぼくたちが君を信用しているか、そう言ったね」
すると賢条は牧野と目配りを行った。なにか重要なことを言おうとしている。錬司もそれをくみ取った。
なぜ錬司を雇い入れるのか。錬司は前科ありのアークホルダー狩り、裏切る可能性だってあるのに。
その理由を賢条は言う。
「正直なところを言おう。錬司君。君の父親、獅子王宋作とは知り合いなんだ」
「親父を知ってるのか?」
一歩前に出る。平静だった顔が焦りに崩れた。
獅子王宋作。その名前に錬司の胸中が大きく乱されていく。
「仕事仲間だ、かつての我々の組織の一員として働いていた。私の部下であり、技術面で大きく貢献してくれた。昔の話さ」
「ち」
こんな場所で父の名前を聞くとは思わなかった。聞きたくもない。
それは呪われた名だからだ。
「君は自分の父親のことをどれだけ知っている?」
「どれだけ知っている? 本気で聞いてるのか?」
自分はやつの息子だ、誰よりも正確に知っているに決まってる。
「あいつはな、俺たち家族を捨てて消えたただのクソヤローだ。何年も身を隠してようやく現れたと思ったらテロリストになって世界を襲い出したんだ。たった一人で世界に喧嘩を売って勝手に死んだ。気の狂った犯罪者だ」
「ま、だろうな」
当時の思いが静かな怒りとなって蘇ってくる。思い出したところで解決することはない永遠の火。だから思い出したくなかった。
獅子王宗作。それは今世紀最悪の名前だった。なぜなら彼はたった一人で世界に戦争を仕掛けた。比喩ではない、本当に大量破壊兵器を用いて人類に戦いを挑んだのだ。よって彼は大犯罪者、最悪の男として人類史に刻まれている。
錬司に父親の記憶はほとんどない。宋作は錬司と錬司の母を捨てた。彼は死んだと告げられた。そのせいで錬司の母は一人で家庭を支えなければならなくなった。
けれど、その母親も亡くなった。
父が再び現れたのはその後だ。母がなくなって今更現れて、悲しむくらいならもっと早くに戻ってくればよかったんだ。
そして彼は再び消えた。次に見かけた時、彼はテレビでテロリストとして紹介されていた。
多くの人を、世界を襲っていた。




