宍道琉衣。天王寺未来。どちらもランクA+アークの使い手
「彼女たちをこれらの競技に追い詰めることが出来れば勝機はあるわね。問題は残りの三人」
ここまでは順調に相手の弱点を突く案が出てきた。だがここからはそうはいかない。なぜなら残りの三人は全員がランクAのアークホルダー。
「未来予測を行う藤原時雨。空間転移を行う宍道琉衣。そして並行世界を行き来できる会長、天王寺未来。全員が次元に干渉、操作を行ってくる強敵ぞろい。強いて言うなら時雨は対処は比較的簡単そうなくらいね」
「三木島さん分かったんですね」
「さすがにね。全部を君に任せるつもりはないわ」
そう言うと三木島は信也にウインクする。現役トップクラスアイドルのウインクにたまらずドキリとしてしまう。
「かわいいいい!」
「なんでお前が叫ぶんだよ」
「時雨は未来を事前に知ることが出来る。よって不意打ちは効かないけれど身体能力は私たちと同じ。加えて五十メートル走は私よりも遅いわ。普通に運動競技に持ち込めば勝てるはずよ」
「未来が見えても自分の体には限界があるからな」
どれだけ未来が見えたところで自分の足が速くなるわけではない。単純に身体能力の高さがものをいう競技ならそのまま勝ててしまうだろう。
「反面クイズ大会のような形式は不利ね。事前に答えを知られるからさきに調べてくるでしょうし」
「それって問題じゃないですか?」
そこで部長の一人から声が挙がった。
「クイズの答えを事前に調べられるなら当然仲間にもその答えを教えておくでしょうし。それだと真田さんをクイズ大会で落とすことができないです」
「たしかにそうね」
新たな問題が発生だ。せっかくの真田対策であるクイズ大会も時雨によって対策されてしまう。対策の対策、まるでイタチごっこだ。
「それについては俺から提案させて欲しい」
それも信也には考えがある。
「よ、さすが信也君!」
「クイズの出題方法を工夫しましょう。あの人本人が言ってたことですが未来とは可能性の集合体。どの未来が来るか確実に分かるわけじゃない。それなら、たとえばですけど問題を百個用意しておいて、完全にランダムで出題するんです。それだと予測はできても実際に現実として訪れる未来がどれかは分からない。百個の答えを覚えておくのは大変だし、それを仲間たちに伝えて覚えてもらうなんてもっと困難です」
なるほど。周りからも納得した雰囲気が伝わってくる。
「確定した未来が視えるわけじゃない。それを逆手に取って未来を分散させる作戦ね」
「そうです! 俺が言いたかったのはそれ!」
これで時雨の攻略は決まった。とりあえず単純な身体能力で競い合う。クイズ大会におおいては大量の問題をランダムで出題することで事前の準備と記憶を困難なものとする。これでいくしかない。
「ま、公平性を保つためにどんな問題が用意されるかは委員会だけが知っていて参加者である私たちにも秘密なんだけどね。だから微不利ってとこかしら」
「それでもしないよりはした方がいいですからね」
「そうね」
ホワイトボードに記されたクイズ大会にカッコで補足が書かれる。
「それじゃあ次にいくけれど、問題はここからね」
「はい」
残りは二人。しかしその二人が問題だ。
「宍道琉衣。天王寺未来。どちらもランクA+アークの使い手。正直私ではどう対処すればいいのか浮かばないわ」
三木島が零す弱音に他の人たちも同意していく。こと汎用性においてランクA+は頭一つ飛び抜けている。次元の操作に加えて次元の移動も可能にする彼女たちの弱点を突くのは難しい。
「神崎君、同じランクAとしてどうかしら」
「正直、難しいです」
三木島からの切実な質問。それに答えられない苦しさに信也の表情も苦い。
「ランクA+。ディメンション・エスケープがある以上やれることの幅が広すぎる。弱点らしい弱点は浮かばないですね」
「そう」
これまで多くの有効案を出してきた信也ですらそう言うのだ、この二人を攻略することがどれだけ難しいかを物語っている。
「あの、いいかな?」
一人の部長が手を上げた。三木島からどうぞと催促される。
「ディメンション・エスケープがすごいっていうのは分かるんだけどさ、それってさっきの副会長の時と同じなんじゃないかな? 要は肉体の強さはそのままって話。たとえばだけど重量上げなんてどうなんだ? ランクAとはいえ肉体は普通の女子なんだし、ダンベルなんてそうは持てないだろ」
「ふぅん」
彼の意見も筋が通っている。時雨の時と同じように単純な身体能力を比べるものであれば問題ない。マラソンなどのスピードを競うものは駄目だが重量挙げなどの力比べならいけるのではないか、という意見だ。
「いや」
しかし信也が難色を示す。
「駄目だと思います」
「なんでだよ、空間転移と腕力は関係ないだろ?」
彼の言う通り空間転移と腕の力は関係ない。そのためこれは一見正しいように思える。でも違うのだ。
「おっしゃる通り腕の力とはなんの関係もありません。ただダンベルを持ち上げられるかどうかは別です。用はダンベルが上昇すればいいんですよね? 彼女は自身が触れたものも空間転移できるんです。おそらく、彼女はダンベルと一緒に上空に空間転移。それによってダンベルが空中に現れたことで持ち上げ成功となります。むしろ彼女に重量挙げは得意分野、重さは関係ないです」
それはまさしく盲点だろう。重量挙げはダンベルを腕で持ち上げるもの、そうした先入観が視野を狭める。だがアークという要因が加われば一気に瓦解する。腕の強さこそ関係なくなってしまうのだ。
「そんな。じゃあ腕相撲は?」
「腕相撲の勝敗ってさきに腕を地面につけた方の負けですよね? それなら一緒に空中に転移して相手を先に落下させればいい。自分は空間転移を繰り返せばいいだけですし」
「そんなの腕相撲じゃないよ~」
「普通ならな。だがこれはアーク込みの話だ、戦術も変わってくる」
「うー」
姫宮の反応も理解できる。普通ならこんなものはめちゃくちゃだ、腕相撲と呼べるものではない。
だがアーク大運動会というのはこういうものなのだ。それを認めなければ先に進めない。
「なら真田さん対策のクイズ大会は? 問題を解くのとスペース・ジャンプは関係ないように思うのだけれど」
「いえ、それも駄目なんです」
他の部長からも質問を受けるが答えは変わらない。対策にはならない。
「たぶん障害物競争にクイズコーナーが設けられ、到着した人から答えていく形式になると思うんですけど、クイズが難しければみなが答えられない場面は必ず出てくる。そういう時にランクA+を持った二人がする行動はあらかた予想がつく」
「というと?」
「ディメンション・エスケープによってその場から離脱するんですよ。それでスマホやインターネットが使える場所で答えを検索してから復帰する。これでどんな問題にも答えられる」
「そんなのずるじゃん!」
「いや、アーク使用可能と規約にある以上これを違反とするのは難しいと思う」
「そんな~」
「困ったわね」




