第一章 動き始める者たち
第一章 動き始める者たち
毎週月曜日、アークアカデミアで開かれる全体朝礼。全校生徒は校庭に並び一様に頭上を仰ぐ。文字通りこの学園の頂点に立つ一つの星を眺めるように。
そして星もまた地上に咲く花々を見下ろしていた。白の制服を着こなすアークアカデミアの極星。
天王寺未来。屋上の風にスカートの裾と黒の長髪を揺らしている。険しい表情からは威圧する眼差しが全校生徒に向けられていた。
「諸君!」
風すら吹き飛ばす、気合の声が響く。
「アークという異能、アークという特別に魅入られし我が同胞たちよ。異能という異常性をその身に宿し、この現実を謳歌していることだろう。だが! 中にはいるのではないか、
与えられた異能がすべてではないと思う者が」
彼女の威厳に満ちた顔。だがそれを見上げる者たちがすべて服従の意を示しているわけではない。反抗的な目つき、それを彼女は見逃さない。
「異能による特別など幻想であり、人の価値は異能で決まるものではないのだと。知っての通り、我々の異能にはその能力によってランクが付けられている。有能なものほどランクは上がり、役に立たないものは低くなる。当たり前だ。異能に限らず有能なものほど評価が上がるのは必然。よってアークアカデミアにおけるランク至上主義は正当なものである。だが、あまりにも異能による評価が一方的だと感じている者もいるだろう。現に、ここからでもその類の者がいくつか見受けられる」
ランク至上主義に虐げられている者からすれば彼女の演説に不満を持つのは当然だ。そんな彼らの視線を未来は冷たい表情で受け止める。
「不服だと思うか? 理不尽だと思うか? だがこれは必定だと断言しておこう。力がある者が上へと登り力なき者は底へと沈んでいく。異能の有無ではない、それが世界の理だからだ。とはいえ私がここでいくら語ったところで納得しないだろう。よって、お前たちに、すべての者たちに機会を与えよう。生徒会主導のもと学園と取り合い、ここに史上初となる催しを開催することとなった!」
未来の言葉に全校生徒がざわつく。いったいなんなのか、それを知っているのは一部の者たちを除きここは騒然となる。
アークアカデミア史上初。それは力を証明する祭典。
「その名も! アーク大運動会である!」
未来の大声がその名を宣言する。
「内容は様々な競技を行うアーク使用可能な個人戦である。参加は応募制によって行われる。誰でも参加可能であり必要なのは己の意志だけだ。日時は今週の金曜、場所はアークアカデミア第二スタジアム」
未来の言葉にさらにざわつきが大きくなった。アーク使用可能な個人戦。一般的な紅白合戦ではない。試されているのはあくまで参加者の持つ己の力。
「これは様々な競技の中でアークを行使することで異能に対する理解を深めるとともに非異常性の有効性を試す機会でもある。また先日出した全部長参加の是非を問う企画でもある。自らの力を、地位を、意志を、証明したい者は参加しろ。そこで証明するがいい。自分がなぜここにいるのか。自分が無力ではないことを。この場所で、お前が掴みとれぇえ!」
気迫の籠った大声が屋上から校庭に叫ばれる。自分の価値を自ら証明する機会。それは等しくみなに与えられた。あとは自分次第だ。
ランク至上主義に殉じるか。人の可能性を貫くか。
未来の演説に誰よりも強い瞳で見上げる彼は、その胸に静かに炎を灯していく。
神崎信也。反対派のリーダーとして敵の大将を睨み上げていた。
負けられない戦い、それが始まろうとしていた。
*
それから時間は過ぎて放課後、アイドル部の会議室には反対派の部長たち数人と信也、それと姫宮が集まっていた。会議用のテーブルに座りホワイトボードの前にアイドル部部長の三木島が立っている。今週末に控えたアーク大運動会、その競技内容を決める会議だ。ここで決まる項目が自分たちの勝利に大きく左右する。それもあってここの空気は緊迫していた。
「ねえねえ信也君、昨日のアイドル北極生活一週間見た? 極寒の中でも歌を熱唱してて感動しちゃったよ~」
「そうか、教えてくれてありがとう姫宮。続きは後で聞くから今は黙っててくれるか」
「うん!」
一人を除いて。
いつもうきうきな姫宮はともかくとしてここは緊迫した雰囲気に包まれている。
全員が集まり時間になったことで三木島が口を開いた。
「それでは今から会議を始めます。みなも知っての通り、今朝、全体朝礼にて生徒会会長からアーク大運動会の開催が正式に発表されたわ。学園側とも話はついているようだし思った通りね」
「いよいよ、って感じだな」
「絶対勝たなきゃだね!」
信也としてもアーク大運動会にかける思いは本物だ。信也のつぶやきに隣に座っている姫宮が答える。
それでふと信也は振り向いた。
「なあ姫宮」
「なに?」
「ここは部長たちによる会議なんだけどどうして姫宮はいるんだ? 俺はともかくとして姫宮は違うよな?」
「なんとなく」
「それでいいのか」
会議とはいえカジュアルな集まりなのだった。
「今回の議題は我々に有利な競技科目をみなで考えることよ。私たちに有利な項目を作ればそれだけ勝利しやすくなる。早速だけど誰か案はあるかしら」
三木島から案を集い何人かが答えていく。
「サッカーとかどうだ? 俺たちサッカー部だし得意だぜ?」
「それはサッカー部だから当然でしょ? 私たちはそうじゃないし。それに相手が四天王の真田だったらどうするの? 彼女のキック力、あれでボールが飛んできたらどこからでもゴールを狙われそうだけど」
「う」
「それならドッジボールはどうだ? 足の力はそんな関係ないだろ」
「いや、小田原のアークで身動きが封じられる、ドッジボールじゃいい的だ」
「あ」
「そもそもこれは個人戦よ、自分たちの強みを出したいのは分かるけど個人でも互角以上に競える内容じゃないと」
案は出るのだが即座に反論が出て廃案になってしまう。それからも案自体は出るのだが似たようなものだった。結果案は出尽くしみな頭を捻ってはいるがこれぞというアイディアは一滴も絞れてこない。
「うーん、どうしよう。このままじゃ決まらないよう」
姫宮も必死に考えてはいるのだが如何せん名案と呼べるものが出てこない。思いついても相手の方が上手いか対策を取られるものばかりだ。
「うーん、うーん」
なんとか案を出そうとしているが成果の出ない駆動音が響くばかりだ。
「あの」
そこで今まで話に入ってこなかった信也が口を開いた。
「思うんだけど俺たちに有利な競技って難しいんじゃないかな?」
信也の一言にみなの顔が一斉に訝しみ信也を見つめてくる。その反応は信也も分かる。
「ごめん。表現がひどくなって申し訳ないんだけど、ここにいる人たちはみながすごいアークを持っているわけじゃない。汎用性や用途が少ないからランクが低いのであって、それは有利を取りづらいと初めからある程度分かっているようなものなんだ」
なんとか取り繕おうと言葉や口調に気を使って話すがいい反応が返ってくるはずがない。
「そんなこと言ったって仕方がないだろ! 与えられたアークはどうしようもないんだし!」
「そうよ! それをどうにかしようという会議なんじゃない!」
「すまない、俺の言葉に気を悪くしたと思う。だが最後まで聞いて欲しい。俺が言いたいのは、俺たちが活躍できる競技を選ぶ、というよりも、相手の苦手な競技を選ぶ、という考え方に変えた方がいいんじゃないかってことだ」
「面白いわね、続けてちょうだい」
この場を仕切る三木島から認められ信也は続ける。
「まず俺たちが相手にしようとしている主なメンバーは五人。生徒会の四天王、そして会長だ。どれも強力な相手だが弱点がないわけじゃない。そこを突く競技なら俺たちにだって勝機はある」
彼ら彼女らには悪いがもともと異能で劣っているんだ、それを活かすという発想がすでに違っている。自分たちの有利から相手の不利へとの発想の転換だ。
「私たちの長所で戦うんじゃなくて、相手の短所を突こうということか」
「競技自体で対策を練ろうってことね」
「正攻法でぶつかっても勝機は薄いと思うんだ、どうだろう?」
信也からの提案。みなは顔を見合わせていく。初めは反抗的な態度だったが信也の説明を聞いてからは軟化していく。
「まあ、そういうことなら」
「そうね、私も賛成」
理解は得られた。信也はほっと力を抜く。
「へえ」
そこで姫宮がつぶやいた。
「なんだよ姫宮、意外そうな顔して」
「いや、信也君もちゃんと考えてきたんだなって。意外だなって」
「意外で悪かったなッ」
「それで神崎君、方針はそれでいいとして君から案はある? そこまで考えているのなら分析もしていると期待しているのだけれど」
「はい、一応」
信也は力強く頷いた。
ここまで思いついていてその先を考えていないということはない。信也なりに考えはついている。




