問題ない。この問題を解決する適任がいる
「まったく、厄介なものだ。子供には任せられないな」
「ええ、大人の仕事ですね。それで、どうしましょうか。現状ではこの催しは危険かと」
牧野の懸念。開催自体には賛成したがそれは彼に同意したに過ぎない。それは彼なら考えがあると踏んでいるからだ。
この男、賢条幹久が考えなし行動することなどあり得ない。彼が許可を出したならそこには必ず理由がある。
「問題ない。この問題を解決する適任がいる」
「適任ですか?」
言われても牧野にはピンと来ていない。この場の適任とは誰のことだろうか。
「いるじゃないか、アークホルダーの扱いに長けていて武装を必要としない者が」
彼女の疑問に賢条はうっすらと笑う。それは普段浮かべている満面の笑みではない、どこか悪だくみを思わせる怪しい笑みだ。
「まさか」
その言葉と表情でようやく察する。彼の言う適任が。
だが、それはあまりにも危険だ。
「獅子王錬司、彼を釈放するつもりですか?」
獅子王錬司。その言葉は闇に葬られた呪われた名だ。
審判者事件。高ランクを狙った無差別襲撃。それを成したのはまさかのランクFの少年だった。それはランク至上主義に対するテロ行為であり多くのアークホルダーを恐怖に陥れた。
その彼も信也との戦いに破れ今はダウンフォール刑務所に収監されている。
その彼を運動会の警備として使おうというのだ。
「彼を穴倉で遊ばせておくのは、もったいない」
賢条の目が細められる。彼は危険だがそれ以上に特別だ。誰よりも普通ではない。彼ほどの逸材を地下で遊ばせておくのは機会の喪失だ。
それで賢条は言うのだが、そこで力の抜けた顔を見せた。
「それに、会ってみたいじゃないか。どんな子なのかさ」
「そう、ですね」
やや躊躇いを見せ牧野が目線を遠くへ向ける。
獅子王錬司。その彼のことを思う。だが二人の表情は危険人物を思う顔ではない。もっと別の感情がある。その名前に思い入れがあるのか彼女までもが複雑な表情をしていた。
「幸い彼の罪状は軽犯罪扱いだ、釈放についてはいろいろ都合がつく」
「分かりました。では彼を」
「頼むよ」
牧野は賢条に一礼をして部屋から出ていく。
彼女の退室を見送った後賢条は席を立った。そして部屋にある窓に近づきほとんど日が沈み夜へと変わった光景を見つめる。
その先に見ているのはなんなのか。賢条は遠くを見つめ続ける。それはかつての出来事を思い返しているようだ。
脳裏に浮かぶその人物につい言葉が漏れる。
「彼がランクに反抗するとは、血は逆らえないか、宗作」
感慨深く、その声は暗がりの部屋に広がっていった。




