まさか
「むしろ学生自ら行おうとするのは教育者として喜ばしいことかと。自ら考え行動する。社会で必要なことです」
「そうだね~、嬉しいね~」
「はい」
本気か? というか、大丈夫なのかこの学園は。嬉しいが同時に不安になってくる。経営難で潰れたりしないだろうか。いや、早々これだけの施設が潰れるということはないだろうが。とはいえ退任させられることは十分にあり得る。
「天王寺さん、まずは計画書の作成と提出を。それをこちらでも検討し必要があれば修正案を出します」
「分かりました」
「とはいえユニークな内容だね、今から楽しみだよ。僕が学生だった頃はまだ組体操が当たり前に行われていてね、僕は体が小さかったからピラミッドの上で緊張したものだよ。危険なのは分かっていたけれど、でもそれをみなと完成させたときの達成感と喜びは大きかったね。今は数が減っていて理解はしているが少し寂しいよ」
「私は騎馬戦が好きでしたね」
「君が戦ったのかい? 可哀そうに。対戦相手は災難だな」
「はい、私が全員取りましたから」
すごい。見かけによらず武闘派だったようだ。
「まあ、こういったように運動会というのは個人差はあれ学生の思い出になる。それを経験出来ないというのは悲しいからね」
「はい、必ず成功できるよう最善を尽くします」
「その件は分かったよ。適度に休みながら頑張ってね」
「善処します」
「それはする気がない返事だね~?」
「いえ、そんなことはありませんよ」
いたずらっぽい言い方につい天王寺の口角も緩む。
「ははは。まあ、君のペースでやればいいよ。報告は以上かな?」
「はい。失礼します」
天王寺は小さく頭を下げ学園長室を後にする。
時雨の言う通り提案はスムーズに通りこれで大運動会は開催される。最初は多少の不安もあったが本当に呆気ないほど簡単に通ってしまった。学園側の思惑をあれこれ考えていたが考え過ぎだったようだ。
とはいえ順調なのはいいことだ。あとはこのイベントに勝ち全部長を生徒会傘下に入れさせる。
失敗は許されない。これからさき一つの油断も見落としもあってはならない。天王寺は今後の計画と綻びがないか考えながら廊下を歩いていく。
「?」
その足が止まった。同時に振り返る。学園長室の扉を凝視する。
(ユニークな内容……?)
賢条が発した一言。流してしまったが思えば不自然な内容だ。
(なぜ、競技内容を知っている?)
それはこれから決めることだ、決まってすらいない。それを知るなど誰にも出来ないはずだ。分かる者とすれば時雨くらいのはず。その彼女ですら競技内容までは視えていない。
やはり油断ならない。
この人は、昔から不可解だ。
天王寺は正面を向き歩みを再開させる。彼らがなにを狙っているのかは分からない。だが今はその上で踊るしかない。それよりも成すべきことがある。
天王寺は表情を引き締めこの場所を後にするのだった。
その頃、天王寺が去った学園長室では賢条と牧野が残っている。出て行った扉を見つめ彼女のことを思う。
「切羽詰まっていますね、今度は運動会ですか」
「そりゃあ、あんな目に遭えばね。頑張っているとは思うが」
そこにはさきほどまでの柔らかな雰囲気はなく夕日の光が作る大きな影が伸びていた。
「全部長の強制参加。ずいぶん強引な手を使うとは僕も思うが時期もある、焦りたくもなるだろう。そして決定権を巡るための運動会。それで反対派を黙らせいよいよ体制を整えるわけだ。それでようやく始められる」
「そうですね」
賢条からは笑顔が消えている。真顔で語り牧野も気の引き締まった表情だ。
「あれから一年、敗北から始まった彼女に後はありません。どんな手を使ってでも勝ちにいくしかない。独裁や暴君の汚名を着ようとも目的に向かって突き進む彼女の気概は目を見張るものがあります」
「痛ましくも見えるが、まったくだね」
天王寺が行うランク至上主義、全部長の強制参加。それもある目的のため。
「しかしよろしかったのですか? アーク使用可能な運動会など。予算面はともかくとしてアーク使用可能となれば一部の生徒が暴走しかねません。そうでなくとも危険を伴いまず。こちらでも警備部隊を配置はしますが公に銃を携帯した兵を置くわけにもいかず、必然軽装となるでしょう。さらにこれだけの催しとなれば保護者は当然として様々な人が入場してきます。そうなれば諜報員や工作員の学内侵入を許す恐れが」
「だろうな」
異能学園が開く運動会だ、当然誰だって見たがる。近隣住民はもとより遠出してまで見に来る観客は多いはず。しかし中には純粋な見学目的ではない不届き者もいるはずだ。
「アークアカデミア、その技術を狙っているところはいくらでもいる。同じくらいこの学園の失墜が利益になる連中もね」
「はい。異能を子供に与えるという性質上、その危険性や倫理上の問題から反対する団体は当初から存在していました。それは国内だけでなく国外でも同様です。人権団体はもちろん、軍事的な立場からも指摘の声は後を絶ちません」
「外の国から見れば子供を使って超人兵士を作っているのと見分けがつかないからね、無理もない」
子供に異能を与え指導する。それは異能についての理解と普及を促すためというのが理由だ。
だがそれを建前としか思わない人もいる。人体実験、軍事利用、批判しようと思えばいくらでも挙げられる。
そうした連中がこの機に動き出す可能性がある。
「不祥事はあってはならない。もちろん見学範囲は限定、入場の際には身分証明を徹底するように。とはいえねずみの一つや二つは入るだろう」
「承知しています。特に最近アカデミア周囲では不審な動きがありますので」
「フォースアカデミアは?」
「まだ動きは。ですが動くならそろそろでしょう」
「試算では今回が最後なんだろう? 気合が入るだろうな」
「動きでいえばエフェクトアカデミが怪しいですね」
「第二が?」
賢条の目が牧野を見る。
「エフェクトアカデミアの運営会社レオンカンパニーの役員人事に動きが。そこに入った新役員ですがどうにも裏がありそうです。もともとエフェクトの制御は不完全ですので、その鍵を求めて矛先がアークに向かいかねません」
「ふむ」
賢条は顎に手を当てしばし思案顔になる。
「アークとエフェクトの親和性、それに彼らが気づいているとも思えんが。彼がアークを所有していたのは極秘扱いだ。もしかした彼の研究成果が流出した可能性もあるがそれも考えづらい。とはいえエフェクトも研究開発が行き詰っているのも事実。痺れを切らして強行してくるやもしれん、か」
賢条は軽く溜息を吐き頬杖をついた。




