ご明察です
大運動会の開催、決めたはいいが言わずに行うのはさすがにまずい。時雨の観測では通る見込みだがやっておかなければならないことに変わりはない。
「私も付き添いましょうか?」
「いい、一人で事足りることだ」
「承知しました。では、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
天王寺の外出を見送り琉衣が恭しく頭を下げる。ここには三人が残された。
天王寺が出て行ったのを確認し奏音がゲーム画面から顔を上げる。
「そういうことなら大丈夫だとは思うんだけどさ」
そう前置きをして奏音が話し出す。
「やっぱり腑に落ちないわね。こんな行事を簡単に認めるなんてことある? 経費の出所は? 予算だって決まってるはずだし、国立なんだから運営は税金だよね? 副会長、もしかしてまた外すんじゃないの? あの子のアーク私聞いてなかったんだけど?」
「うーん」
大運動会の開催。生徒たちがいくらやろうと前向きになってもその決定権を持つのは学園だ。その学園長らが首を縦に振らねば実現しない。だが現実的に考えてそれはかなり難しい。お金やスケジュール、思い付きでやれるものではない。
「奏音、いじわるな言い方は慎んでください。あなたも知っているはずでしょう、未来観測は絶対ではありません。未来とは可能性の集合体であって決まったものではなく、また遠い未来ほど精度は落ちる。こういう時もあります」
「今まではなかったのにね」
「それなんだけどね」
奏音の疑念、それには時雨も思うところがある。
彼女が先述したが姫宮のアークは予想と違ったしこんなことは初めてだ。絶対的だった未来観測が外れることもあると分かれば全幅の信頼は置けない。それはよろしくないことだ。
「未来観測の性質は今琉衣が言ってくれた通り。加えていうと、未来というのはサイコロのようなものなのよ」
「サイコロ?」
予言者ならともかく一般人にはピンとこない表現だ、奏音もクエスチョンマークを顔に出す。
「たとえば一つのサイコロを振るとするでしょ? その時の未来は一のマス目から六のマス目までの六つのパターンがある。未来が六つあるわけね。そしてまたサイコロを振るとさらに六つのパターンが生まれるから三六の未来が生まれるわけ。だから遠い未来になるほど選択肢が増えて観測するのが大変になる。そこに運だけでなく人の意図的な行動によっても左右されるから確率に偏りが出てくる。このたとえだと一を出そうとするから単純な六分の一にならないとか」
「うげ、頭痛くなってきた」
「副会長、すごいですね」
サイコロだから三六の確率だが実際はもっと多い。多くの人と自然現象、そんなランダムとカオスが生み出す事象が未来なのだ。それを視るというのはとても大変な作業だ。
「慣れよ慣れ。未来っていうのはそれくらい複雑怪奇なわけだけど、絶対に言えることがあるわ」
「絶対ですか?」
極めて完成度の高い混沌。その中にあって絶対と呼べるものが存在するかどうかすら疑わしい。
けれど時雨はこれだけは言えると断言する。
「ゼロのマス目が出る未来は存在しない」
それこそが未来における絶対だ。
「サイコロのマス目は一から六。だからどれだけ振ってもゼロは出ない。そんな未来は存在しない」
「ある日いきなり人が口から炎を出したりしないとお話していましたね。それと同じでしょうか」
「そう。未来というのは現実からの派生に過ぎない。よって今に要因や原因が存在しないものは未来においても起こりえないのよ」
なるほどと奏音と琉衣は得心する。今に原因がないなら未来においても起こらない。種のない地面から芽が出ないのと同じだ。
が、だからこそここで矛盾が生まれる。
「あの時、間違いなく姫宮詩音さんがあれだけの光を出す可能性は存在しなかった。彼女のアークはランクF。出来ることは限られてる。彼女は確率ゼロを起こした。でもそんなことはあり得ない」
確率ゼロの発生。サイコロを振ったらなぜか百が出て人生ゲームをごぼう抜き。そんな奇跡をあの時姫宮は起こしていたのだ。
「琉衣、彼女だけど、目を離さないよう伝えておいてくれる? 気になるわ」
「分かりました」
琉衣は空間転移で姿を消した。早速伝令に走ったようだ。
「なかなかにきな臭いわね。未来を変えた新入生に意図の読めない学園。ま、私はゲームが出来ればそれでいいけど」
「変わらない日常ね、私もそれが続けばいいと願っているわ。でも」
ティーポットからおかわりを注ぎ口を付ける。喉を通る熱さと香りに体を落ち着ける。それでも彼女の陰りが晴れることはない。
「未来が視えても、分からないことが多すぎるわ」
時雨は深い息を吐き出した。




