エピローグ
エピローグ
信也と姫宮が生徒会室から出ていく。それを時雨は小さく手を振って送り出していた。
「はい、さようならね」
「一人場違いなやつがいたわね」
「彼女はなんというか、不思議な感じがしますね」
「ふん」
天王寺が席に着く。目をつぶり厳しい表情で座っている。そこへ琉衣が近づき空いたカップに紅茶を注いでいく。天王寺をそれを一口飲み一息つく。
琉衣は他のメンバーにも紅茶を注いでいくがそれで一人足りないことに気づく。
「深優は、まだ来ていないんですか?」
「来ないでしょ~、あんなことがあったばかりだし来づらいと思うわよ」
「そうですか」
謹慎中となっている仲間を思う。本当ならば誰よりもこの場にいるべきなのは彼女なのに。琉衣の表情がわずかに曇る。
それを除けば生徒会室はいつも通りだ。台風のような勢いも今は去り落ち着きを取り戻す。緊張感もなくなり時雨や奏音は肩の力を抜いていた。
「それにしても驚いたわよ会長、大運動会ですって? はっ、よくもまあ考えつくものね」
「会長、私からもお尋ねしたいのですが大丈夫なのでしょうか、急にそのようなことを決めてしまって。学園長や教師たちの了承も得ていないのでしょう?」
奏音と琉衣が不安を零す。彼女らも急に聞かされたのだから仕方がない。
「それについてなんだけどね」
時雨がティーカップを受け皿に置く。未来が視える彼女にとって不安や悩みというのは無縁なものだ。のはずだが、その表情は納得していないように困惑を浮かべている。
「会長が開催の申し出を出れば高確率で通るわ。驚くぐらいあっさりとね」
「そうですか、それならいいのですが。とはいえ意外ですね、そこまで私たちの好きにしていただけるなんて。嬉しい誤算と言いますか、理解のある学園長で喜ばしいことです」
それは生徒会にとって朗報だ。琉衣は素直に喜んでいるが反対に時雨の表情は暗い。
「アークを持った生徒たちの自主的な学園生活の尊重。それを掲げているのは分かるけれど、放任主義も行き過ぎな気がしなくもないわね。むしろ職務怠慢、なんて言ってはいけないけれど」
「ほんとに我々生徒による学園生活を支持しているのですね」
「うーん」
「副会長?」
琉衣はそう思っているようだが時雨は違う。ことはそう単純なものではなく生徒会の参謀役はことの裏を探っている。
「異能開発や研究を併せ持つアークアカデミアは言わずもがな国立の学園、かつ最新鋭の研究施設。あらゆる業界に影響力を持つ産業革命よ。そんなところで不祥事が起こったら世間からの批判に晒される。若い人たちに異能を授けることで社会構造や意識の変革を目的に設立されたわけだけど、そこで問題が起きればそれも丸つぶれ。いいとこなしよ。そもそも子供に異能を与える学園、というだけで当初少なくない批判があったのだし」
「モットーである生徒たちによる自主的な学園生活の尊重、それと体面の維持は相性が悪い、と?」
「そんなの学園長ならご存知のはず。そもそもこんな国を上げての一大事業、それを子供に任せるなんてあり得ない。学園長だってなにか考えがあるはず」
「裏がある、副会長はそう思っているのですか?」
「ちょっとちょっと、怖い話止めてよね~」
顎に手を添える。紅茶の水面に浮かぶ彼女の顔は眉間に皺が寄っている。奏音は相も変わらずゲームに勤しんでいるが聞こえてくる会話のせいで集中出来ていない。
「学園長、賢条幹久、でしたか。いつも笑っていて物腰の柔らかい方で私はいい印象を持っていたのですが、そう言われるとひっかりますね」
「人の印象なんていくらでも作り出せるものよ。そういう意味ではあの人は分かり易いわね、分かり易すぎるくらいよ。私ですらあの人には安堵感を覚えてしまうし」
「考えすぎでしょ? こんな場所だから相手に緊張を与えないように笑ってるのよ。気遣いよ気遣い、大人なんだから。深読みしすぎて善意を疑うなんて悲しいわよー?」
「それはそうなんだけどね」
参謀の悲しい性というか、人間性を信じるのではなく疑ってかかるのは仕方がないこととはいえ残念なことだ。時雨もそう言われては反論できずやれやれと紅茶に口をつける。
「いや」
そこで天王寺が口を開く。それに時雨は紅茶を飲んでいた顔を彼女に向けた。
天王寺は険しい顔を緩めることなくつぶやく。
「学園長、賢条幹久には気を許すな」
「理由は?」
断言するならそれなりの理由があるはずだ。それがなんなのか、時雨は聞き天王寺が答える。
「私がここにいる、それが理由だ」
「なるほど」
「説得力マシマシね」
それにみなは納得し天王寺は紅茶を飲み干す。次に立ち上がる。
「では行ってくる」
「申し出に?」
「ああ」




