偉大なるアイドルを。その誕生を
「どうしましょうか」
振り返る。部長たちもこの提案には面食らっており意見も様々だ。
「ランクで有利不利があるなら結果は見えてるようなものだろ? やめた方がいいって」
「でも数なら私たちが上よ。それなら有利は取れてる」
中には反対意見もあるが三木島は違うようでこの提出には乗り気のようだ。
「考えてみて、これ以上に勝算があって生徒会が納得する勝負がある? どの道彼女たちはアークの使用可能な勝負しか受けないわ。それに、たぶんだけど」
言葉を切るとその目が時雨に向けられる。
「この人が納得してるってことは、もう決まってるんじゃないかしら」
未来観測。未来が見える彼女ならこの提出が通るかどうかも知っているはず。それを思えばさきほど天王寺としていた会話も理解できてくる。
不機嫌な顔をしていた時雨だが目だけを動かし三木島を見る。
「ふん、さっきは私のことからかってたくせに信じるの?」
「たまたまなんでしょ?」
「もう」
そうは言うも若干表情を緩め時雨はまたしてもそっぽを向いてしまう。
大運動会の開催。それをどうするかという話だが反対意見はこれ以上出てこずどうやらまとまったようだ。
「それなら条件がある。運営委員会に俺たちから選出した人を加え人数が半々になるようにする。それならフェアだろ? それかフェアな勝負は出来ないって?」
「囀るな、言われなくてもそのつもりだ」
信也はみなの顔を確認する。反対はない。
決まりだ。大運動会、それによって全部長強制参加の是非を決める。
そうと決まれば早速会議だ。どんな種目なら自分たちが有利か、または不利か、それを協議しなくてはならない。
「正式な発表は明日行う。その放課後に大会委員会による協議に入る。それまでに人数を五人用意しておくんだな」
「そういうことよ、他に話はあるかしら?」
天王寺は席へと戻っていき時雨が後を引き継ぐ。とはいえ話は終わりだ、ここで言うことはなにもない。
「ちょっと待ってよ」
が、姫宮が天王寺を呼び止める。足を止め彼女の目が姫宮を見る。
鋭い視線と真剣な眼差し。二人がまたしても緊迫した空気を作り出していく。
しばしの沈黙が続く。
「ラーメンは食べれるの?」
「検討しておこう」
「やったー!」
「どんんだけ食べたいんだお前は」
大喜びする姫宮は放っておいてみなは生徒会室から出ていく。
「ほら、お前も出ていくぞ」
「お邪魔しましたー」
そうして信也たちは出て行った。廊下で争っているみんなに事情を説明し一緒に帰っていく。
信也の抗議はこれで終わりだ。みんなの反抗はここから始まった。今日は記念すべき日だ。みんなと団結して頑張った。その事実は信也の胸に確固たる自信を与えてくれていた。
昨日と今日。まるで違う一日。信也は帰路を歩くがその顔は明るい。日没間近の町に彼の笑顔が映える。
「信也君ご機嫌じゃん」
「え」
隣を歩く姫宮から声を掛けられる。彼女だけでなく信也の上機嫌は誰が見ても分かるくらいバレバレだ。
「朝とは大違いだからさ」
「そりゃそうだろ」
恥ずかしい。とはいえ事実なので否定もできない。
「みんな感謝してたもんね。三木島さんも喜んでたよ」
「感謝したいのは俺の方なんだけどな。みんながいないと出来なかったし三木島さんには突入の時助かったしさ。ほかのみんなもほんとすごかったよ。でも俺のおかげだと言ってくれるのは嬉しいかな」
一人で達成できたことじゃない。みんなの力だ。みんなが信頼してくれて自分もみんなを信じた。それで掴み取った結果を信也は誇りに思っている。
「今回のことで俺思ったよ。俺の周りにはこんなにも頼りになる人たちがいるんだなって。もっと周りを頼っていい、仲間を信じていい。俺は特別じゃない。一人じゃ出来ないことだってある。だからって一人で頑張る必要なんてないんだ。一人で駄目ならみんなで進んでいけばいい。それを知ることができて、それが許されるんだって知って成長できた気がするんだ」
人間一人でできることなんて限られている。アークアカデミアという特別を求め特別が集う場所であったとしても人であることには変わりない。
人は助け合うことができる。共通の目的のために結束することが出来る。
それは特別にも負けない人の力だ。
「ま、これからまだまだやることはあるし考えていかないといけないんだけどさ」
「うんうん」
信也の言葉を姫宮は嬉しそうに聞いている。ニコニコした顔で足取り軽く、信也の成長を誰よりも喜んでいるのは彼女だ。
「でもさ、なによりもすごいと思ったことがあるんだ」
「なにが?」
姫宮は信也を見上げる。いったいなんだろうかとつぶらな瞳が信也を見る。
その瞳をしっかりと見据え、信也は小さく笑った。
「姫宮だよ」
「え」
そう、今回のことで誰が一番すごかったか。誰にも真似できないようなことを成し遂げたか。それは彼女だ。
「私? なんで?」
「分からないのか? 普通にすごいと思うけど」
信也からすれば自明の理と言ってもいいくらい当たり前なのだが姫宮は驚いている。そんな彼女だから出来たのかもしれない。
「俺が落ち込んでる時さ、何度も励ましてくれただろ。俺はそのたびに逃げ出したっていうのにさ。諦めて、塞ぎこんで、周りから距離を置いていた。だけど姫宮は諦めなかった。何度も俺にぶつかってくれただろ? 俺を信じて、そして自分を信じてたからだ。自分には出来るって。普通できないって! そんなこと!」
それがどれだけ困難なことか、信也には痛いほど分かる。
たとえそれが正しい行いだとしても、それを諦めず続けることができる人がどれだけいる? 信也もランク至上主義は間違っていると信じて行動してきたから分かる。たとえ正しいと信じていてもそれを拒絶されたり賛同がなければ続けることは苦しいことを。
なのに、彼女は続けた。
「特別な力なんて関係ない。そんなんじゃない。姫宮詩音という人の強さなんだ。それを見せつけられたよ」
異能と比べそれは地味な行動だったかもしれない。だけどそれがどれだけ困難か、分かる人には分かる。
姫宮は誰にも出来ないことをした。異能に頼らず。自分の力で頑張ったんだ。
「姫宮って本当にすごいんだなって」
本当に。心の底からそう思う。
「あ、あははは。そんな力説されたらさすがに恥ずかしいよ……。でも、ありがとうね。私も頑張ってよかったよ」
姫宮は照れ臭そうに笑っている。その控え目な笑顔に信也も微笑んだ。
彼女が起こした偉業は多くの人には分からないかもしれない。けれど信也は知っている。だから思える。
「俺さ、姫宮がアイドルになるの応援してた。同じ夢を追いかける者同士だったから。友達だから。だから応援してた。だけど今回のことで思い知ったんだ、俺が応援しているアイドルはこんなにもすごいんだって」
彼女のしたことは偉業だ。すごいことだ。自信を持って言える。
尊敬すら出来る。
姫宮詩音は、すごい人なんだと。
「俺、姫宮なら推せるよ。これから先も、誰よりも、姫宮が俺の一番だ」
友達だから応援してた。でもそれだけじゃない、そんな贔屓なしで彼女なら推せる。
後にも先にも信也が推すアイドルはただ一人。
姫宮詩音という、すごい女の子なんだって。
「ほんとに!?」
「ああ、ほんとだ」
「マジのマジ!?」
「ああ、マジのマジだ」
「いええええい!」
姫宮は駆け出していきくるくると回っている。めちゃくちゃ嬉しそうだ。
こうして見ていると陽気な女友達くらいにしか見えない。だけどその内に秘める強い芯は誰にも負けない。そんな彼女ならきっとなれるはずだ。誰もが認める一番に。そうなるために自分だって応援していく。彼女ならきっと、絶対、なれるから。
薄闇の町で上機嫌に踊る少女。まだ下積み中の女の子を信也は笑って見つめていた。
信也は目撃していた。
偉大なるアイドルを。その誕生を。




