よう、待たせたな
信也の入室。ソファに座っていた時雨は困惑した顔を隠しもせず、反対に会長用の椅子に座っている天王寺は険しい表情で信也を迎えていた。
「よう、待たせたな」
信也はパラレル・フュージョンを解く。制服姿に戻りその手には課題の束が握られている。
信也の入室後、瑠衣が慌てた様子で入ってきた。
「すみません、通しましたッ」
「ええ、見えてるわ」
これは瑠衣と奏音の失態だ。だが時雨はそれを指摘することなく、それどころではない様子でこめかみに指を当て思案している。
「言われた課題だ、これで文句ないだろ?」
信也は束を時雨の前にあるテーブルに放り投げる。テーブルにはティーカップが置かれておりすでに冷めているようで湯気は立っていない。
時雨は課題の束を一瞥してから立ち上がる。
「そう」
未来が見える女。その彼女がなにを言うかと思えばそれは認めたくない現実を見せつけられたような、戸惑いと確信を併せた複雑な声だった。
「うーん、正直、驚いているわ。君がここに来るなんて。こんなはずじゃなかったんだけど」
「あの量だからな」
「それもあるんだけど」
課題のことではないらしい。信也がここにいる理由、その要因。それはもっと別で根本的なものだ。
「私が見た未来だと姫宮ちゃん、あの子にあれだけの光は出せないはずなんだけど」
姫宮のアーク、シャイニングアイドルフィンガーはランクF。役に立たないと判断されたアークだ。それが影をかき消すほどの光量を発揮したというのはおかしい。
「あんたがどんな未来を見たか知らないが未来ていうのは可能性の集合体なんだろ? なら姫宮が活躍する未来を見落としたんだろ」
「あのね、いくら可能性の集合体といっても限度はあるわ。ある日突然人が口から火を吐くなんてことある? あくまで可能性というのは現実をもとに起こりうることしか起こらない。だから彼女があの子のアークを無力化できるはずがないし君がここにくる未来も存在しなかった。けど、君は来た」
不思議といえば不思議だ。姫宮の大活躍でここまで来れた訳だがその実曖昧な点が多い。
「あいつが未来を変えるほど頑張ったんだろ、当てが外れて残念だったな。あんたのアークも所詮は良く当たる占い程度だ、投資はおすすめしないね」
「むう〜!」
信也の煽りに彼女らしからず頬を膨らませている。
「課題は提出した。だが俺の用事はこれだけじゃない」
「信也君!」
扉が開けられる。振り返ると入ってきたのは奏音を抱えた姫宮と三木島、その他部長たちだった。扉の外は他の部員と生徒会たちで揉み合っている。姫宮たちはなんとか中に入り扉を閉めた。
「よかった、とりあえず辿り着けてたんだね」
「ああ、みんなのおかげでな」
ここまで来れたのは姫宮や部長たち、今も外で頑張ってくれている部員たちのおかげだ。信也はみんなと顔を合わせ頷き合う。
「ねえ、もう止めても意味ないんだし放してくれない?」
「えー、私はもっとこうしてたいんだけど」
「本気で怒るわよあんた」
姫宮は捕まえていた奏音を渋々放す。ずっと拘束されていた奏音は幼児に振り回されたぬいぐるみのように憔悴している。肩を回しつつソファに向かっていった。
「まったく、プライドがボロボロよ」
「それで、話はどこまで進んだのかしら」
「今から言うところですよ」
三木島が生徒会に尋ねる。まだ課題を提出したところで本題はこれからだ。
「聞こうか」
初めて天王寺が口を開いた。それで信也たちの目が彼女に集中する。
天王寺未来。相変わらず彼女の表情は厳しい。変わることのない鉄仮面。視線は針のように鋭い。
それでも信也は止めない。自分の思い、そして仲間から託された願いのためにも。
正面を彼女に向ける。
「全部長への生徒会強制参加、それをすぐにやめさせろ。彼らだって参加するかどうかは自分の意思で決めることだ。お前らが勝手に決めることじゃない!」
声に熱を込めて天王寺にぶつけるように言ってやった。
「断ると言ったら?」
「力づくでもやめさせる」
「あら、それじゃ私たちと同じじゃない?」
「エセ予言者は引っ込んでくれ」
「なんですってッ?」
聞き捨てならない言いように時雨がまたも怒りを露わにしている。
「え、時雨あなた、もしかして外したの?」
「うるさい」




