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こじらせぼっちはハーレムエンドを目指さない  作者: 猫派
二章 このハーレムは重すぎる
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三節 歌は男女の仲を和らぐ



「で、カラオケ、ね……」


「なんだかなぁ……なんかめっちゃウキウキしてるし、あの子が来たかっただけみたい」


「どうする? ここで待ってるの?」


「……いや、密室は一番危ない状況だよ。先に受付を済ませて中に入ろう」


「……どうやって?」


「受付は5階だよ。急いで。エレベーターより早く着く必要がある」


「えぇ……ま、待ってよ、階段で上るの?!」


「良い運動だよ!」




 私たちは息を切らせながらも何とか上りきり、受付を済ませた。いざという時の決断力と瞬発力は忠犬として主人を守るために必須の資質だ。


 受付の際に目標と急接近したが、相方がうまく視線を遮ってくれたおかげで、なんとかばれずに済んだ。やはり、持つべきものは優秀な助手である。目標の部屋番号を聞き、急いで通話中のスマホを仕掛ける。




「いよいよ犯罪じゃないこれ……」


「今さら何を……昔、留守中に部屋に上がり込んでた事、私まだ忘れてないからね」


「うっ……それを言われると……」


「……よし。部屋に行こう」




 これで自分達の部屋から、音声をリアルタイムでチェックできる。我ながら素晴らしい機転だ。……盗聴は初犯である。誓って本当だ。




「……普通に歌ってるだけみたいね」


「まだ分からないよ。不測の事態に備えるのは番犬の責務だよ」


「あなたはいつから犬になったのよ……」




 暫く聞いていたが、二人の間に怪しい雰囲気はないように感じる。ただ和気あいあいと歌っているだけだ。……さすがにスマホの通話では彼の歌までは聞こえない。今度誘ってみよう。




「……さっき、ハーレムって言ってたわよね。あなたは本当にそれで良いの?」


「さぁ。私にも私の気持ちが分からない。ただ、他の子たちの恋路を閉ざす覚悟は私には無いってだけ。……私も、ハーレムが答えだと思ってる訳じゃない。それは逃げにすぎないのかもしれないけど……」


「まるで、彼ではなくあなたのハーレムみたいね。選べないのはあなたじゃない」


「ふふ……そうだね。決めるのは彼だよ。でも、あの人はかなりの甲斐性持ちだよ。むしろあの人は……一つところに縛られるような人じゃない」


「そう……私は、好きな人には自分だけを見てほしいわ……ねぇ、こっちを向いて?」




 思わず振り返ってしまった。瞬間、唇を奪われる。振り払おうとは思えなかった。大好きな人に受け入れて貰える喜びを知ってしまっているから。


 それに、大好きな人に振り向いて貰えない悲しみも。彼女は今、私よりずっと苦しくて、切なくて、不安で一杯だろう。


 そんな同情で、彼女とキスをした。私は最低の人間だ。




「……拒絶しないのね」


「そんな事をしたら、あなたがやけになって、彼に危険が及ぶ可能性があるでしょ」


「そんな事しないわよ」


「……ストーカーの言うことは信用できない」


「それ、あなたにだけは言われたくないわ。ふふ……私、やっぱりあなたの愛人でも良いわ。だめかしら……?」


「……」


「……ねぇ、もっとしていい?」


「一応監視カメラがある事忘れてない? それと、私はこれ聞いてるんだからあんまりうるさく……っ」




 言い終わる前にまた口を塞がれた。今度はすごく長い……身体のあちこちを触られる。嫌ではなかったので、 されるがままになった。




「……っはぁ……は、っ……」


「……あなた、優しすぎるわね」




 私も、自分が何を考えているのか分からない。というか、さっきからとっくに頭の中は真っ白だ。でもやっぱり、私は、最低だ。

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