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こじらせぼっちはハーレムエンドを目指さない  作者: 猫派
二章 このハーレムは重すぎる
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三節 一日逢わねば千秋



 冬の初めのある日の事だ。その日の放課後、彼は普段この季節には向かわないはずの校舎裏へと足を向けた。私は相方に部活を休む旨をメールで伝え、彼に着いて行った。


 彼は校舎裏にある旧部室棟脇がお気に入りで、暖かい日にはたまに昼寝をしている。その日も彼はその場所でコンクリートの段差に腰をすえると動かなくなった。


 私は建物の物陰から様子を伺っていた。旧部室棟は現在使われておらず、奥まった場所にあるため人通りもない。だからこそ彼がよく居着いている訳だが、その日に限っては人を避けてそこへ向かう彼の事が気になって仕方なかった。


 彼はしばらく待っても動かなかった。時刻は夕暮れ時を迎え、気温はますます下がる。吐く息が白く見えそうなほどだ。こんな中にいたら彼が風邪を引いてしまうと、少し心配だった。


 辺りが暗くなってきた。校舎の明かりがぼんやりと彼を照らす。よく見ると目を閉じているようだ。私は彼に近づいてみた。彼が目を開ける様子はない。寝ているのかもしれない。この寒い中で……


 近づいて、隣に座ってみる。50センチくらいの距離……彼が動く気配はない。彼は一体、何を思ってここへ来たのだろう? 一人になりたかったのだろうか。この都会にあって、一人になれる静かな場所というのは少ない。


 少しおかしな気分だった。私がずっと彼を見つめて、追いかけて過ごしている一方で、彼はこうしてひとり孤独と向き合っている。


 彼に放課後を一緒に過ごすような友達や彼女や、仲間はいない。それはきっととても空虚だと私は思う。友達との会話の代わりに、冷たい風の音と、遥か遠い喧騒が彼の世界を満たす。


 彼はもう、生きているのか分からなかった。彼の世界はもう、ずいぶん昔から変化をやめていた。それは彼自身が選んだ今であり、望んだ事かもしれないけど、彼には今、隣にいる人が必要だと思った。


 彼との距離を詰める。ゆっくりと近づく。その手を、握ってあげたいと思った。彼と私の手が触れる寸前……彼は目を開けた。




「あっ……」


「ん……? 君も、あれを見に来たのか……?」


「え……っあ、あの」


「……いや、すまん。何でもない。寝ぼけてた。君も、早く帰らないと風邪ひくぞ」


「あ、あなたは」


「俺は寒いのは好きなんだ……じゃあな」




 彼は校舎の方へと去って行った。私はしばらく呆然としてそれを眺めていたが、ふと思い直して彼のいた場所に座ってみた。


 そこからは、ボロいひさしとコンクリート塀の隙間から、もうすっかり葉を落としたソメイヨシノが、校舎の明かりに照らされているのが見えるばかりだった。



〜〜〜



「意外にお洒落な場所に来たわね」


「……そこの席が良いかな。座ろう」




 私たちは映画館から歩いて5分ほどの場所にあるカフェにいる。時刻はちょうど昼過ぎで、彼らはここでランチを食べるつもりのようだ。


 映画館からの移動距離は短いが大通りには面していない。昼時でも程よい人の入り方だった。ここも、あらかじめ決めていた場所であるようだ。恋愛映画を見た後、近くのカフェでランチ……なかなかちゃんとデートをしている。




「映画、面白かったわね」


「あぁ……うん」




 正直、あまりよく見ていなかった。




「私たちも何か食べる?」


「適当に選んで。私も同じので」


「……彼らは今、何の話をしているの?」


「映画の感想と……好きな本の話」


「あなたは、本は読む?」


「あまり読まないな。あなたは?」


「たまに読むわ。恋愛物や、ミステリーなんかをね」


「ふぅん……」


「……ねぇ、分からない事があるの。なぜあなたはこんな事をしているの? あなたの行動力なら、強引に彼を奪おうとすると思っていたのに」


「それは……私が手に入れたいのは、本当に彼自身なのかな、って思ったんだよ。私はね、彼の人生の一部でありたいんだと思う……彼女の事、本当は憎むべき存在のはずなのに、彼といる時の彼女は不思議と……愛おしいの」


「あんたは本当に……変な奴ね」


「私は、彼の生き方が好きなんだと思う。あの子は彼にとって大切な人だから……守るべき彼の一部だよ」


「そう……分かったわ」




 もう一度、彼の方を見る。まだ本の話をしているようだ。一年間彼を見つめてきた私には分かる。彼はとても楽しそうにしていた。彼女といると彼は、今まで見た事のないような表情を見せる事があるのだった。




「でも、尾行はするのね」


「もし万が一、間違いがあったら困るからね。それに、私だって身を引くつもりはないよ」


「じゃあ、どうするのよ?」


「道は一つ……ハーレムだよ!」

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